2016年5月6日より3週間完全限定で公開される劇場アニメ3部作『亜人-衝突-』。漫画雑誌『good!アフタヌーン』(講談社)にて連載中の同タイトルを原作とした本作品は、決して死なない新人類・亜人と、亜人を追う日本国政府の戦いを描いている。2015年11月27日に劇場第1部『亜人-衝動-』が公開され、2016年1月からはテレビアニメ化、そして2016年5月6日には、劇場第2部の公開と同日発売の原作コミックス8巻限定版に本編より過去のエピソード「中村慎也事件」を収録したDVDが付属するなど、様々な展開をみせている。

左から梶裕貴、宮野真守

今回は、5月6日に上映する劇場版第2部『亜人 -衝突-』の主人公・永井圭役の宮野真守と、同日発売のコミックス8巻限定版に収録された「中村慎也事件」の主人公・中村慎也役の梶裕貴に、それぞれの作品の見どころや、亜人役を演じるにあたっての心境を訊いた。

圭は慎也を利用します

――本編の主人公・永井圭は人並み外れた頭脳と記憶力の良さを持つ天才ですが、妹の慧理子からはクズと呼ばれたりするほどの利己的な人間として描かれています。

宮野 圭は非常に頭が良くて、自分の目的のためなら、時に冷酷に判断を下していける人格なんです。そんな彼の行動にびっくりすることはあります。クズと言われてしまっていますが、本質的な部分は人間らしく、現代の若者を象徴している気もして、ある意味共感しています。ですので演じるときは、クズに見える部分を膨らませるのではなく、「なぜクズに見えてしまうのか」という本質を捉えるよう意識しています。

――中村慎也は、『亜人』本編には回想シーンで登場し、永井圭が亜人と発覚したころには、すでに「中村慎也事件」として過去の扱いになっていますが、どういったキャラクターなのでしょうか?

 慎也は圭と違って、ごく普通の大学生なんです。当たり前のように大学に通い、男友達と遊び、女の子に恋をして、日常生活を送っている。でも、バイク事故で自らが亜人ということに気付き、どのように周りと接していけばいいのかわからず悩んでいきます。

――圭が亜人だと発覚したときは即座に指名手配され、幼なじみの海斗と逃亡していましたが、慎也が亜人だと発覚したときは、まず友人の祐介に打ち明けるかどうかを悩む、という展開でしたね。非日常の世界に飛び込んだ圭と、まるで日常の延長線上のような悩みとして展開していく慎也の対比は面白かった。

 慎也にはまた本編でも登場して欲しいと、強く願います(笑)。『亜人』という世界の中でも重要な人物のはずですしね。

――もし圭と慎也が出会ったら?

 うまく丸め込まれそうですね。……悪く言うと、利用されると思います(笑)。

宮野 そうですね、最大限利用すると思います! 圭にとってはある意味自分自身も、敵対するテロリストの亜人・佐藤を倒すためのコマなので。それは仲間である中野攻もそうです。

親友の存在が支えになった

――不死であること以外は人間と変わらない亜人。難しい役だとは思いますが、瀬下寛之総監督から演じ方についてのアドバイスはありましたか?

宮野 正直に言いますと、捉えがたい役だと思います。まだ原作が完結していないので、圭が目指す場所や本心について、演じる上で戸惑う部分は数多くありました。演じているうちにわからなくなってしまうことも……。そんなときに瀬下総監督が思い描く永井圭像や、アニメーションでの『亜人』という物語の終着点を聞かせていただき、そこで納得して、視界が開けました。

――ちなみに、どういったことをお聞きしたのでしょうか?

宮野 答えをいまここで言うのはもったいないです! まだ『第2部』も『第3部』も残ってますしね。観てのお楽しみ、ということで(笑)。

 僕は宮野さんとは真逆だったかもしれません。「中村慎也事件」は、現段階では1話で完結しているエピソードなので、僕が原作を読んで感じた中村慎也というキャラクターを、まずはそのまま表現させていただきました。

――特に具体的な演技指導などはなく?

