しなければならないことにあふれている毎日。たまには何も考えず、ただただぼーっとしていたい……そんな願いをかなえてくれるのが、熊本県人吉市にある温泉宿「人吉旅館」だ。

球磨川を臨む客室が自慢の人吉旅館

旅館自体が国の登録有形文化財に指定されているとあって、近代和風建築の良質な造りが美しい。さらに、清流・球磨川(くまがわ)沿いに配された客室では、川のせせらぎを肌で感じることができる。大人の現実逃避にぴったりな、魅力の空間をご紹介しよう。

レトロな雰囲気あふれる文化財の宿

昔ながらの建築を誇る中央棟

昭和初期に開業した人吉旅館の自慢はやはり、近代和風建築をそのままに残した建物の造りや装飾だ。あめ色に磨き上げられた柱ひとつとっても、創業当時から、旅館を大切に守ってきた歴史がうかがえる。

中でも特徴的なのは、窓の形状。ひし形が3つ重なったような「松皮菱」と呼ばれる形の障子窓は、当時の建築技術の高さを伝えている。

また、窓に使われている「大正ガラス」も今では手に入れるのが難しいとされる一品だそう。厚みが均一でないために、外の風景が少しゆがんだように見えるガラス窓が、レトロな雰囲気を演出している。

大正ガラスが使われた窓が続く廊下

外から差し込む光も松皮菱型に

球磨川を臨む、文句なしの眺めに感動!

美しいデザインの障子や床の間を配した客室

客室は、球磨川の景色を楽しめるよう、川沿いに配されていて、ひとたび部屋に入ると、昔ながらの和風の造りが旅人をほっとさせてくれる。

客室ごとに異なる趣向を凝らしたデザインにも注目。床の間や障子の装飾などをよくよく見てみると、職人の繊細な技術が光ったかわいらしい意匠が楽しめるのだ。

窓の方へ向かっていくと、オーシャンビューならぬ文句なしのリバービューが眼前に広がる。外の空気を感じたくて、思わず窓を全開にすると、鳥のさえずりが聞こえてきた。

川の流れは何時間見ていても飽きない。窓際のいすに腰掛け、景色を眺めていれば、日常の嫌なことだってあっという間に忘れられそうだ。

客室から球磨川とのどかな街並みを臨む

川のせせらぎも聞こえてきそうな距離

とろみのある泉質が魅力の源泉かけ流し湯

客室でたっぷりのんびりした後は、お待ちかねの温泉。源泉かけ流しなので、温泉自体は24時間利用が可能だ。美人の湯としても名高い人吉温泉の泉質は、無色透明でやわらかい。浴槽の中に腰をかけられるベンチがあるのもうれしい。

とろみのあるやわらかい泉質が自慢の温泉

温泉の近くには休憩室も設けられていて、ゆっくりとほてった体を休めることができる。

ゆっくりとくつろぐことができる休憩室も

地元の食材を味わって

温泉旅館のお楽しみのひとつ、夕食は食材にこだわった本格的な会席料理だった。紹介しきれないほど多彩なメニューとなっているが、中でも感動したのは人吉で育った「球磨の黒豚」の豚しゃぶだ。臭みがなく、口に入れると上質な脂の甘みが広がる。濃厚な味わいで、食べ終わった後も、豚肉のうまみが口の中に残る。

「球磨の黒豚」を存分に味わえる豚しゃぶ

また、この時期は鮎であったが、新鮮だからこそ可能な川魚の造りも楽しめる。熊本に行ったら絶対に食べたい、馬刺しももちろんラインナップに。鮎の内臓を加工した塩辛「鮎のウルカ」という珍味も、試してみてほしいメニューの1つだ。一品一品にこだわりがつまっているので、注目して味わってもらいたい。

地元の食材をふんだんに使った本格会席

「馬刺し」

「鮎の洗い、あしらい一式」(季節によって山魚の種類が異なる)

熊本・人吉の伝統と魅力がいっぱいつまった人吉旅館。1泊2食付き、1人1万2,700円(消費税、入湯税別/公式サイト限定プラン)から楽しめる。誰にも邪魔されず、現実逃避したい時には、オススメの宿。ぜひ訪れてみてほしい。

熊本・人吉の伝統と魅力を伝える人吉旅館

※記事中の情報・価格は2016年10月取材時のもの