全19作品がそろった2015年の夏ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。

別記事(夏ドラマにはなぜ若手俳優の抜てきが多いのか? 各局カラーも鮮明に - 2015年夏ドラマ19作の傾向を徹底分析)において、夏ドラマの主な傾向を[1]各局のカラーが鮮明に [2]熱血お仕事モノがズラリ [3]アラフィフ主演と20代お騒がせ女子 [4]若手俳優の抜擢ラッシュ [5]マンガ実写化をめぐる賛否両論 の5つと分析。

オススメドラマとして、第1位『民王』(テレビ朝日系 金曜23時15分)、第2位『表参道高校合唱部!』(TBS系 金曜22時)、第3位『探偵の探偵』(フジテレビ系 木曜22時)、第4位『ど根性ガエル』(日本テレビ系 土曜21時)を選びました。

本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していきます。

左から本田翼、杏、北川景子

『恋仲』 月曜21時~ フジテレビ系

出演者:福士蒼汰、本田翼、野村周平ほか
寸評:「月9の王道ラブストーリー」というコンセプトだが、同級生の三角関係は隔世の感アリ。ファンタジーなのか、リアルなのか、狙いがわかりにくく、ターゲットもはっきりしなかった。メインの3人は感情表現の小さいタイプだけに、よほど脚本で盛り上げなければドラマティックな展開にならないかも。急仕上げなのか、演出も荒削り。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆☆】

『HEAT』 火曜22時~ フジテレビ系

出演者:AKIRA、栗山千明、佐藤隆太ほか
寸評:映画化も発表されたが、視聴率は初回から超低空飛行。「AKIRA=熱い男」の既視感が敬遠されたのか、それともビジネスや地域活動を絡めて欲張った脚本が裏目に出たのか。いずれにしても気がかりなのは肝心の消防シーンが少なく、力強さを感じないこと。「主人公をどう魅力的に描くか」も含め、巻き返しに向けて整理したい点は多い。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『ホテルコンシェルジュ』 火曜22時~ TBS系

出演者:西内まりや、三浦翔平、高橋克典ほか
寸評:コンシェルジュの世界観は、いかにも現代的なテーマだが、「一生懸命で不器用なヒロイン」というコンセプトは、もはやクラシック。西内は全力の演技を披露しているものの、やはり高級ホテルスタッフの佇まいはなく、それは脇の俳優も同じ。各話を盛り上げる宿泊者が、名作『ホテル』で見たようなタイプばかりなのも気になる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『刑事7人』 水曜21時~ テレビ朝日系

出演者:東山紀之、高嶋政宏、片岡愛之助ほか
寸評:最大の魅力は、実績十分のキャストを7人もそろえたこと。ただ、存在感の割に出番が少ないメンバーが多く、消化不良感が東山の両肩に重くのしかかる。そのキャラは『遺留捜査』の糸川に近いだけに、今後どう違いを出していけるか。各話の事件や解決方法は、よく言えばテレ朝らしい安定感、わるく言えばマンネリ感が強い。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『花咲舞が黙ってない』 水曜22時~ 日本テレビ系

出演者:杏、上川隆也、生瀬勝久ほか
寸評:第1弾から「あえて変えない」というコンセプト。舞の恋や結婚というサイドストーリーこそあるものの、それはご愛きょう。杏と上川がテンポのいいかけ合いをしながら、銀行絡みの悪者を退治する展開に変化なし。「結果がわかった上で楽しむタイプのドラマ」だけに、ポイントは週替わりの悪役。毎週さまざまな悪人面が期待できる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『リスクの神様』 水曜22時~ フジテレビ系

出演者:堤真一、戸田恵梨香、森田剛ほか
寸評:「危機管理」は視聴者にとって身近である上に、ほぼ未開拓の好ジャンル。電化製品の発火、食品異物混入、異性スキャンダルなど、ワイドショーでよく見るネタの選択で見やすい。ただ、謝罪や示談などに至るまでの葛藤や、終息後の描写をあまり掘り下げないのはなぜか。「神様」である堤の活躍が描きにくい役柄なのも歯がゆいところ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『最強のふたり~京都府警 特別捜査班』 木曜20時~ テレビ朝日系

出演者:橋爪功、名取裕子、和田正人ほか
寸評:テレ朝が誇る名シリーズの巨頭が夢の共演。といえば聞こえがいいが、それが足し算になるとは限らない。2人がいるだけで事件のムードが漂い、人情も笑いも感じ取れるが、欲張った分だけ2人の魅力が分散されているのも確か。東雲ネットワークは、1時間で事件を解決するための反則技であり、これを使わない脚本にも期待したい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『まんまこと~麻之助裁定帳』 木曜20時~ NHK

出演者:福士誠治、南沢奈央、市川由衣ほか
寸評:このところ熟年路線だった木曜時代劇が若手主演に回帰。時代劇に慣れている福士は、遊び心さえ感じる振る舞いで、クライマックスの裁定シーンも堂々と演じている。注目したいのは、恋の三角関係よりも、男同士のチームワーク。桐山と趙を含めた色気ある3人の若手俳優がカッコよさとだらしなさの両面で盛り上げてくれそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『37.5℃の涙』 木曜21時~ TBS系

出演者:蓮佛美沙子、成宮寛貴、速水もこみちほか
寸評:静かな演技に定評のある蓮佛がテーマにハマっているが、それだけに感情移入できるか、冷めた目で見られるかは紙一重。かつての昼ドラ『愛の劇場』を思わせる内容だけに、見る人を選ぶ作品とも言える。華を添えるべく、成宮、速水、藤木のイケメントリオを配置したが、恋愛を絡めて病児保育士というテーマがブレないか、やや不安。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『エイジハラスメント』 木曜21時~ テレビ朝日系