 なかったですね。僕が思い描いていた中村慎也像と、スタッフのみなさんのイメージがうまく合致してくれたのかと思います。慎也についてはこのエピソードのあとにどうなったのかもわからないですし、そもそも細かいバックボーンは描かれていないので、その時々のリアクションを大切にして、人間らしい感情で生々しく表現していく、といったことを軸にお芝居させていただきました。

――人間らしいという意味では、圭には海斗、慎也には祐介と、二人とも友人に恵まれていました。亜人だと発覚したあとでも変わらず接してくれた友人の存在は大きな支えになったのではないかと思います。

宮野 本編と「中村慎也事件」共通して圭と慎也の救いになっているのは、親友の存在だと思います。

 慎也にとっても、親友である祐介の存在がとても大きいと思います。男同士の"雑な優しさ"ではあるのですが、窮地に立たされたときに、そのひとつひとつが身にしみる。祐介の存在は大きかったんだなと改めて思いました。ご覧いただければ、それはきっと視聴者のみなさんも感じていただけると思います。

宮野 圭は、ピンチになるたびに思い出すのが海斗なんですよ。

――確かに。親や妹ではないですね。

宮野 そこに情を感じました。圭の中には、子どものころに海斗と過ごした日々が宝物として残っているんです。あのころの気持ちは嘘ではない。海斗は、圭を形成する上で非常に重要な存在ですね。

――中野攻はどうですか?

宮野 中野攻は、海斗とはまた違った方向性の相手だと思います。『亜人』の主人公は永井圭ですが、決していわゆる普通のアニメの主人公が持っているような絶対的な正義感はない。それを持っているのは中野攻かもしれない。正義感があって、自分の気持ちをまっすぐ口に出せるところが主人公気質ですよね(笑)。

――『第2部』では、圭がピンチに陥ったときに、中野攻に対して「まさか!」といった行動を取っていますよね。あれには驚きました。

宮野 圭は中野攻に少なからず影響を受けていますよね。『第2部』で印象的なのは、中野攻の明るいオーラに引きずられるように出てくる圭の表情です。面白い関係性ですよね。福山潤さんが魅力的に演じてくれているので、二人ならではの掛け合いを引き出してもらったのも大きいと思います。

永井圭

中村慎也

圭のすごいところは「だったら」

――TVシリーズの『亜人』は4月9日で最終回を迎えました。TVシリーズと劇場版は同じストーリーで展開していきますが、それぞれの魅力は?

宮野 劇場版はTVシリーズの単純な再編集版ではないので、併せて観ることで、より『亜人』という世界観を理解できるかなと思います。まず、『第1部』が公開されて、『第1部』のストーリーを補完するかのようにTVシリーズがはじまりました。そして、TVシリーズのその先まで『第2部』は描いている。ずっと飽きないで観ていられる、巧みな作りになっています。

――『第2部』を観て、いかがでしたか。

宮野 収録は、台詞を先に収録してからアニメーションを作成するプレスコという方法を採用しているので、完成品を観たときは、絵に合わせて芝居をするアフレコとはまた違った感動がありました。プレスコでは、監督が僕たちキャストの細かい演技の息遣いや空気感、間合いを取りこぼさず絵にしたいと言ってくださったのが印象的でした。

 自分のリズムやテンポに合わせて自由にお芝居をさせていただけたので、、本当に楽しかったです。あとでアニメを作るのが大変なんじゃないかな……と、どこか申し訳ない気持ちにもなりながらの収録でした(笑)。

――『第1部』の圭は自らが亜人ということに対しての葛藤があった。でも、『第2部』の圭は違う。大きな心情変化がありました。

宮野 圭たちは、亜人というだけで指名手配されてしまう。本当に理不尽だと思います。「なんで僕が」という台詞は本当に印象的でした。『第1部』では自分が亜人という事実を受け止めきれなくて、心を乱す圭の不安な心情が伝わったかと思います。『第2部』で圭が一番変わったことは「自分が亜人であることを受け入れた」ということですね。圭のすごいところは「だったら」と切り替えられることです。「自分が亜人だったら、静かに暮らすためにはどうすればいいか」、「静かに暮らすことが叶わないんだったら、自らを脅かす佐藤を打倒しよう」と、状況に応じて次々と考えを切り替えていく。もしかしたら、『第1部』から『第2部』で、圭の印象がガラッと変わったなと思う方もいるかもしれないのですが、そうではないんです。どちらも圭の本質だと、僕は思っています。

劇場アニメ3部作 第2部『亜人-衝突-』は5月6日より3週間完全限定で公開。

(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会