10月は、2015年の中で最もガンダム関連のトピックが集中した月だった。『鉄血のオルフェンズ』の放送開始、日経総力戦で挑んだガンダム特集、富野由悠季氏、安彦良和氏、大河原邦男氏の3巨頭が揃い立った東京国際映画祭、実物大ガンダムを動かす「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメ化発表――そして、そのラストを飾ったのは、10月31日より劇場上映がスタートした『機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア』である。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア』より

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、第1作『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー/アニメーターの安彦氏による、同名の漫画をアニメ化した作品。後に"赤い彗星"と呼ばれるシャア・アズナブル(キャスバル)と妹のセイラ・マス(アルテイシア)の兄妹を物語の中心に据え、全4話構成でジオン独立戦争の開戦に至る物語が描かれている。第1話では、安彦氏の"画"の再現性の高さと第1作『機動戦士ガンダム』正史に隠れた前日譚の第一歩が踏み出され、大きな絶賛を持って迎えられた。

そして公開された今回の第2話は、安彦氏が紡ぐ物語の中でも特にオリジナル性が高く、もともと『機動戦士ガンダム』に備わっていた多角的な人物描写、所謂"人間ドラマ"がよりわかりやすい形で強調されている。淡々としながらも、正史の持つ強さが物語の歴史性に光を当てており、安彦氏が本インタビューの中で語る「ガンダムは歴史物語」の根幹が見える。これは『王道の狗』や『虹色のトロツキー』といった歴史や神話を題材とした作品を作り続けてきた安彦氏ならではの描きといえるだろう。

ファンだけでなく、新たな世代にも『ガンダム』を観て欲しいと語った安彦氏。25年ぶりに総監督という立場でアニメの現場に復帰した同氏は、今何を思うのか? 本作はもちろん、『ガンダム』の持つ特殊性、しいては現在のアニメ界や若きアニメーターたちへのメッセージ、"画"を描くということ――安彦総監督は、一つひとつ確認するように言葉を選びながら、質問に答えていった。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア』を手がけた安彦良和総監督
撮影:伊藤圭

――目下第3話の制作が進んでいる中かと思いますが、全4話構成の折り返し地点まできました。まずは第2話の完成を迎えた率直なご感想をお聞かせください。

一つの節目なのでほっとしながらも、スタッフが非常に良い仕事をしてくれて大変満足しています。僕の仕事はおいしい役どころで、家にこもって絵コンテを切ったりチェックをするだけで、おそらく修羅場であろうスタジオを離れて、自宅でマイペースにやっていたのですけれど(笑)。

――総監督のお立場ならではですね(笑)。『哀しみのアルテイシア』は、シャア・セイラ編の中でも特に安彦先生のオリジナル性が強い物語です。

キャスバルとアルテイシアは、ジオン本国から亡命してきて非常に不幸なというか、シビアな体験をさせられることになります。特に、キャスバルの人格の方向性が決定づけられていく部分がうまく伝わればいいなと。二人はアストライア(母親)の死を非常に悲しむけれども、哀しみの方向が違う。妹のアルテイシアは、それに耐えて生きていこうとする。一方の兄キャスバルは決定的に傷つき、ある意味で精神がいびつになっていく。それが兄妹の、そしてガンダム本編での食い違いへそのまま繋がっていくことになります。

――安彦先生は兼ねてから「シャアは本来ネガティブなキャラクターなのに、ブームの中でポジティブに受け止められ、これはメッセージの誤読」と仰っていました。本作の中でその"ネガティブ"を強調した部分はありますか?

第2話の物語の終盤で、キャスバルが学校の校長に「エドワウ君の教育は私どもには…」、さらには「こわいのです」「恐ろしいのです」とまで言われてしまい、養親のドン・テアボロが「そんなことはない!」と反発するんだけれども、実際に目の前でキャスバルの粗暴な一面を見せつけられてしまう。そして、あのシーンを経てドン・テアボロが、キャスバルが家を出ることを承諾したということは、彼もそこで"親であること"を放棄したことになるんです。校長先生に続いてね。ここでは、キャスバルという存在の並外れた部分と、ネガティブな部分との両面を強く描いたつもりです。

――シャアというキャラクターの内面を語る時「ザビ家への復讐」がフォーカスされがちですが、第2話を観ると彼を決定的に変えたのは父ダイクンの死ではなく、母アストライアの死であることを強く感じました。母の死を知ったシーンは、漫画原作よりさらに暗く、重さが強調されて見えます。

キャスバルがシャアへ、あるいは違う"何か"に変わってしまうきっかけはどこにあったのか。それは、やはりアストライアの死にある。おっしゃるとおり、ダイクンではないと思っています。その母の死で生まれた歪みが、復讐の意思に変換されていく。この時点でキャスバルには、後のシャアの原型が形づくられていたことになります。このシーンを観て、映像はやはり強いなと。だから、基本僕の漫画をなぞってはいるんだけれども、映像の強さを再認識しました。

――そのキャスバルについて、安彦先生は第1話の公開時に「第2話の目玉は池田さんが15歳のキャスバル少年を演じること」と仰っていました。完成した本作を観ると、確かに「本当に池田さん?」と思うほど、これまでと毛色が違う演技でした。

実は相当不安だったんですよ。正直エドワウの声が出るかな、とも思っていました。しかしそれは杞憂で、池田さんは不安どころか我々と作品にしっかりと応えてくれた……すごく若い声だよね。これはもうオープンに言っていることですが、一回目のアフレコで録音監督も僕もOKを出しているんです。これでいけると僕も思っていた。

しかし、後日池田さんからもう一度録りたいという申し出がありまして。これは、池田さん一人のオンリー録音なんですよ。一回目でもいけたのになあ……って僕は言っていたんだけれど、実際に録ってみると確かに二回目の方がいい。本編で使われているのは、この二回目です。決して少なくない量ですよ……。そういう意欲を見せてくれたことに僕はすごく感動しました。最初のアフレコの時、池田さんに「昨夜は(酒を)飲まなかったの?」と聞いたら、「一カ月酒絶ちしているんです」と答えて驚嘆しました。でも、二回目がうまくいったのは、前の日に一杯飲んだのがよかったのかもしれないと(笑)。