元来、超下町だが最近はおしゃれ店がどんどんオープンしている上環エリア。乾物屋が軒を連ねる雑踏に、モダンなガラス張りの店が突如として現れる。ここが2012年からミシュランの星を獲得し続け、地元民から玄人シェフにまで人気の伝統的広東料理店「桃花源小厨 Tim's Kitchen」だ。

オーナーシェフのYau-Tim LAI氏は、30年以上も伝統的な広東料理のキャリアを積んできた達人。彼の腕を持ってしても、おいしい料理を出す上で一番大切なことは"新鮮な素材"だと言い切る。この新鮮な素材の味を損ねない調理方法に人気の秘密があるのだ。

外観同様、内装も華美すぎずシンプルモダンな「桃花源小厨 Tim's Kitchen」では、お得に最高級の味を堪能できる点心も人気。香港のほか、マカオや上海にも出店している

ぷりっとした海老の風味を活かす

巨匠の自慢の逸品のひとつが、「玻璃明蝦球」(クリスタル大海老)170香港ドル(約2,580円)。殻を取りまわりの皮も剥いで、真っ白な状態になった海老を流水に浸すこと3時間。水で流し続けることで海老が柔らかくなり、肉の歯ごたえが増すのだ。

このしまった海老に塩、砂糖、ごま油、ピーナツオイルなどで下味を付け、さらに一晩、冷蔵庫でじっくり寝かす。オーダーが入ったら、65度のぬるま湯で25分ゆでてできあがり。ナイフを入れたとたんにするっと切れるほどのほどよい弾力と、海老の風味を活かしたやさしい味付け。食感と味覚を驚かす、見事な調和なのである。

「玻璃明蝦球」のネーミングは、皮まで剥いで真っ白にした状態と、火を通す前の透明さが由来。海老の上には金華ハムがのっている

広東料理の神髄"シンプル・イズ・ザ・ベスト"

一方、もうひとつの名物料理が「冬瓜蒸原隻鮮蟹鉗」(冬瓜とカニ爪の蒸し物)270香港ドル(約4,100円)。こちらもよく洗った蟹を、氷水につけて3時間冷蔵庫で寝かす。冷蔵庫から取り出した後、まわりの甲羅をたたいて中身を崩さないように丁寧に取り出すのだ。味付けは塩少々に紹興酒のみ。冬瓜は中華のベースとなる上湯スープのあんかけでいただく。

「冬瓜蒸原隻鮮蟹鉗」。蟹は蒸したもののほか、片栗粉をまぶして素揚げしたメニューもある

新鮮な食材は鮮度をあげれば、味はシンプルでいい。これがシェフが何十年も伝統料理で培ってきた腕の見せ所なのだ。コストがかさんでも食材は妥協しない。いい食材あってこそ、だという。"シンプル・イズ・ザ・ベスト"。新鮮な素材に繊細な味付け、これが広東料理の醍醐味なのだ。

桃花源小厨 Tim's Kitchen

※1香港ドル=15.2円で換算。記事中の価格・情報は2014年10月取材時のもの