ANAは機内やラウンジで提供するワインに関して、マスター・オブ・ワインのアドバイザーやソムリエの資格を持つCAなどが選定する、独自のワインセレクションを行っている。その一方で、実は日本酒においても選定会を実施している。

約80銘柄の中より、2015年3月から提供する1年分の日本酒約10種を選考する

ラウンジの日本酒に生酒もエントリー

ANAの「THE CONNOISSEURS」のメンバーでもある日本酒評論家・太田和彦氏

ANAの日本酒選定会はその年によって時期が異なり、この7月に行われた選定会では2015年3月からの1年分の日本酒を選んだ。現在、ANAはエコノミークラスを除く国内・国際線と国際線ANA SUITE LOUNGE(以下、スイートラウンジ)で日本酒を提供しているが、過去にはエコノミークラスでも日本酒を用意していたことがあると言う。

今回は選定基準は「日本のSAKE 文化の発信」。5月下旬~6月にかけて日本酒の募集を行い、全国各地の蔵元から約80銘柄のエントリーがあったという。その中から書類選考をして、最終選考である選定会には約60銘柄の日本酒が並んだ。なお、今年からの取り組みとしては新たに生酒が加わったが、デリケートな生酒は機内で保存が難しいため、スイートラウンジの部のみで選考対象となっていた。

選定会にはANAの食の匠「THE CONNOISSEURS」のメンバーでもある日本酒評論家・太田和彦氏をはじめ、ANAの食を担当しているシェフや全日空商事、また、地上・機内サービス開発担当者など約20名が参加。"選定会"という名目で実施していない年もあったため、今年で何回目とうたうことが難しいようだが、参加者には今回で6回目という人もいたようだ。

日本酒がたどってきたストーリーも重要

日本酒選考会はラベルを開示して行う

ANAのワインセレクションとの大きな違いは2つある。まず、ワインセレクションの場合はブラインドテイスティングとなるが、日本酒選定会では銘柄や産地、酒米などの情報を開示した状態で選定する。山田錦やササニシキなどの酒米のほか、その日本酒が作られるまでのストーリーをたどりながら、フライト前・機内でもっともおいしいと感じられる一品を選出する。

もうひとつの違いは、日本酒選定会は2部構成になっていること。ワインセレクションではひとり一人が判定するフリーテイスティングだったが、日本酒選定会ではフリーテイスティングの後にみんなで議論する合議制を採用している。この2部構成は今年からで、従来の日本酒選定会では合議制のみだったよう。フリーテイスティングを挟むことで、より多くの中から選考することができるようになったという。

また太田氏は、「1部ではほかと比較することで合格点のものを選出し、2部では純粋に味で判断できます。日本酒は嗜好品であるため、その人の好みが反映されてしまいますが、女性客もいることを考えると重厚なものだけでなくさっぱりとしたものも必要ですし、機内食との相性も重要なポイントです。そうした様々な条件の中で選ぶのに、合議制は適した方法だと思います」と述べている。

フリーテイスティングは順位を各部門別に順位をつけて評価する

上空という特殊な環境で味わう日本酒

実際、地上と上空では日本酒の味わいはどう変わるのか。これは日本酒のほか、ワインや料理にも言えることだが、機内では鼻の粘膜の乾燥により、香りや甘み、塩味を感じにくくなり、結果、酸味を感じやすくなる。男女のほか海外の人にも楽しんでもらえるように様々な味わいの日本酒を機内で用意しているが、とりわけ、すっきりした味わいはひとつのポイントになるそうだ。

また、ANAは現在、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2014」の最高金賞の中から3銘柄を8月末までファーストクラスで提供しているが、これは外国人利用者を意識してのことだという。

「日本らしいお酒を気軽に楽しんでもらえるように、海外の方にとってはおちょこよりもなじみのあるワイングラスで楽しんでいただければ、という想いからです。実際、外国人の方の中には、日本酒に氷を入れて飲みたいというリクエストをされる方もいらっしゃいます。

また、クセがある日本酒の中でも、シャンパン感覚でさっぱりと楽しめるスパークリング日本酒は人気の品です。保存環境の制約から現在はラウンジのみでの提供ですが、ラウンジでまずはのどを潤してもらい、機内で料理とともにゆっくり味わう、そうした一連の流れで日本酒を味わってもらえればと思っています」(ANA 商品戦略部アシスタントマネジャー・鳥巣奈美子さん)。

スイートラウンジには、スパークリング日本酒や生酒も候補に

機内食との味わいも大事な評価ポイント。シェフの声も選考に生かす

選定会でそろえられた約60銘柄の日本酒に対して、太田氏が"合格"と感じたものは2割5分だという。フリーテイスティングを経て選ばれたのは約20銘柄で、この中から最終的に約10銘柄が2015年3月より随時提供されることとなる。

選考に関して太田氏は、「よく知られた銘柄よりも、まだあまり知られていない銘柄の方が、日本酒ファンには喜ばれるのではと思っています。また、日本酒ならではの香りが楽しめる生酒はやっぱりおいしい。外国の方にも様々なタイプの日本酒を楽しんでいただきたい」とコメントした。

最後には、2015年3月よりファーストクラスで提供される珍味も選考

選定会では、「新しい取り組みとして、ぜひ生酒を味わっていただきたい」と生酒をプッシュする声もあったが、最終的な日本酒の発表は2015年の2月を予定している。どんな日本酒が登場するのか、2015年3月以降、ANAならではの空の旅で実際に味わっていただければと思う。