2年連続で星を獲得した広東料理「波士廰 the Boss」。内装もうるさすぎず、小ぢんまりとしていて居心地のよさを感じた

美食の都・香港の代表料理といえば広東料理。中国4大料理のうちのひとつで、"飛ぶものは飛行機以外、四つの足のあるものは机以外"なんでも食べる、と言われるほど食材が豊富なのが特徴だ。広東は交易の中心だったことからも新鮮な食材が手に入り、その日のうちに調理するのがおいしさの秘訣でもある。

それだけの品数をそろえ、さらに、昨今の地価高騰の中で上質な料理を出し続けるのは至難の技。それでもミシュランを納得させ続け、地元の人からも絶大な人気を誇る店があるのだ。世界有数のラグジュアリーホテルの高級レストランがミシュラン星に名を連ねる中、路面店ながら星を獲得している話題のレストランを紹介しよう。

食通女子を黙らせたふわっふわの豚の肺スープ

2013年にオープンして間もなく「ミシュラン2014」の1ツ星に選ばれ、2015版にも引き続き選ばれた今話題のレストランがここ「波士廰 the Boss」。

"豚の肺"と聞くと大抵の日本人は、拒否反応を示すかもしれない。しかし、新しい世界を味わいたいなら、ぜひトライしてほしいのがこの絶品「生磨杏汁白肺花膠湯」(豚の肺の杏仁スープ)128香港ドル(約1,950円)だ。その味は、現地コーディネーター(香港人)が女子会で利用した際に、全員にリピート必至と言わしめたほど。

中国の南北から取り寄せた2種類の杏仁をすりおろし、湯通しした豚の肺と水で戻した干し浮袋を入れた器を蒸し器に入れて3~4時間蒸す。これはダブルボイルドという、高級食材を扱う時の調理法だ。中の器が直接火にあたると、具が動きすぎてスープが濁ってしまう。時間はかかるが、その分具材のうま味が出過ぎず、じっくりと煮出されてほどよくまろやかな味わいになるのだ。

「生磨杏汁白肺花膠湯」。もこもこしているのが豚の肺で、くるまっているのが歯ごたえしっかり&コラーゲンたっぷりの浮き袋。最後にほんのり杏仁が香る

ちなみに、中医学的にも強火で煮たものは味が濃くなり身体の熱が上がってしまうので、じっくり煮るのを良しとしている。杏仁は肌を潤し、浮袋はコラーゲンの塊、さらに豚の肺は肺を潤し丈夫にするといわれ、味だけでなく健康的にもおすすめスープなのだ。

エビペーストに漬けて揚げたやみつきトリカラ

素材には一番こだわり、冷凍でしか手に入らないアヒルを除いて、生ものの食材は全て市場から新鮮なまま届く。生もの以外も、台湾の梅干しや日本のイチゴ、上海蟹は"洋澄湖"で採れたものなど産地にこだわり仕入れている。

放し飼いで育てられるため脂が少ない割に肉がやわらかい、という"龍崗鶏"ブランドの鶏肉を使用した家庭料理「大澳蝦膏炸砕鶏」(蝦味の鶏唐揚げ)ハーフ220香港ドル(約3,300円)も大人気メニューだ。「香港に行ってまで唐揚げ?」と侮るなかれ! こちらは、有名なエビペーストの産地・大澳(タイオー)の硬めのエビペーストと調味料を合わせたものに漬け込み揚げたもの。この海老味の唐揚げ、他では味わったことのない濃厚さで、箸もビールも止まらなくなりそうだ。

ちなみに、メニュー名に"砕"とあるのは、骨付きの肉のブツ切りという意味。骨まわりの旨味のある肉を使っているので、小骨もまるごと入ったワイルドな食感も新しい。

「大澳蝦膏炸砕鶏」は香港の懐かしい味だそう。エビペーストを揚げるとすぐに焦げてしまうので、火加減が難しい。付け合わせのきゅうりは口直しのほか、身体の熱を下げる役目もある

シェフは、王子飯店や新同楽といった香港の名店で経験を積み、美食家のオーナーと共に満を持して店をオープン。2人共に大事にしていることは、新鮮な素材にこだわり伝統的な広東料理を出す。が、新しいものも出していきたいことだという。チーズをロブスターに詰めて揚げた「チーズロブスター」など世界のさまざまな素材を使っての創作料理もおすすめだ。

士廰 the Boss

※1香港ドル=15.2円で換算。記事中の価格・情報は2014年10月取材時のもの