瀬戸内海を望む愛媛県今治市。今治市と言えばゆるキャラのバリィさんが今や大人気だ。しかし、なぜバリィさんは鳥なのか? それは何を隠そう今治名物が「焼き鳥」だからだ。この今治名物の焼き鳥、他の地方の焼き鳥とは何がどう違うのか。現地からリポートしたい。

今治の「焼き鳥」とは!? (写真は店舗「五味鳥」のもの)

手早くパリッと感が出せる鉄板焼き

まず、今治の焼き鳥の元祖と言われるのが「五味鳥」という店だ。店主の中川武樹(たけき)さんは今年80歳。26歳の時に店を出しており、今年で53年目になるそうだ。逆算しても計算が合わないのは、「途中、包丁の使いすぎで関節炎になり、一時休業したから」だという。

この店で一番人気だという「かわ」を注文してみる。驚いたのはここの焼き鳥は串焼きではなく、鉄板の上で焼くということ。香ばしい匂いが辺り一面に立ち込める。一通り焼かれたら大きなコテでぎゅぎゅっと押しつけ、さらに焼き目をつけていく。

「五味鳥」の「かわ」は1皿で300円(税込)

「ハイよ、お待たせ」と出てきたそれは、お皿に盛られたバラの焼き鳥といったらいいのか。しかし、ひと口食べるとよく焼かれた皮のパリパリ感と、ほどよい脂っこさで風味の良さが際立っている。

面白いことに、皮を注文したのに、皮ばかりでなくいろんなものが入っている。せせりやモモ肉などがミックスされていて、いろんな味が楽しめて楽しい。秘伝のタレはコク満点で、肉の旨味を引き立てている。

「大阪の千日前に昔、『一休さん』というれんこん焼きの店があってね。大阪のいとこに連れて行ってもらったんだ。そこでこの焼き方のヒントをもらったんだよ」と笑顔の中川さん。

聞けば、今治はタオル業界の職人や漁師が多く、みんなとにかくせっかちな人柄なのだという。中川さんによれば、「当時、今治の焼き鳥店ではスズメを焼いていたんだよ。でも、それ以外の味をと思い、私が鶏肉で焼き鳥屋を始めたんだ」。その時に思い出したのが千日前のレンコン焼き。「鉄板で一気に焼けば早く料理が出せるから、せっかちな今治の人にもピッタリだろうな、と思ったんだよ」とのこと。

鉄板焼きの良さはスピードだけじゃない。鉄板は少し斜めになっているから油が流れやすく、パリッと香ばしく焼けるのもポイントだ。加えて、かわにいろんな部位を加えているため、いろいろな味のエキスがしみだしておいしくなるという。

かわは1皿300円(税込)。安いのも魅力だ。ちなみに、「もうひとつの今治名物『せんざんき(唐揚げ)』も、うちから広まったんだよ」と中川さん。今治の中で焼き鳥屋は一時期120軒ほどあったらしいが、今は6軒程度に落ち着いているのだという。

しかも、「焼き鳥だけを専門でやっている店はうちぐらいかなあ」と少し誇らしげな中川さん。ちなみに焼き鳥のタレは、昔はもっと辛くかったそうだが、「ビールを飲む人が増えたから、ほんの少しだけ甘くなっているよ」と教えてくれた。

●information
五味鳥
愛媛県今治市旭町1-5-20

皮とせせりで2度おいしい

次に向かったのは、創業31年目の「鳥多都」だ。つぎ足しつぎ足しで作り続けているタレは、「どっちかといえば甘口かな」と橋田初美さん。ここでも「かわ」をオーダーしたところ、なんと280円(税込)。驚きの安さである。

ここの「かわ」は皮とせせりの2つの部位が入っている。皮のパリパリ感とせせりのコリコリした食感が絶妙にマッチしている。うーん、やっぱりビールが進む。

「昔は常連さんばかりだったけれど最近は若い人もお客で増えたね」と橋田さん。ちなみにもうひとつの人気メニュー「きも」(280円・税込)は、串打ちでふっくら香ばしい味わいが人気だ。

「鳥多都」の「かわ」は280円(税込)

●information
鳥多都
愛媛県今治市高橋甲152-6

鶏肉はもちろん、野菜にもこだわりあり

さらに、もう一軒行ってみようと向かったのは居酒屋の「世渡」だ。「うちはとにかく素材にこだわってるよ」と言うのは店主の砂田市雄(いちお)さん。国産の鶏肉を使い、野菜のネギやキャベツは「その時期ごとに一番おいしい国内産地から入れています」と焼き鳥以外のいろいろなメニューも楽しめる。

「かわ」は400円(税別)。注文したところ、ここも皮以外にいろいろな部位が入っていた。タレは甘め。しっとりとした口当たりだ。「GWや夏休みになると全国からリピーターが来ますよ」という砂田さん。

「世渡」の「かわ」は400円(税別)

●information
世渡
愛媛県今治市黄金町1-5-20

以上ざっと駆け足で紹介した今治の「焼き鳥」。この地域特有の味わいをぜひ現地でお試しあれ!!

※記事中の価格・情報は2014年5月取材時のもの