2013年の大ブレイクから2年が過ぎてなお、林修の勢いが衰えない。朝の『グッド!モーニング』(テレビ朝日)、昼すぎの『ゴゴスマ~GO GO!Smile!~』(CBC)の生放送情報番組に加え、『ネプリーグ』(フジテレビ)、『林修の今でしょ!講座』(テレビ朝日)、『クイズ!それマジ!?ニッポン』(フジテレビ)など夜のバラエティ番組もこなし、さらに今春から『林先生が驚く初耳学!』(毎日放送)と『林修・世界の名著』(BS-TBS)もスタートした。

流行語大賞の歴代受賞者は、大ブームを巻き起こした反動で"一発屋"になりやすいのだが、林修は冠番組が増える一方だ。林修はなぜテレビマンたちに求められ続けるのだろうか。

「今でしょ!」でブレイクした林修

テレビ界の情報番組ブームにフィット

現在のテレビ界は、空前の情報番組ブーム。ほとんどの局で早朝から夕方まで情報生番組が放送され、夜の時間帯も情報バラエティ番組が増えている。これは現在テレビ視聴の中心世代である中高年層に向けた番組編成なのだが、林修にとっては渡りに船。

流行語大賞を獲ったころは、スポット的なゲスト出演が多かったものの、最近は「日中はコメンテーター、夜は司会者」として、さまざまな情報番組に呼ばれる状況になった。とりわけ夜に放送される雑学・教養バラエティ番組のMCは、「芸人やアイドルではなく林修に任せよう」という流れが生まれている。

テレビマンが林修に期待しているのは、「番組に安定感と説得力をもたらすフィルターになる」こと。例えば、『林修の今でしょ!講座』と『林先生が驚く初耳学!』は、視聴者に「林先生が言うなら間違いない」「林先生でも知らないことなのか」などの視点や基準を与え、番組への興味を高めている。

また、MCを務める番組の出演者ラインナップを見ても、林修の強みがうかがえる。出演者のジャンルは、アイドル、俳優、芸人、マルチタレント、文化人など多彩であり、年代もティーンから大ベテランまで幅広い。

林修自身、49歳という上の世代も下の世代もコミュニケーションが取りやすい年齢である上に、日ごろ学生を相手にしているため、若手タレントとの絡みも全く問題なし。少し見方を変えると、10~20代のタレントにはいつも通りの先生であり、それ以上のベテランタレントと対峙しても先生として振る舞うことに違和感がない、とも言える。

黒歴史&自虐ネタのタレント力

この立ち位置は、芸能界では希少。林修が台頭しはじめたころ、「ポスト池上彰」という書かれ方をしたことがあったが、活動スタンスが全く異なるだけに、この比較は筋違い。池上彰がニュース解説者であるのに対して、林修は予備校講師。専門分野が違うだけでなく、「池上=ジャーナリスト」「林修=タレント」という扱われ方の違いもある。

それだけに、池上彰は"教える人"という立ち位置が多いが、タレントの林修は"教える人"だけでなく、"教えられる人""基準(ものさし)になる人""イジられる人"などにもなれる。とりわけ"教えられる人"のスタンスで、講師に視聴者が知りたいことを代弁する『林修の今でしょ!講座』での言葉選びは絶妙だ。ゆえに、雑学・教養系のバラエティ番組MCとしては競合相手のいない独走状態となっている。

もう1つ忘れてはいけないのは、タレント性の高さ。専門の現代文にとどまらない学問知識に加え、生活・社会の情報、正しい日本語選びなど、タレントとしてそれだけで勝負できるほどの博識さがあることは言うまでもない。ただこれはテレビマンたちも計算していたことだろう。

いい意味でテレビマンたちの予想を上回ったのは、「先生なのにスキだらけだった」こと。「昔のあだ名はデブメガネ」「体重100キロ超で非モテだった」「起業や株で大失敗」「1800万円もの借金があった」「12歳年下の妻に頭が上がらず『調子に乗るなよ』と言われている」など、バラエティ番組ウケする黒歴史&自虐ネタが多く、スケールもバカバカしさも突き抜けている。

どれだけ頭が良くても、知識をひけらかしても、決して"いけ好かないヤツ"には見えず、"どこか愛すべき男"の印象をキープしているのは、ネガティブネタで相殺できているからではないか。

「一を聞いて十を知る」頼もしい男

そして、林修がテレビマンに評価される理由はもう1つある。林修は著書『林修の仕事がうまくいく「話し方」講座』(宝島社)で、「まずは話を聞いて、相手の重要な関心事を探す」「聞いた話は覚えておき、会話に連続性を持たせる」「優秀な相手の話は鵜呑みにせず、自分の疑問や反論をはさむ」などと、会話の基本スタンスをつづっていた。

私も一度話したことがあるのだが、林修の対応は著書の内容そのもの。礼儀正しく熱心であるだけでなく、こちらの意図をくみ取るスピードが驚くほど速かった。これは番組打ち合わせのときもしかりで、まさに「一を聞いて十を知る」男。テレビマンにとってこんなに楽なタレントはいないだろう。それは番組収録中も同じで、ディレクターの求めるコメントやリアクションをソツなくこなしている。

また、「自分よりも詳しい人や面白い人がいる」と身のほどをわきまえ、必要以上にやり過ぎない姿勢も評価されているという。今の時代、やりすぎは「あざとい」という印象を与えやすく、何より飽きられやすい。林修ならそれくらいの計算はしているだろう。

決してテレビ局や芸能事務所の都合で選ばれているわけではなく、林修はホンモノの実力派MCとなった。今後、林修はどんな活動をしていくのか。もはや朝の情報番組でメインキャスターに抜てきされても驚かないし、コント、音楽、スポーツ番組のMCも見てみたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。