日本将棋連盟・モバイル編集長 遠山雄亮五段インタビュー
「将棋電王戦FINAL」の開催に先立ち、プロ棋士の遠山雄亮五段に大会の展望や、準備の状況などについて話を聞いた。
遠山五段は携帯電話やスマートフォンでプロ棋士の将棋対局の中継を行うアプリ「日本将棋連盟モバイル」の編集長として、将棋界のIT化を推進している立場。コンピュータ将棋にも造詣が深く、「将棋電王戦」にも長年深く関わっており、今回も出場棋士たちの勉強会に協力するなど、棋士側の状況について詳しい存在だ。今回は電王戦の展望のほかに、プロ棋界におけるコンピュータ将棋の状況などもうかがった。
―― いよいよ最後の戦いが始まりますね。準備状況はいかがでしょうか。
基本的には前回と同じで、出場する各棋士には本番と同じ環境のハードとソフトを提供し、全体では勉強会を開催、という状況です。
―― 前回は勉強会を2回行っていました。
今回は5回行いました。私も3回出席しましたが、講師に西尾明六段を招いて、かなり充実した内容になったと思います。(西尾六段は「電王戦タッグマッチ2014」の優勝者で、プロ棋士間でもっともコンピュータ将棋に詳しい存在として知られている)
――具体的にはどういう勉強をしているのでしょうか。
例えばソフトごとの時間の使い方の特色を研究するとか、かなり深いところまでやっています。あるソフトは、読み筋があっていれば0秒指しで返してきて、読み筋が外れたときはきっちり4分50秒考えるとか、そういう特徴があるんですね。それを知っていれば、いま指した手が相手の読み筋通りなのか、そうでないのかがわかります。
――過去にないほど深く研究されていますね。その準備状況を踏まえて、プロ棋士とコンピュータの実力についてはどう分析していますか。
コンピュータが強いことは確かです。ただ、少なくとも10回戦って1回も勝てないとか、そういう話ではなくて、僅差で拮抗している状態だと思っています。
――では、今回の見どころはどのあたりになるでしょうか。
やはり棋士がコンピュータ将棋のことをいろいろわかってきて、それを踏まえて十分な研究をして、その上でどうなるかということろが楽しみですね。出場者も若い人が多いので、対コンピュータ戦の適性も高いと思いますし。
――「将棋電王戦FINAL」の勝敗予想をお願いします。
私はどこで聞かれても5戦全勝と答えています。協力者も含めて、全員が絶対に勝つというつもりで全力で準備をしていますから。
――最近はプロ棋士でコンピュータを研究に取り入れている人もいると聞いていますが、どんどん増えているのでしょうか。
増えてきたことは確かですね。ただ、ほとんどの人が使っているとか、そういう状況ではないです。奨励会三段の若い子たちで半数ぐらいでしょうか。プロだともっと少ないです。
――若い人の方が多く使っているイメージがあります。
意外にそうとも言い切れないんです。ベテランの先生がしっかり活用していたり、若い人でも一度も使ったことがない人もいますから。
――コンピュータ将棋を取り入れることで、プロの将棋の変化を感じられますか。
例えばこれまでだと、トッププロなど強い人が指した将棋の結論を信用し過ぎていることはありました。コンピュータはそういう概念がないので、誰が指した将棋でもミスはミスとして的確に指摘しますよね。それで結論がひっくり返って、新たな世界が広がるということはあります。また、コンピュータ将棋は少し不利になってからの粘りが凄い。評価値で言うと-500点ぐらいになると、人間だと悲観して淡泊になってしまいがちですが、コンピュータはずっとその点差を維持してくるんです。人間がそういう点を取り入れられれば、将棋がもっと深くなると思います。
――詳しいお話ありがとうございました。最後にモバイル編集長として「日本将棋連盟モバイル」のことを説明していただけますか。
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