10月22日~31日の会期で開催されている「第28回東京国際映画祭」の特集上映「ガンダムとその世界」のトークショーが23日、都内にて行われ、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季総監督らが登壇した。

左から富野由悠季総監督、落合陽一氏、小形尚弘氏

富野監督が手がけたTVアニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』上映後に行われたこの日イベントには、対談相手としてメディアアーティストとしても知られる筑波大学助教授の落合陽一氏、進行役として同作プロデューサーの小形尚弘氏が参加した。

「機動戦士ガンダム」シリーズの大ファンであり、作品と出会った原体験から得た「どうやって人類を革新するか」ということが現在の研究や創作の動機にもなっているという落合氏。同氏がメディア研究において第一線で活躍する人物であることはもちろん、今回富野監督が落合氏を対談相手に選んだことには、富野監督が『G-レコ』をめぐって子供たちへのメッセージをこめた作品であるという趣旨で繰り返していた発言"大人は見るな"の真意にも通じる、落合氏が子供時代の『ガンダム』の種が実を結んだ象徴的な人物であるためではないかという印象を与えた。

トークショーでは、落合氏の刺激的な予測に触発される形で富野氏が論を展開。『G-レコ』に込めた思いや意図が詳らかにされながらも、一つ一つの問題に対して両極の立場に立つ富野監督の視点には、『ガンダム』でも地球連邦軍とジオン公国軍という両サイドでドラマを展開してきた氏ならではのバランス感覚が感じられた。本稿では、繰り広げられたトークの一部を紹介したい。

『ガンダム Gのレコンギスタ』より

富野監督:落合先生は、映画祭の一環であるこのイベントに一番連れて来ては行けない人なんです。すごくわかりやすく言うと、「もう映像の時代は終わったんだよ」ということを平気で言っている人。先ほど紹介の際に流れた作品も、一見映像とは関係ない研究のように見えますが、そうではなく、どのように見えるものとして具体的な形で表すかということを研究なさっている方で、おそらく日本ではこのジャンルの第一人者です。そして、ありがたいことにガンダムファンでもあります。

落合氏:僕は1987年生まれなので、一番最初に見たのは『機動戦士Vガンダム』でした。当時は、なんで首がすっとぶんだろう……などと思いながら見てました。

小形氏:落合さんが11月に出される新著『魔法の世紀』では、「20世紀の"映像の世紀"というものが、20世紀で終わったのではないか」というのがメインテーマになっています。そのあたりをご説明お願いします。

落合氏:ここでいう"映像"は、"マスメディア装置としての映像"という意味です。20世紀は映像の力がものすごく大きくて、例えば、(20世紀には)松田聖子のことをメディアを通じて100万人が知っているから100万枚CDが売れていたような時代でした。でも今は、AKB48が1回の握手を100万人とすることで、1対1の関係性を100万個作ることによってものを売ろうとしていたりと、「メディアの特性」というものが、"映像の時代"のパラダイム(認識の枠組み)から今の時代のパラダイムになって崩れてきたと見ています。

それが何によって崩れてきたかというと、僕はそれがコンピューターによってもたらされたと考えていています。インターネットとモバイル機器の発達で、我々はもはやもう少しで魔法に届くような世界に生きているわけです。そのなかで、映像ではなくて新しいビジョンにのっとって次の21世紀を考えなくてはいけないのではないかというという話です。

小形氏:コンピューターによって、こういった変革が大きくなったということなのですが、実際にディズニーも『アナと雪の女王』はCGに進み、今度は宮﨑駿監督もCGの映画を作ろうとしています。そんな中、『G-レコ』はいまだに手書きのアニメーションでやっている。監督、これはどういうことなんでしょう?

富野監督:だから富野は馬鹿だよね。「しょうがないからやっている」という、突き放したような言い方もできます。けれども、あえて偉そうな言い方をすると、20世紀が作り上げてきたある特定の文化があるから、やっぱりそこで遺産になるような作品を作っておきたい。そして、『G-レコ』でそれをやってみせるぞという気概はありました。