「2016年10月26日水曜日午後3時、秋も深まってきたと思いきや最高気温26度とまだまだ夏日を記録する東京・台場のこちらフジテレビジョン本社V5スタジオには、スタッフはもちろん編成幹部ら関係者、取材陣に至るまで優に50人、いや60人、70人を数えましょうか。日曜ゴールデン新番組の初回収録とありまして、独特の緊張感に包まれておりますがおーっと!ここでADの『古舘伊知郎さん入られま~す!』の呼び込みがかかったー! この声に誘われ、私古舘は控室から一歩二歩、超激戦区と呼ばれる時間帯に足を踏み入れていくわけであります!」

フジテレビ系できょう6日にスタートする新バラエティ番組『フルタチさん』(毎週日曜19:00~20:54)。頭の中で実況するクセがあるというMCのフリーアナウンサー・古舘伊知郎は、同番組の初回収録に臨むにあたって、こんな脳内実況を繰り広げていたのかもしれない。

そんな華々しいスタジオだが、実は、古舘が本番中や取材会中に番組への"ダメ出し"を始めるという"異例づくし"の現場だった。本記事では、その模様をレポートしながら、古舘が目指すバラエティ像を探る。

収録開始25分で「VTR長過ぎません?」

『フルタチさん』MCの古舘伊知郎

本番がスタートするなり、「(前の時間帯の)『サザエさん』が終わって『フルタチさん』だなんて、新番組のタイトルからして破れかぶれのような気がしますけど」「今日は関係者めっちゃ多いじゃないですか。これね、1回1回減っていく可能性ありますよ!」「視聴者の方よりここにいる人数が多いかもしれない」と、まずは自虐コメントで笑いを取った古舘。

「ネタとして面白いのも面白くないのも混在してる可能性がある。初回からそんな充実してる番組なんて見たことないですよ。ぶつかりながら、へこたれながら頑張っていきたいと思います」と、オープニングトークで基本姿勢を示した。

この番組は、世の中の"ひっかかる"ことを取り上げ、VTRで検証し、それを受けてスタジオトークを繰り広げていくというのが大きな柱。初回のゲストには、森昌子、ミッツ・マングローブ、要潤、足立梨花、ビビる大木を迎え、森が自由奔放な言動を連発しても、古舘は「森さんの顔を見ると『夜のヒットスタジオ』を思い出しちゃう」となかなかツッコめずにいたが、探り探りながら、彼女のイジり方を徐々に習得していく。

そんな穏やかなムードで収録は進行していったが、開始25分が経過すると、最初のVTRからスタジオに戻ってきたところで、古舘が噛みついた。「VTRちょっと長過ぎません?」。自らのおしゃべりの時間を奪われるのを恐れたのか、「こういうダメ出しとか会議も、収録で入れていきますから」と宣言する。スタジオは笑いに包まれたが、古舘の目は本気だ。

その後も、古舘の好きなジャガイモを試食するコーナーにどこか不満顔で、びっくり映像を紹介するコーナーでも、イヤミたっぷりに「安牌(パイ)ですね」とひと言。挙句の果てには「ストレートに(すごい映像を)見たい視聴者は、(裏番組の)日テレ見てりゃいいんですよ」とも言い放った。

一体何が納得行かなかったのか。収録後に取材に応じた古舘は「テレビってやたら食べるじゃないですか。ただ普通にやってても、数多の番組と区別がつかない」と、報道陣を前にして、これまた異例のダメ出しを開始。マイナビニュースのインタビューで、新番組を「ケーキ戦争が渦巻いている銀座で、古ーい言問だんごのお店を開くんですよ」と表現していたが、バラエティの潮流に従わない番組づくりへの追求に、3時間という長丁場の収録を終えた直後でも余念がない。

『フルタチさん』(フジテレビ系、6日スタート 毎週日曜19:00~20:54)
"ひっかかる"をテーマに、日常で謎や疑問のまま過ぎていくことを、硬軟織り交ぜて取り上げて紹介していく番組。同じく古舘がメインを務める深夜番組『トーキングフルーツ』(8日スタート 毎週火曜24:25~24:55)との連動展開も想定されている。

ニュースを自由に斬る姿は実にイキイキ

では、その目指すべきバラエティというものを、どのようにイメージしているのか。古舘は「今、相当ネガディブにいろいろ考えています」と具体像まで固まっていないことを示しながら、12年間の報道キャスター経験を生かし、「もうちょっとニュース的なアングルのコーナーもあっていいかな」と構想を語った。

早速その場で、昨今のニュースを取り上げ、大麻取締法違反で逮捕された元女優・高樹沙耶に「みんなやってると思ってませんでした!?」、栃木・宇都宮の元自衛官の爆発自殺に「あれ何で"テロ"って言わないんですかね?」、ボブ・ディランと連絡が取れなかったノーベル賞の審査員に「ライブ会場で出待ちすればいいんですよ」とバッサリ。取材会とは思えないテンションと迫力で斬りまくるその姿は、実にイキイキしているように見えた。

それもそのはず、『報道ステーション』時代は、さまざまな"しがらみ"から、あの古舘伊知郎でも、なかなか自由にしゃべることができなかったそう。「ニュースが一辺倒にしか伝えないんですよね。やっぱり独自の視点でいろんなものを見ていきたいんで、そんな話も今後していきたい」と話し、バラエティに復帰したからこそが実現できる企画に、鉱脈を見出していきたいようだった。

しかし古舘は、ニュースを扱ったTBSのバラエティ特番『古舘がニュースでは聞けなかった10大質問!! だから直接聞いてみた』(9日19:56~)でMCを務め、フジテレビでも『ワイドナショー』や『バイキング』など、バラエティ目線で時事ネタを斬っていく番組がすでに存在している。

フジの宮道治朗編成局次長は「他局のバラエティとは一線を画す」と力を込めていたが、「ただのドバラエティだけじゃつまんない」と思いを共有する古舘と『フルタチさん』をどう作り上げていくのか。フジの亀山千広社長も「"古舘学校"で古舘さんからスタッフがテレビというものを学びながら」とダメ出しを歓迎しており、"ぶつかりながら、へこたれながら"という姿勢に期待を込めて、今後に注目していきたい。