4月8日までイレギュラー放送される『東京センチメンタル』(テレビ東京系)を除いて、冬ドラマが全て終了。平均視聴率が2ケタを超えたのは、『スペシャリスト』(テレビ朝日系)12.7%と『怪盗山猫』(日本テレビ系)10.9%の2作だけと軒並み苦戦したが、決して駄作が多かったわけではない。

低視聴率を報じるニュースがYahoo!ニュースにあがる度に、ドラマを見ていた人々から「こんなに面白いのに」「視聴率って意味あるの?」という疑問の声が続出。特に、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、以下『いつ恋』に略)、『お義父さんと呼ばせて』(フジテレビ系)、『ダメな私に恋してください』(TBS系、以下『ダメ恋』に略)、『ナオミとカナコ』(フジテレビ系)、『わたしを離さないで』(TBS系)、『家族ノカタチ』(TBS系)の6本は擁護の声が多かった。

ここでは「視聴率という指標の限界」「連ドラに多様性が戻ってきた」「切ないラブストーリーにドキドキ」という3つのポイントから冬ドラマを検証し、全18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

左から高畑淳子、高良健吾、内田有紀

■ポイント1:視聴率という指標の限界

前述の通り、全般的に視聴率は低迷。昨年の秋ドラマが軒並み高視聴率だったことに加え、冬ドラマは在宅率の高さから「最も高視聴率が期待できる」と言われているだけに、ショックを受けた関係者は多い。

低視聴率に終わった最大の理由は、ヘビーな世界観の作品が多かったこと。毎回、殺人事件が起こる刑事モノに加え、若者の貧困や世間の冷たさを描いた『いつ恋』、夫殺しの犯罪をテーマにした『ナオミとカナコ』、クローンや臓器移植を扱った『わたしを離さないで』などシリアスなトーンの作品が多く、思わず目を背けてしまうようなシーンもあった。

テレビ番組全体の視聴率が下がる中、リアルタイム視聴を促すために「明るい」「スカッと解決」の作品が増えて久しいが、今期はその流れを無視したようなラインナップだったと言える。「暗く」「考えさせられる」作品なのだから、リアルタイム視聴ではなく「録画してじっくり見る」人が多かったのは間違いない。

ヘビーな世界観の作品は、人間心理を丁寧に描いたドラマ性の高いものが多く、視聴者は「セリフを聞き逃さないように」「表情の変化や伏線に気づけるように」録画して見るのがセオリー。つまり、視聴者の思い入れが強い連ドラほど録画視聴が増え、視聴率は落ちる」「視聴率重視のままでは、明るくスカッとするドラマばかりになる」という現実からいよいよ逃れられなくなっているのだ。

■ポイント2:連ドラに多様性が戻ってきた

ここ数年、視聴率を追うあまり刑事モノや医療モノが多かったが、今期はラブコメの『ダメ恋』、ホームドラマの『家族ノカタチ』、社会派ファンタジーの『わたしを離さないで』、クライムサスペンスの『ナオミとカナコ』、異色時代劇の『ちかえもん』など、さまざまなジャンルの作品が見られた。

すると必然的に"一話完結型"だけでなく、3カ月かけて大テーマを追う"全話継続型"が増えて、「続きが気になる」連ドラの醍醐味が復活。力のある脚本家たちが、確固たる意志を持ってそれぞれのジャンルを貫くことで、好みの差はあれど視聴者の心に深く訴えかけるような良作が多かった。

視聴者の思い入れは、人間くさいキャラの多かった主人公だけでなく、脇役たちが愛されていたことからも分かる。『いつ恋』の朝陽(西島隆弘)、晴太(坂口健太郎)、木穂子(高畑充希)。『ダメ恋』の最上(三浦翔平)、晶(野波麻帆)。『フラジャイル』の智尋(武井咲)、森井(野村周平)。『家族ノカタチ』の陽三(西田敏行)、浩太(高田彪我)らへの共感や応援の声が目立った。

また、優しいキャラが多い中、『ナオミとカナコ』の李社長(高畑淳子)、陽子(吉田羊)。『お義父さんと呼ばせて』の砂清水(山崎育三郎)、昭栄(品川徹)などのぶっ飛んだキャラも愛されたことは、良作が多かった証明と言える。

■ポイント3:切ないラブストーリーにドキドキ

週を追うごとに、『いつ恋』の苦しくもピュアな恋と、『ダメ恋』のほのぼのとした三角関係にハマる人が続出。ネット上の書き込みはヒートアップし、見逃し配信サイト『TVer』の再生回数も増えていった。

告白のセリフや何気ない行動の1つ1つに胸キュンするなど、感情移入しながら見る人が多かったのは、「ラブストーリーにかつての熱気が戻ってきた」ことの表れ。このところ恋愛映画のヒット作も多く、月9が「恋愛ドラマを見る枠」に戻り、多様な恋愛模様を描いた朝ドラ『あさが来た』も全週視聴率20%を超えるなど、ニーズがあることは明らかだ。

今期は『いつ恋』『ダメ恋』だけでなく、『お義父さんと呼ばせて』の年の差愛、『わたしを離さないで』の絶望的な環境で育む愛、『スミカスミレ』の若返りのファンタジーを通した愛など、さまざまな愛の形が描かれた。テレビ離れが叫ばれる若年層を取り込むためにも、しばらくは"恋愛ドラマ回帰"の流れが続くのではないか。


全作の全話を見た結果、冬ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『ちかえもん』。遊び心あふれる脚本・演出で時代劇の娯楽性を発掘・追求し、怒涛の展開でアッと言わせた最終回は出色だった。

『いつ恋』は周辺人物の描き方に荒さこそあったが、主演コンビの恋を応援させるラブストーリーの肝はしっかり。坂元裕二らしいドラマ史に残る名ゼリフも見られた。 『お義父さんと呼ばせて』は、脱力ムードの中にこだわりとサービス精神を詰め込んだ高品質な作品。視聴率とはかけ離れたところに、連ドラの魅力があることを再認識させられた。

さらに、「思い切ったチャレンジ」と「最後までやり切る強い意志」という面で、『家族ノカタチ』『ナオミとカナコ』『わたしを離さないで』をたたえておきたい。

男優では、完璧な役作りを見せた『いつ恋』の高良健吾と『ちかえもん』の青木崇高。ともに「この人以外は考えられない」と思わせるほどのハマリ役だった。女優では、陰のある女性を好演した『ナオミとカナコ』の内田有紀と『家族ノカタチ』の上野樹里。作品のコンセプトを体現するような演技で、共演者を引っ張っていた。

【最優秀作品】『ちかえもん』 次点-『いつ恋』『お義父さんと呼ばせて』
【最優秀演出】『家族ノカタチ』 次点-『ちかえもん』
【最優秀脚本】『ちかえもん』 次点-『いつ恋』
【最優秀主演男優】高良健吾(『いつ恋』) 次点-青木崇高(『ちかえもん』)
【最優秀主演女優】内田有紀(『ナオミとカナコ』) 次点-上野樹里(『家族ノカタチ』)
【最優秀助演男優】三浦翔平(『ダメ恋』) 次点-品川徹(『お義父さんと呼ばせて』)
【最優秀助演女優】高畑淳子(『ナオミとカナコ』) 次点-野波麻帆(『ダメ恋』)
【最優秀若手俳優】中井ノエミ(『わたしを離さないで』) 葵わかな(『マネーの天使』)