木曜21時から放送中の『MOZU』(TBS系)と『BORDER』(テレビ朝日系)のバトルが熱い。ともに刑事ドラマながら全く異なる作風で、評判・視聴率の争いが激化している。

『BORDER』主演の小栗旬(左)、『MOZU』主演の西島秀俊

2011年10月にTBSが同枠を新設してから10作品が放送されたが、視聴率での勝敗は1勝9敗でテレビ朝日の圧勝だった。やられっ放しのTBSが切り札として用意したのは、WOWOWとの共同制作であり、西島秀俊や香川照之ら旬のキャストで固めた『MOZU』。4月10日に同時スタートの初回こそ13.3%を記録し、小栗旬主演の『BORDER』に3.6%の大差をつけて勝ったが、回を追うごとに差が縮まり、第4話でついに逆転。第5話では『BORDER』が13.1%を記録し、『MOZU』を3.0%も上回った。

ともに高評価ながら、『ルーズヴェルト・ゲーム』さながらの逆転劇が起きたのはなぜなのか? 連ドラ評論家・木村隆志が、その理由と同ドラマの見どころを解説していく。

やられっ放しの「長すぎる映画」

『MOZU』が逆転を許した最大の原因は、複雑すぎるストーリー。警察とテロリストの抗争に加え、警察内部の争い、さらに個人での連携や裏切りが飛び交い、ドラマ評論を生業にしている私でも整理しなければ分からなくなってしまうほど難解だ。そして、なかなか謎が明かされていかない展開は、連ドラとしての脚本とは真逆のベクトルで、いわば長すぎる映画を見ているような印象を受ける。挑戦する姿勢は分かるが、各話にテンポの良さとカタルシスを求める現代の視聴者には厳しいのではないか。

また、主人公たちが悪役に痛めつけられるシーンが多いのも気になる。やられてばかりの主人公たちを毎回見ていられるほど、現代の視聴者は気が長くない。長谷川博己や吉田鋼太郎は悪役としての輝きを十分放っているだけに、「早く彼らをやっつける西島秀俊の姿を見たい」という視聴者は多そうだ。さらに、その他にもいるであろう、新たな悪役の姿が顔を見せないのも消化不良と言える。

ストーリーが分からず、主人公がやられ続けているのを見ていたら、リタイアしてしまう視聴者がいても無理はない。おそらく残り3話くらいで、あるいはWOWOWで放送されるSeaason2でその問題は解消されていくのだろうが、それまで待ってもらえるか。

底知れぬ脚本のバリエーション

一方の『BORDER』は、当初「死者と話せる刑事」という設定に拒絶反応を起こした人が多かったが、フタを開けてみると「被害者の想いを受け止める」これまでにないヒューマン要素を備えた刑事ドラマであり、徐々に視聴者を獲得していった。

主人公が被害者の代わりに無念を晴らす展開はスカッとするし、「死者が加害者のケース」「被害者が主人公に教えた犯人は間違いだった」「実は事件ではなく酔っ払いの事故死」など物語のバリエーションも多彩で、脚本が凝りに凝っている。『SP』『GO』を手がけた金城一紀の書き下ろしだけに、その質に疑いはなく、今後もさまざまな角度から「死者と話せる刑事」を描いていくだろう。

さらに、「主人公の脳内にある弾丸の謎」という全話を通してのテーマもあり、『MOZU』をリタイアした人が食いつきやすい一話完結形式でもある。挑戦的なコンセプトでありながら、現代の視聴者にも合わせた総合力の高い脚本なのだ。

"引きの演出"も逆転の理由に

放送開始前は、『海猿』の監督・羽住英一郎が手がける「演出の『MOZU』」vs『SP』の金城一紀が書き下ろす「脚本の『BORDER』」と見られていた。しかし、放送がはじまってみると、『BORDER』は演出もスゴかった。

ダークに統一された映像のトーン、適材適所でほどよく味つけされた各キャラクター、小栗をはじめとするキャストの静かな熱演、事件解決に至るハラハラドキドキ……1時間がアッと言う間の洗練された世界観は、「映画級のスケールを誇る『MOZU』に演出でも負けていない」と言える。

爆破シーンから次回予告まで制作陣の意気込みや美意識をビンビン感じる『MOZU』が"押しの演出"なら、『BORDER』は協力者のサイモン&ガーファンクルからも分かるように"引きの演出"。逆転劇を見る限り、「派手でカッコよさそうなものが勝つ」とは限らないのだろう。

「荒唐無稽な設定ながら、リアリティのある映像と演技」の『BORDER』、「リアリティがありそうな設定ながら、荒唐無稽な映像と演技の『MOZU』。あなたが好きなのはどちらか。

途中参戦OKとリタイア続出の明暗

最後に視聴率の推移に触れておこう。『BORDER』の9.7%、9.7%、10.1%、12.0%、13.1%に対して、『MOZU』は13.3%、12.8%、10.9%、10.3%、10.1%と見事なまでの右肩上がりと右肩下がり。途中参戦OKでファンを増やす『BORDER』と、複雑すぎてリタイア続出の『MOZU』で明暗が分かれている。

今後はますますその差が広がっていきそうな気もするが、Seaason2が控える『MOZU』はこのまま黙っていないだろう。絶好調の『BORDER』と意地を見せたい『MOZU』。両ドラマは、「どちらかを生視聴し、もう一方を録画視聴する」だけの価値があることは確かだ。

木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。