出演者:武井咲、稲森いずみ、小泉孝太郎ほか
寸評:「五寸釘」に象徴されるように、いかにもコンセプトベースで作られたドラマ。ただ、どんな悪役を用意しても、生意気な新人に肩入れできる視聴者は少なく、共感も応援もできないムードが漂っている。ハラスメントをする側のセリフも、どこかで見たようなステレオタイプなものが多い。粘着質なキャラ設定は、いかにも内館脚本らしい。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『探偵の探偵』 木曜22時~ フジテレビ系

出演者:北川景子、川口春奈、井浦新ほか
寸評:これまでヒーローとして描かれ続けた探偵を悪とみなすコンセプトが新鮮。ヒロインがハードに痛めつけられるシーンが多く、ピンチの連続なのも最近のドラマでは珍しい。ポイントは、『アンフェア』のように事件をうまく連鎖させて、視聴者の興味を持続させられるか。民放では絶滅気味のシリアスミステリーであり、期待は大きい。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『婚活刑事』 木曜23時59分~ 日本テレビ系

出演者:伊藤歩、小池徹平ほか
寸評:「いきなり恋に落ちる主人公」も、「その瞬間に犯人がわかる展開」も、既視感というより、深夜ドラマならでは様式美。「食べるだけの深夜ドラマ」と同じように、思考停止して過ごしたい人にはちょうどいいさじ加減に。伊藤はこれまで薄幸な役が多かったが、今回は思い切り不幸。コメディエンヌとしてひと皮むけるきっかけになるか。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『僕らプレーボーイズ熟年探偵社』 金曜20時~ テレビ東京系

出演者:高橋克実、石田純一、笹野高史ほか
寸評:『三匹のおっさん』路線を踏襲。正義側の人数が増え、依頼側も中高年限定のため、画面の平均年齢はかつてないほど上がっている。そのため、会話も動きも前作より、さらにスピードダウン。モタモタしながら問題解決する姿で、はたして溜飲を下げられるのか。同枠は視聴者も高齢層に絞った以上、エピソードに「高齢あるある」がほしい。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『表参道高校合唱部!』 金曜22時~ TBS系

出演者:芳根京子、志尊淳、城田優ほか
寸評:まずは芳根の大抜擢と、すっかり減った夏の学園モノに挑んだ勇気に拍手したい。しかもテーマは、「多くの練習が必要であり、クオリティが低ければ容赦なく叩かれる」合唱。徐々に成長する姿を見せつつ、最終回で『ウォーターボーイズ』のような感動を与えられるか。物語が凡庸でも、合唱シーンで魅了すれば十分成功と言えそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

『民王』 金曜23時15分~ テレビ朝日系

出演者:遠藤憲一、菅田将暉、本仮屋ユイカほか
寸評:低視聴率を連発し、「入れ替わりモノは終わった」と言われる中、このドラマだけは別格。総理大臣とバカ大学生、政治と就活、遠藤と菅田などのコントラストで、無条件に笑える。「ワニ顔」の連呼、だらしない裸をさらされてイジられる遠藤と、眉間にシワを寄せて虚勢を張る菅田の演技だけでも見る価値アリ。文句なしのイチオシ。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『初森ベマーズ』 金曜24時12分~ テレビ東京系

出演者:乃木坂46、手塚とおるほか
寸評:『ドラマ24』らしいアイドルドラマはひさびさ。『マジすか学園』ほどのふり幅はない設定だが、清純派の乃木坂46にはほどよい設定か。見どころは、回を追うごとに成長する姿と、CG連発のぶっ飛んだプレー。AKB48関連の小ネタも多く、抑えめながら深夜らしいサービスカットもあり、オネエ監督の手塚さんを見るだけでも十分笑える。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『ど根性ガエル』 土曜21時~ 日本テレビ系

出演者:松山ケンイチ、満島ひかり、前田敦子ほか
寸評:「ヒロシの成長」と「ピョン吉の寿命」という大テーマを用意しているものの、軸になるのは何気ない日々。日常にファンタジーを絡めた脚本は、いかにも岡田惠和らしい。家族で見られる土曜ドラマとしては申し分なく、最終回に訪れるのは笑顔か涙か……。ピョン吉の満島ばかり絶賛されるが、違和感の一切ないCG技術も素晴らしい。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『ナポレオンの村』 日曜21時~ TBS系

出演者:唐沢寿明、麻生久美子、沢村一樹ほか
寸評:“限界集落”はNHKを思わせるテーマだが、TBSだけに重々しさはない。「村の再生」というサクセスは保証されている分、意外性はなく、どこで視聴者を引きつけられるか。次々に訪れるピンチ、悪人の暗躍、村人の人情ではなく、リアルな描写もなければ厳しそう。「役に立ってこその役人」などの名セリフと、美しい田舎景色にも期待。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

『デスノート』 日曜22時30分~ 日本テレビ系

出演者:窪田正孝、山崎賢人、優希美青ほか
寸評:否定的な声の多いキャラの設定変更より、気になるのは演出の軽さ。テンポを重視しているのか、揺れ動く激しい感情を描き切れていない。特に窪田が最も輝くのは狂気のシーンだけに、そのスキルをどこまで引き出せるか。ただ、本当に盛り上がるのは、窪田と山崎の距離が縮まってから。どんな結末を迎えるのか、最後まで賛否を呼びそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。