これまでに紹介した地震学とは全く異なるアプローチで地震予測を試みている研究者もいる。それは統計学を用いた「地震予報」。統計数理研究所の尾形良彦名誉教授は、地震の発生確率を統計学で調べる研究を行っている。

統計による地震予測の確度

統計学とは、交通事故や病気の発生などを数学的に分析する手法。例えば交通事故なら、事故がいつ・どこで起きているのかをデータを集め分析し、起きやすい場所や時間帯のパターンをあぶりだすことで、ある場所で今後に事故が起こる確率を予測する仕組みだ。これを地震にも応用するという。

尾形名誉教授は、1926年からの数百万にもなる地震データを取得・解析し、2003年に自らの理論を記した論文を発表。尾形名誉教授が地震(M4以上の内陸地震)が起きやすいと予測した9つの場所のうち、実際に6地点でその後に大きな地震が起きたことも確認されている。

「地震がいつ起きやすいか」という点も尾形名誉教授は予測しようとしている。全国を10km四方に区切って解析すると、時間がたつにつれて地震の発生頻度が地域によって異なることがわかった。こうしたパターンを読み解き、ある地域で今後、どれだけ地震が起きやすいかを計算する数式を導き出した。天気予報のように、地震が起きる確率が刻々と変化する様子を見られるようにしたいと尾形名誉教授は考えている。

「地震活動というのは極めて統計的なアプローチをしないと、(地震活動の)背後にある物理的な要素はわかりません。できるだけ近い将来にこういうことが積み重なって(地震の)確率予報ができるとすれば、こういう努力なしには難しい」。

アメリカでは既にこの地震予報の一般公開に踏み切っている。アメリカ地質調査所では、統計学で得られた確率を「STEP(24時間地震予報)」として公開。過去に何度も巨大地震に見舞われているカリフォルニア州内において、24時間以内に何らかの被害をもたらす地震の起きる確率を示している。

現時点では、尾形名誉教授の「地震予報」はテスト段階でアメリカのように公表するのは難しいとの見解を日本地震学会の山岡会長は示している。また、日本の場合、地震予報公開が社会へどのような影響を及ぼすかがわからないため、その点もネックになっていると指摘した。

詳細な危険地域を明らかにすることの是非

番組の放映が終わると、賛否を含めた視聴者のさまざまな意見がインターネット上にあふれていた。

「構成も面白くて分かりやすい」「自治体関係者に見てほしい」「統計学の予測の確度がすごい」といった称賛のコメントが見られる一方で、批判的なコメントもあった。

例えば、地震大国の日本で特定の地域名を明らかにしたうえで「危険」とすることへの批判や、熊本地震の映像やクオリティーの高いシミュレーション映像が、東日本大震災や熊本地震などで被災した人たちに悪夢を蘇らせてしまうのではないかといった趣旨のコメントが一例だ。

また、「確率をどのように使うかの話に進まなかったのが、今回のNHKスペシャルの欠陥」といったように、地震の確率について触れておきながら、その「確率」がもたらす明確な定義や、その確率の実際の減災・防災への応用術に触れていなかったことを残念がる意見も見られた。

確かに今回、糸魚川-静岡構造線断層帯と長町-利府線断層帯を「大地震が起きる確率が高いと考えられる」と紹介したことは、周辺地域に住む人たちに恐怖を与えたことが予想される。報道機関として、「今そこにある危機」を詳細に伝えるか否かの判断は、特に地震のように予測が難しいものが対象の場合は難しいだろう。

今回のように具体的な危険地域を伝えたことによるメリット・デメリットのとらえ方は、人によって異なる。防災意識を今まで以上に高める人もいれば、「なぜいたずらに恐怖をあおるのか」と感じる人もいるはずだ。

ただ、日本地震学会の山岡会長は地震予測について、「確実な予測は難しいがまったくできないわけではない」と断ったうえで、このように言葉を結んでいる。

「少しでもできることを防災に役立てていきたいというのが、実際に現場の研究者たちの心にあるんですね。『(予測が)確実でなければだめだ』というのであれば、何もできない。少しでもわかることは情報として出していって、それを災害軽減に役立てる方法を考えてほしいなと思いますね」。

※写真と本文は関係ありません