7月24日放送の『民王』を最後に主要19作がそろった夏ドラマ。この2年は『半沢直樹』『HERO』という大ヒット作があったが、今年の夏はどうなのか。初回放送が終わった中、視聴率としては軒並み苦戦。大半のドラマが視聴率1桁に落ち込むなどネガティブな面で話題になっている。

しかし当然ながら、ドラマの面白さと視聴率はあくまで別問題。今年の夏ドラマは本当に面白くないのか? それともこれから盛り上がりそうな作品はあるのか? 今回もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今クールの傾向とオススメ作品を探っていきます。

春ドラマの主な傾向は、[1]各局のカラーが鮮明に [2]熱血お仕事モノがズラリ [3]アラフィフ主演と20代お騒がせ女子 [4]若手俳優の抜てきラッシュ [5]マンガ実写化をめぐる賛否両論 の5つ。

左から窪田正孝、福士蒼汰、山崎賢人

傾向[1]各局のカラーが鮮明に

今クールは、続編が『花咲舞が黙ってない』だけであり、各局とも新作で勝負。ところが、珍しいくらい各局の戦略が分かれた。以下に箇条書きしてみると、

・フジ……主演の魅力と王道感(月9ラブ、水10骨太ビジネス、木10本格ミステリー)
・TBS……若手主演女優の発掘(芳根京子、西内まりや、蓮佛美沙子)
・日テレ……原作の力をベースに大胆なアレンジ(マンガ名作、池井戸潤)
・テレ朝……得意の刑事モノ新作(チームモノ、最強コンビ)
・テレ東……高齢者とアイドルの2軸(おっさん路線、AKB路線)

とりわけ、「主演先行で王道テーマを選んだ」フジテレビと、「テーマ先行で主演を選んだ」TBS。「原作モノで守りながらアレンジで攻める」日テレと「刑事モノで攻めずに守り続ける」テレ朝は、真逆のスタンスなのが面白い。

各局とも「思い切ったチャレンジがしたいけど、大コケしたくない」という心境が見えるだけに、"無名ヒロイン+合唱"で勝負した『表参道高校合唱部!』の存在が際立つ。

傾向[2]熱血お仕事モノがズラリ

消防団の活躍を描く『HEAT』、新人がお客様のために奔走する『ホテルコンシェルジュ』、悪者にお言葉を返す『花咲舞が黙ってない』、覚悟を持って問題と対峙する『リスクの神様』、母子のために奮闘する『37.5℃の涙』、限界集落の再生に挑む『ナポレオンの村』など、主人公が熱い姿を見せるお仕事ドラマがそろった。

もともと「熱く燃え上がり、スカッと解決する爽快な物語」は夏向き。仕事面を掘り下げすぎると重くなりがちだが、『リスクの神様』を見てもわかるように、今クールのドラマはサラッと描いているものが多い。ただ、暗く重いシーンがなければ、熱く解決するシーンのカタルシスが少ないだけに、この傾向には消化不良の感もある。

傾向[3]アラフィフ主演と20代お騒がせ女子

・アラフィフの主演男優……堤真一、遠藤憲一、唐沢寿明、高橋克実、東山紀之。
・20代の主演女優……杏、武井咲、北川景子、西内まりや、蓮佛美沙子。

いわば、「男性主演作なら50代、女性主演作なら20代」という方針が各局そろったということであり、プロデューサーたちの「今、最も数字が取れるのでは?」という期待感が見える。

アラフィフ男優に求められているのは、演技の安定感と、テーマに対する信頼性の担保。例えば、『リスクの神様』の堤真一は、危機管理の世界観を象徴する存在となっている。

20代女優に求められているのは、若さゆえの一生懸命さと伸びしろ。たとえば、『エイジハラスメント』の武井咲は、年上世代に食らいつきながら成長するワーキングウーマンの象徴となっている。

傾向[4]若手俳優の抜てきラッシュ

『恋仲』の福士蒼汰、本田翼、『民王』の菅田将暉、『37.5℃の涙』の蓮佛美沙子、『表参道高校合唱部!』の芳根京子、『デスノート』の窪田正孝、山崎賢人ら主演クラスに加え、野村周平、志尊淳、優希美青、知英など、助演にも若手俳優の抜てきが目立つ。

もともと学生の夏休みにぶつかる夏ドラマは学園モノが多かったのだが、最近はヒット作がなくほとんどなくなってしまった。ただ、学生がドラマを見やすい時期であることは変わりないだけに、「身近な若手世代を起用する」流れは続いている。

気がかりなのはここ数年、世間から「若手俳優の成長を見守ろう」という雰囲気がなくなっていること。2000年代前半ごろまでは、ほとんど演技経験のない若手も多く、少しずつ成長する姿を温かく見守る人も多かったが、最近は視聴者の目が厳しく、すぐに叩かれてしまう。

逆にその意味で注目したいのは川口春奈。約2年前に放送された『夫のカノジョ』の低視聴率で連ドラから遠ざかっていたが、『探偵の探偵』に準主役として出演している。

傾向[5]マンガ実写化をめぐる賛否両論

何かと話題になることが多いマンガ実写化ドラマ。とりわけ主要キャラの性格など設定を変えた『デスノート』への風当たりは強いが、制作サイドから見たらそれは織り込み済み。そもそもエンターテインメントのコンテンツには、マンガやドラマのほかに、映画、舞台、詩やエッセイなど多くのジャンルがあり、お互いを原作にし合ってさまざまなものを作っている。

ジャンルが違えば、その特性を生かすために内容を変えるのは自然の流れ。むしろ変えない方が不自然であることを知っている作り手たちは、それほど気にしていないものだ。実際、『ど根性ガエル』『37.5℃の涙』もドラマ版ならではのアレンジを加えている。

また、それぞれのジャンルにファンがいる中、マンガのファンだけは思い入れが強く、ネットリテラシーも高いため、反発のコメントが拡散されやすい。今クールの3作は、最終的にマンガ原作ファンをうならせることができるか。


これらの傾向を踏まえつつ、今クールのオススメは、遠藤憲一と菅田将暉の2人が突出した存在感と笑いを見せてくれる『民王』。笑いをベースにしつつ、政治や就活などの社会問題を絡めた展開は文句なしに面白く、演出の過不足もない。今クールでは断トツと言っていいだろう。

さらに、無名女優の大抜てきと感動の合唱シーンが光る『表参道高校合唱部!』、終盤に向けてミステリーが一気に加速しそうな『探偵の探偵』、ヒロシとピョン吉のドラマティックな結末が期待できる『ど根性ガエル』も見応えがあり、継続視聴をおすすめしたい。各局とも無料見逃し配信やオンデマンドで見られるため、未視聴の人はチェックしてみてはいかがだろうか。

一方、これからの巻き返しに期待したいのは、リアルにもファンタジーにもなっていない『恋仲』、人間模様の描き方が意外にあっさりしている『リスクの神様』、"限界集落"というテーマの臨場感が今一つの『ナポレオンの村』。いずれも期待値の高い作品だが、現状では「どこまで掘り下げるか」という脚本・演出の両面で迷いが見える。

【おすすめ4作】
No.1 民王 (テレビ朝日系 金曜23時15分)
No.2 表参道高校合唱部! (TBS系 金曜22時)
No.3 探偵の探偵 (フジテレビ系 木曜22時)
No.4 ど根性ガエル (日本テレビ系 土曜21時)

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。