サッカー日本代表・本田圭佑選手の名言「ゴールはケチャップのようなもの。出ないときは出ないけど、出るときはドバドバ出る」。俳優・マキタスポーツは、まさにこの"ケチャドバ"状態だ。

「才能が渋滞している」と高く評価していた『オフィス北野』の先輩・水道橋博士も、こんな形での売れ方は予想していなかったのではないか。この1年あまり、マキタスポーツはそれほど売れまくっている。

ピン芸人だったマキタスポーツは、40代半ばに入ってなぜ突然俳優としてブレイクしたのか? その理由と魅力を探っていく。

突破口は"小汚いオッサン"だった

俳優としてブレイク中のマキタスポーツ

ブレイクの転機となったのは、2012年の映画『苦役列車』であることは間違いない。ろくでなしの主人公に影響を与える先輩役を好演し、いきなり『第55回ブルーリボン賞』新人賞を獲得。その翌年、連ドラのオファーラッシュがはじまった。

『みんな!エスパーだよ!』(テレ東)で「エッチなものだけテレキネシスで動かせる」喫茶店マスター役を演じつつ、『ご縁ハンター』(NHK)ではヒロイン・観月ありさの上司役を好演。"エロジジイ"と"フツーのサラリーマン"をソツなく演じ分けて評価を高めた。

さらに単発出演でも、『めしばな刑事タチバナ』(テレ東)でストーカー役、『あまちゃん』(NHK)で「橋幸夫歌謡ショー」司会者役など、濃いキャラをサラッとこなす芸達者ぶりを見せる。これを見て思いだしたのが、芸人・マキタスポーツのネタ。いずれも卓越した人間観察力と、本質を切り取るセンスを感じるものばかりだ。頭の中では常に「ああだからこうかな」「面白いのはココでしょ」というロジックが駆けめぐっていて、それが俳優としての役作りにも生きているのだろう。

ただ、この年で最も印象深かったのは、やっぱり得意の小汚いオッサン役。『OLカナのおじさん観察日記。』(フジTWO)で見せた「仕事中に鼻クソをほじり、オナラをぶっ放し、オヤジギャグとセクハラを連発する」オッサンのハマリぶりには爆笑させられた。

俳優・マキタスポーツの特徴は、芸人にありがちな過剰演技がなく、その姿が漫談やコントの延長線上に見えないこと。歌ネタが多いこともあるが、この点でマキタスポーツは他の芸人よりもはるかに優れている。しかし、それでもまだ視聴者の印象は、「演技のうまい芸人」という程度だったが、翌年春、一気に芸人としての佇まいを消していく。

役にクセはあっても、表情にクセはない

2014年は4月クールで、大型作品に同時レギュラー出演を果たした。朝ドラ『花子とアン』(NHK)ではヒロインの恩師役を、日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS)では野球部社員に汚い野次を飛ばす同僚役を好演。驚いたのは、『極悪がんぼ』(フジ)と『リバースエッジ 大川端探偵社』(テレ東)にもゲスト出演していたたことで、いずれも"各局のイチオシドラマ"であったことから「名脇役!」の声があがりはじめる。

7月クール入っても勢いは留まらず、『ラスト・ドクター』(テレ東)では主人公を敵視する監察医役、『東野圭吾「変身」』(WOWOW)で主人公カップルを見守る画材店主役でレギュラー出演。加えて、あの『HERO』(フジ)続編にも刑事役でゲスト出演し、木村拓哉演じる久利生検事としっかり絡んでいた。

「ハゲにヒゲ」というWインパクトのため、大量出演するほど「また出てる」と飽きられるか「いつも同じ演技」と嫌われやすいのだが、マキタスポーツにはどちらもない。どんな職業にも、いつの時代でも、キワモノキャラでも違和感を抱かせないのは、表情の作り方が自然だからではないか。そもそも芸人・マキタスポーツは、勢いやギャグに頼らないネタを得意としている。体感的なネタのクセは強いのだが、よく見ると表情のクセはほとんどない。いわば、これまで"顔芸"に頼らなかったことが、俳優業に生きているのだろう。

現在の10月クールでも、『ドクターX』(テレ朝)では腕は立つが気弱な外科副部長役、『地獄先生ぬ~べ~』(日テレ)では銭ゲバ住職役、そして11月15日スタートの『平成猿蟹合戦図』(WOWOW)にも殺し屋役で出演。全てレギュラーキャストなのは超売れっ子の証だし、いずれも主演を引き立てつつ、自らの見せ場をきっちり作っている。

「売れっ子」であるもう一つの証拠

マキタスポーツが「名脇役」であることは、現在ドラマ愛好家や識者が最も評価しているNHKとWOWOWへの出演作が多いことでも明白。両局は事務所との力関係や広告絡みではなく、「実力優先のキャスティング」で知られているからだ。

実際ドラマ制作班から見たら、こんなに計算できる脇役も少ないだろう。かつてマキタスポーツは、「僕は、でんでん枠っていうんですかね、いわゆる『薬味』です。"第二でんでん"狙ってます」と言っていた。本気なのか、ハゲ面に引っかけたのか分からないが、2人のセリフ回しはどこか似ている。でんでんは2012年の第35回日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を獲得したが、マキタスポーツがいつ獲得しても、もはや業界内で驚く人はいない。


俳優・マキタスポーツとしてのキャリアは、実質2年そこそこにすぎない。しかし、すでに44歳であり、芸歴16年という長さを考えると、やはり冒頭に書いた"ケチャドバ"の真っ最中に違いないし、まだまだケチャップは尽きないだろう。トボけた見た目にダマされることなかれ。この男、かなりの名優になるかもしれない。

木村隆志 コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。