朝ドラ『花子とアン』が絶好調で、映画『アナと雪の女王』もいまだ人気は衰えず、世間の流行りは"ダブルヒロイン"だが、夏ドラマにおける話題の中心は『HERO』の久利生公平。視聴率・評判ともに13年のときを経て、なお健在であることを見せつけた。

その他は視聴率こそ苦戦した作品が多かったものの、内容はむしろ低視聴率のものほど素晴らしい力作も多かった。では夏ドラマ全19本はどこが優れていて、どこが残念だったのか? 「視聴率や俳優の人気は一切無視!」の連ドラ評論家・木村隆志がその理由に切り込み、ガチ採点する。

『HERO』でヒロインを務めた北川景子(左)と『アオイホノオ』で主演を務めた柳楽優弥

■ポイント1 演出にこだわり抜いた監督たち
今クールは、とりわけ演出にこだわりを感じる作品が多かった。その筆頭は、バカとディープを追求した『アオイホノオ』と、凄惨(せいさん)と映像美を両立させた『家族狩り』。どちらもいい意味で、「周りの声を気にしない」スタンスは明白で、「こうだ」と決めたコンセプトを最後まで貫き通した。どこかで見たような無難な演出は撮影が楽なものだが、この2作はどう考えても撮影・編集の手間が倍増していたはず。そんな努力は視聴者に伝わっていたのではないか。

また、13年前の第1シリーズよりも、チームワークとかけ合いのコメディを強化した『HERO』、杉田成道監督が前時代的な家族ドラマを貫いた『若者たち2014』、競技よりも青臭い夢や友情に特化した『水球ヤンキース』も、演出の明確なポリシーを感じる作品だった。いずれも撮影現場で監督とキャストが試行錯誤しながら、テイクを重ねている姿が想像できる。

■ポイント2 "視聴率"と"視聴熱"の反比例
長年ドラマ評論家をしているが、これほど視聴率と視聴者の評判がかけ離れた状態は記憶にない。視聴率がひとケタ中盤に終わった『あすなろ三三七拍子』『家族狩り』『若者たち2014』が、『YAHOOテレビ』内のコメント数ランキングでは、1・2・3フィニッシュを飾っていたのには驚かされた。

しかもコメントの内容は、「低視聴率なのが悔しい」「見なかった人は絶対に損した」などの熱狂的なものばかり。この3作に共通しているのは「汗や涙が飛んできそうな」熱い世界観。制作サイドの情熱が視聴者に伝染し、多くの人をハマらせいたのではないか。ドラマ界にとって録画視聴率の導入は重要課題だが、今後はツイッター指標などの"視聴熱"もドラマ作りに強い影響を与えるだろう。

また、フジテレビは編成意図として、ジャンルの異なる全作品に「暑い夏らしい熱さ」を盛り込む意欲を見せた。「思わずこちらも熱くなる!」と思わせるか、「暑苦しくて見ていられない……」となるかは紙一重だが、季節を意識した編成はもっと評価されていい。

■ポイント3 複雑すぎる家族と単純すぎる不倫
相変わらず事件解決モノのドラマが多い中、今クールはひさびさに、家族と不倫をテーマにした作品が目立った。

古いタイプの家族を描いた『若者たち2014』はさておき、『家族狩り』『おやじの背中』の2作は家族間の関係性が複雑で、とにかく分かりにくかった。「何を考えているのか」「ドラマはどこに向かっているのか」つかめないまま物語が進んでいくため、ドラマ好きでなければついていけない人も多かったのではないか。

一方、ひさびさに制作された不倫ドラマの『昼顔』『同窓生』は、「こういうキャラの人が、こんな理由があると過ちを犯しますよ」という単純な展開。そこにはリアリティも目新しさもなく、あるのは分かりやすさだった。『昼顔』が話題を集めたのは、不倫というテーマよりも、「全ての制作基準を『日常に小さな不満を抱えて生きる』女性目線に振り切った」潔さが功を奏したからだろう。


以上を踏まえた上で、今クールの最優秀作品に挙げたいのは、理解されにくいテーマに真っ向から挑み、感動シーンと名言を連発した『あすなろ三三七拍子』。変人や殺人などの奇抜な設定に頼らず、ごく普通の人間ドラマを掘り下げる姿勢は素晴らしいものがあった。

深夜ドラマの枠を超えた熱量では、『アオイホノオ』も負けていない。初回から最終回のエンドロールまで、キャスト・スタッフともに「全てを出し尽くす」という姿勢はゴールデン帯の作品をはるかに凌駕していた。

一方、ウラ最優秀作品は、『GTO』。シリーズ3作目となって飽きられた上に、演出がガラッと変わり、爽快感やアクの強さが失われてしまった。また、『信長のシェフ』は誰がどう見ても枠移動が失敗。やはり"ファンタジー時代劇"は特別なものとして考えた方がいい。

【最優秀作品】『あすなろ三三七拍子』 次点-『アオイホノオ』
【最優秀演出】『アオイホノオ』 次点-『ペテロの葬列』
【最優秀脚本】『あすなろ三三七拍子』 次点-なし
【最優秀主演男優】柳楽優弥(『アオイホノオ』) 次点-柳葉敏郎(『あすなろ三三七拍子』)
【最優秀主演女優】松雪泰子(『家族狩り』) 次点-なし
【最優秀助演男優】伊藤淳史(『家族狩り』) 次点-安田顕(『アオイホノオ』)
【最優秀助演女優】高畑淳子(『昼顔』) 次点-剛力彩芽(『あすなろ三三七拍子』)
【優秀新人】大内田悠平(『あすなろ三三七拍子』) 中村ゆりか(『家族狩り』)
【ウラ最優秀作品】『GTO』 次点-『信長のシェフ』