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テレビや雑誌、ウェブに登場する働く女性というのは、生き生きとした姿でためになる仕事の話を提供してくれます。でも、メディアに登場する人たちは、会社を代表して登場する人たち。ということは、会社の顔である側面も大きく、見えてくるのはキラキラとした面ばかりです。多くの働く女性にとって、こうした話にリアリティがあるかというと、そうでもないのではないでしょうか。

このシリーズでは、働く女性たちに、より身近な話を聞いていこうと思います。身近でリアルな話の中には、あまりポジティブでない話もあるかとは思いますが、もしポジティブではないことが出てくるとしたら、その話にこそ、本当の働く女性の実態が隠れていることなのだと思います。

女性が輝く社会にと言われていますが、多くの会社には女性たちが輝くことのできる土壌はあるのか。誰もが必ずしも輝くべきとも思っていませんが、女性が少しでも楽しく働けるようになるためにも、キラキラした面だけでなく、実体も知る必要があると思うのです。

今回登場いただいたのは、Mさん(28歳)卸売業で事務職をして9年目の女性です。

ウソでもいいから結婚準備

――Mさんは一般職とのことですが、会社の女性はどういう立場で働いているんですか?

うちは女性はみんな一般職なんです。短大を出て就職活動をするときに、総合職は受けなかったので、事務職を探しました。でも、転職した友達に聞くと、事務職の社員の募集はもう少なくなっていると聞きました。

――そうですね。なかなか社員で事務職っていう人は派遣にとって変わろうとしていると聞きますね。だから、一般職の人を探すのはけっこう苦労したんです。Mさんは働いていて、ここはちょっとつらいなっていうことはありますか?

そうですね。女は愛嬌、みたいなプレッシャーがかなりありますね。というのも、この会社では、寿退職以外で辞める人がほとんどいないんです。転職で辞めた同僚がいたけど、それはすごく珍しくて、うちの会社より余所に行きたいなんて裏切られた、みたいな感じに思う人もいるのがわかって、それだと結婚で辞めるしかないのかって。まだ相手もいないんですけどね。

――結婚願望が個人的にあるわけじゃないけど、会社を円満に辞めるために結婚願望が出てきたということですか。けっこうなプレッシャーですよね。今、会社ではどういう立場ですか?

私は年齢的には上から2番目くらいですね。みんな本当に辞めちゃうんですよ。寿で退社しないといけないという決まりはないけれど、仕事を続けた女性の前例もないのでそういう空気ができあがっています。だから、ウソでもいいから結婚準備で辞めますっていいたいけど、それだと詮索もすごいんで。

――え、詮索までされるんですか?

そうなんです。実際に会社の上のほうの男性たちが、結婚相手のことを査定するようなこともあって。

――どういう目線で査定されちゃうんですか?

結婚式に出た場合とかに旦那さんの顔とかも見るわけですけど、おじさんたちにとって、イケメンかどうかはどうでもいいみたいですね。それよりも、スペックとかステイタスが気になるみたいです。

「つきあってる彼氏には、専業主婦でいいか、早めに確認しなさい」

――社内結婚とかもあるんですか?

会社の人たちは社内結婚をかなり望んでるんですけど、最近はめっきり少なくなりました。男性社員の結婚は早いです。私年下の人もみんな結婚していく。あ、でもちょっとチャラい感じでイケメンの同僚は、まだいろいろ見定めているみたいで結婚してないですね。男性の同僚とは友達になりすぎちゃって、恋愛関係になったりはなさそうです。

――聞いた話だと、あんまり詮索されない会社では今でも社内恋愛多いとか。でも、古いタイプの会社だと、つきあってるってわかった途端、周囲から結婚の圧力をかけられるから、余計慎重になってしまってつきあおうと思わなくなるのかもしれないですね

ただ、今の男性の上司が恋愛話が大好きで……。「Mさんもいっぱい男性とつきあって、いいプレイガールを目指しなさい」ってアドバイスされたんですよ……。あと、つきあってる彼氏には、専業主婦でいいか、早めに確認しなさいって。

――ええーーー(絶句)。か、かなり古いタイプの上司なんですね

そうなんです。そういう話に対しても、はっきりと反論はできないんで、「それはなかなか難しいですね」ってやんわりとかわすんですけど。ほかにもプライベートなことを聞いてきたり、性的な話をされることもあって困っています。

――それはセクハラに入る気がしますが

ところが、その人は触ったりするのはセクハラと自覚してるみたいなんですが、本人がやっていることは単なるアドバイスだと思ってるみたいで、ぜんぜん悪気がないみたいなんですよね。

――なんか「問題のあるレストラン」みたいなことってドラマの中だけのことかと思ってたけど、まだまだ実社会にもあるんですね。Mさんは、今は実家暮らしですか?

そうです。そうじゃないと生活も苦しいし、会社にいる人も女性は実家の人ばかりなんです。

――昔の就職でも実家限定の募集ってあったと聞きますけどその因習が残っている感じですね。ひとり暮らしにはキツい給料なんですか?

毎月の収入はさほどいいというわけではないんですが、ボーナスはそれなりにあるので、そこだけがモチベーションって感じですね。だから、ひとり暮らしができないほどではないかも。

――会社では、お昼ご飯とかはどうしてるんですか?

同僚と一緒に会議室で食べてます。私はお弁当を作っていて、たまに同僚と外に出ています。

――女性同士は仲は良いですか?

そうですね。上司が困った人が多いので男女問わず、同僚は仲がいいです。辞めた同僚とも定期的にご飯を食べたりしてるし。でも、会社には嫌な人もいます。なんでも否定してくる否定おじさんとか、なんでも詮索してくる詮索おじさん、告げ口魔とかもいます。あと、機嫌が悪いときに失敗したりすると、腕をはたいてきた女性の先輩とか……。

――そんな人がいるんですか?

書類の渡し方がなってないと言って叩かれました。まあ確かに片手で渡した私も悪かったと思いますが。

――叩かれるほどではないと思いますよ。働いていて、今の楽しみってなんですか?

土日が来るのは待ち遠しいですね。別に何をするってわけではないし、一日は疲れてるのでひたすら寝て過ごしたり、それから友達と出かけたり。でも自分の時間って感じだから、土日は楽しいです。

まとめ

お友達も一緒にいたことで、気楽な雰囲気で率直に答えてくれたMさん。いろんな話に驚いたり絶句したりしながらのインタビューでしたが、今回のお話の中では、特に結婚願望はないのに、今の状況から円満に抜け出すためには、結婚しかないと思っているというエピソードが印象に残りました。会社勤めをしていたときのことを思いだせばその気持ちもわかります。でも、私の場合は20年も前の話。今ではすっかりそんなこともなくなっていると思ってましたが、時代が変わったのに、女性が会社で働き続けることもまだまだ想定されていません。たくさんの古い因習が残っている会社が今なお存在することに衝撃を受けました。


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。