サイバーエージェントのグループ企業のひとつである、CyberZ。「マインドセット」と呼ばれる、メンタル・モチベーションコントロールの手法を用いて、経験と人脈を兼ね備えたミドル層を活かしているという。若手にいい影響を与える存在にするためには何をすべきなのか。ミドル層が再び第一線で活躍するための人材錬金術を、代表取締役の山内隆裕氏に聞いた。

山内隆裕
立教大学を卒業後、2006年にサイバーエージェントに入社。2007年には、社内年間最優秀新人賞受賞を受賞し、一躍ホープとなる。その後グループ内2社の設立や取締役就任を経て2009年にCyberZ 代表取締役に就任。当時、ガラケーの広告向けソリューションを中心としていた事業から、2011年の2月にスマホを軸にした路線変更を行い業界内にソリューション革命をもたらした

誰よりもデキる社員は「走れるベテラン」

――まず山内社長は、ミドル層の強みをどうお考えですか?

私がよく言っているのは、「走れるオヤジが最強」ということですね。IT業界全体を見渡すと、30代後半から40代にかけては確かに層が薄いんです。どうしても20代が中心になりがちです。でも、知識・人脈・経験の3点で言えば、若い世代は確実にかなわないわけですよ、ベテランには。何倍も違いますからね。私は、そこがまずミドル層の素晴らしいところだと認識しています。

――反対に、弱点となるところはどこでしょうか?

知識・人脈・経験はあるのですが、どうしても20代に比べると、モチベーションだったり、行動ひとつ起こすための爆発力が違ってきます。これは、今やっていることの先が見えてしまうという経験の弊害も影響していると思うのですね。一定の経験がついている人は、行動しながら、その行動にともなった結果を経験から予測しやすいわけです。ですので、無難なところで収まってしまうことが多くなり、突き抜けにくくなってしまう。リミッターを外せなくなり、チャレンジを控えてしまう。だからこそ猪突猛進にリミッターを外しまくる若手に、勢いだけで抜かれてしまうこともあるのです。

走れるオヤジとはどういう人種なのか

――そうなると、やはり若手のほうが優遇されやすいのですか?

そういうわけではありません。先ほど言ったように「走れるベテランが最強」なのですから、走れるようにして持っていくだけで、ガラリと変わるんです。ここでマインドセットが重要になります。マインドセットはたとえるなら、ミサイルの発射角のようなものです。遠くに飛ばそうと思えば高い角度で発射しないと飛ばない。最初のマインドセットは、その発射角を決めるようなものです。

ミドルエイジへのマインドセット方法

――ミドルエイジのベテランには、どのようなマインドセットをするのですか?

必ず最初にやるのは、自分の骨を埋める場所を探そうとしているかどうかを見極めることです。以前当社に入ってきた30代半ばの中途採用者を例に出しましょう。その人は、サイバーエージェントグループの本社からやってきた人なのですが、本社の所属部門ではそれなりの地位にいた方でした。

その方が私のところに来たとき、「本社でやっていたような部門でやればいいですか?」と尋ねられたんです。業界でビジネス経験の長い彼を喉から手が出るほど欲しかったのですが、覚悟の欠如に対してマインドセットの必要性を感じ、私は「まだ入社を決めているわけではありません」と、ぴしゃりと申し上げました。当時まだ組織自体が小さかったため、優秀な人よりも覚悟が出来ている人と一緒に働きたかった。

またいくら過去に素晴らしい経歴を持っていたとしても、当社の若手でその栄光を知る人はいないですし、知らない人がいきなりトップに立っても摩擦が起こるのは目に見えているからです。ですので「まずは皆と一緒に結果を出してもらいます。最初は一兵卒として営業からスタートしてください。それが嫌だったら、ご入社は見送らせてもらいます」と断言したのです。

走れるベテランが最強だと確信した瞬間

――シビアな通告だったのですね

シビアではありますが、そこが狙いでした。その方は、私の発言で顔が青ざめ、「妻と一緒に考えるので一日ください」と言っていました。でも次の日、「ここの会社を最後のつもりでやる。やらせてほしい」と私のところに来てくれました。この1日が重要だったのです。

結論から言うと、その後、その方は、当社の中でも誰もが認める営業成果を出すようになりました。あのとき私がマインドセットをしないで受け入れていたら、きっとこうはなっていないでしょう。彼の活躍ぶりを見て、「走れるベテランが最強」ということを確信したんです。マインドセットしないと覚悟が決まってこない。いくら技術があっても、覚悟がないとマインドが組みあがりません。つまりモチベーションも高まらないんです。

ミドル層の承認欲求を満たす

――覚悟をもたらすほかに、違ったやり方もあるのですか?

もうひとつ大事なことがありますね。それは、彼らの声に耳を傾け認めることです。上の立場にいる方というのは、とかく誉められる回数が少ない。誰も誉めてくれないんですよ。

その上、彼らは最初、年下の上司になる相手に対して、心のガードが固いんです。「こいつは、自分の何をわかってくれているだろうか?」と。それらを和らげるためには、彼らの中にあるすばらしい栄光を承認しないといけないし、承認がうまくいけば「若いのによくわかっている」ということになります。覚悟をうながして退路を断ち、一方で褒めて承認する。このふたつをもたらした上で、実際にどれだけの目標を目指すかを相談し、約束をしてもらう。そうすると、あとは彼らがどんどん活躍してくれます。

――そうして再生していくミドル層が会社にもたらすものはどんなものですか?

ネガティブな影響は一切なく、ポジティブなものばかりですよ。彼らを目指そうとする若手が増えて、若手の中に追いつけ追い越せのチャレンジ精神が芽生えるんです。同時に、ミドル層は経験の引き出しも多いので、若手がどんどんそれを吸収して成果につなげていますね。結果として会社全体に活気が出てくるのは間違いないですね。