鈴木会長の決断が大きな動きに

2016年10月に開催された、トヨタの豊田社長とスズキの鈴木修会長による「両社提携検討」発表会見は、親子ほど歳の差がある両トップの妙な会見だった。提携は資本提携なのか業務提携なのか、具体的な提携内容も全てこれから検討というものだった。

提携の検討開始を発表する会見に登壇した豊田社長(左)と鈴木会長

ただ、先進技術の進化に対応するため、スズキがトヨタとの連携を望んで申し入れたのは確かで、スズキのカリスマである鈴木会長が、豊田社長の父君でトヨタ名誉会長の豊田章一郎氏に持ちかけたことがきっかけであることが会見で明確になった。そこに、スズキのトヨタグループ入りの決断があり、トヨタグループでのスズキの立ち位置の方向が見えてくる。

半世紀近くもスズキを率いてきた鈴木会長は、いまや世界市場で中国を凌ぐほどの成長性を獲得しつつあるインドにいち早く進出し、圧倒的なトップシェアを握るまで事業を拡大した立役者だ。国内では軽自動車に執念を燃やし、「ミスター軽自動車」とも言われる業界経営者の最長老である。

かつては米GMとの資本提携関係にあって、同氏はスズキの存在感をしっかりと保持してきた。GMがリーマンショックで米国政府の救済を受ける事態となり、同社との提携を解消した後には独フォルクスワーゲン(VW)との資本提携に動いたが、VWの覇権主義に反発し、長い国際係争の末にVWと離婚した経緯もある。

トヨタグループに入っても主体性を維持したいスズキ

鈴木会長も2017年1月30日には87歳を迎える。VWとの資本関係解消となった2015年夏には、社長の座を長男の俊宏氏に譲り、「生涯現役」を唱えながらも経営体制の移行を進めた。技術革新のメガトレンドが急進する中で、スズキの将来方向をトヨタグループ入りに決断したのも鈴木会長の経営勘であろう。2016年は軽自動車燃費データ問題もあり、全国の販売店行脚を精力的にこなしたが、2017年はトヨタとの具体的な提携の道を探ることになる。

そのカギを握るのは、鈴木会長とトヨタの『ドン』である豊田章一郎名誉会長との盟約とみる。つまり、豊田宗家の章一郎氏は、すでに表の経営から身を引いているが、トヨタにおける存在感は依然として強いものがある。両社が業務提携にとどまらず、資本提携に踏み込んだとしても、トヨタはグループにおけるスズキの主体性を尊重していくことになろう。トヨタとしても、A・Bセグメントの小型車協業や、アセアン・インドを軸とする競争基盤の確保、欧州低価格市場での相乗効果を狙い、2017年の早い時期に両社提携の内容も含めて発表に至りそうだ。