全20作品がそろった2014年の春ドラマ。今回もドラマ評論家の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。

『ルーズヴェルト・ゲーム』主演の唐沢寿明(左)と『花咲舞が黙ってない』主演の杏

別記事(「『ルーズヴェルト・ゲーム』徹底包囲網と杏の人気爆発 - ドラマ評論家・木村隆志が2014年春ドラマの傾向を徹底分析」)において、今クールの主な傾向を、[1]『半沢直樹』の弟妹ドラマが明暗、[2]脇役システムが深化、[3]クール&スタイリッシュな映像美、[4]TBSの大勝負の4つと分析。オススメドラマを第1位『ロング・グッドバイ』、第2位『ルーズヴェルト・ゲーム』、第3位 『BORDER』、第4位『ブラック・プレジデント』、第5位『続・最後から二番目の恋』と発表しました。

本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していきます。

『ホワイト・ラボ~警視庁特別科学捜査班』(TBS系月曜20:00~)

出演者:北村一輝、宮迫博之、谷原章介ほか
寸評:同枠では異例のオリジナル作品で勝負。舞台は「科捜研と捜査一課の機能を持つ新組織」で、総額4億円のセットは圧倒的だ。ただ、タイプの異なる男前とスキルをそろえてヒーローシステムにしたことで、各キャラの演出が濃く、チープな印象も。ネタかぶりの『SMOKING GUN』だけでなく、『科捜研の女』との比較は不可避。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『極悪がんぼ』(フジテレビ系月曜21:00~)

出演者:尾野真千子、椎名桔平、三浦翔平ほか
寸評:「ラブでは数字が取れない」月9が真逆のベクトルに。テーマの"極悪エンタメ"通り、裏切りや出し抜き合いが相次ぎ、その画力はⅤシネ級。三浦友和、小林薫、竹内力、宇梶剛士らコワモテの共演は単純に楽しい。一方、主演の尾野は喜怒哀楽全開の"らしい"役でいつも通り。脚本のいずみ吉紘は、シンプルな人間ドラマのまとめ上手。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆】

『ビター・ブラッド』(フジテレビ系火曜21:00~)

出演者:佐藤健、渡部篤郎、忽那汐里ほか
寸評:"親子バディ"という変化球だが、犬猿の仲、新人とベテランという設定はド定番。熱血若手やダンディなどのイケメン刑事そろい踏み、カタカナのあだ名、派手なボディアクション、強盗事件、コミカル&ハイテンポな会話まで、90年代刑事ドラマを彷彿とさせる。"元相棒"の及川光博がイイ味を出しているが、新人らに任せた脚本に不安。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

『ブラック・プレジデント』(フジテレビ系毎週火曜22:00~)

出演者:沢村一樹、黒木メイサ、国仲涼子ほか
寸評:ブラック企業という時事ネタに、社長とゆとり世代との化学反応をかけ合わせた意欲作。テーマは夢や仕事など普遍的なものだが、毒舌社長のフィルターを通せば説教臭さはなし。毒の裏で掃除機を「よしおくん」と呼ぶなどの脱力感もいい。おっさんドラマ隆盛の中、大学生役の若手俳優をそろえたのも好印象で、変人役の沢村が生き生き。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

『なるようになるさ。』(TBS系火曜22:00~)

出演者:舘ひろし、浅野温子、泉ピン子ほか
寸評:TBSが火曜22時にドラマ枠を新設し、第1弾は昨夏放送の橋田寿賀子ドラマ続編。十八番の長すぎるセリフは違和感しかないが、中高年にはむしろ分かりやすく、これもアリか。初回は無銭飲食の家出老女を住み込みで雇い、不愛想な就活女子を即更正するなど、その剛腕ぶりは健在。浅野温子の超過剰演技は、逆に味が出てきた感も。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

『サイレント・プア』(NHK 火曜22:00~)

出演者:深田恭子、桜庭ななみ、北村有起哉ほか
寸評:ヒロインは、下町を駆けまわるコミュニティ・ソーシャルワーカー。ゴミ屋敷、引きこもり、認知症などの社会問題に手を差し伸べる姿が、静かな感動を呼ぶ。入念な取材に基づいた脚本、セリフに頼らない演出、静かな演技を重ねる俳優と、NHKらしさ満点。絶望的な孤独を抱え、けなげに奮闘するヒロインを応援せずにはいられない。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『TEAM -警視庁特別犯罪捜査本部-』(テレビ朝日系水曜21:00~)

出演者:小澤征悦、西田敏行、田辺誠一ほか
寸評:テレ朝イチオシの刑事ドラマ枠、今度の主役は「あなたたちは駒。能力は信頼していない」と言い放つ冷徹な管理官。ふだん脇役の小澤を主演に据え、華のなさを逆手に取り直球の刑事モノを目指す。ポイントは管理官の"策士"ぶりだが、初回は頭を下げる、味方を欺くというやり尽くした手だった。大胆な采配が見られれば楽しめる。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】

『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系水曜22:00~)

出演者:杏、上川隆也、生瀬勝久ほか
寸評:タイトルから銀行での悪者退治まで、"女半沢"の空気が一人歩きしていたが、コミカルさを入れて差別化。『ごちそうさん』で追い風の杏は、ハッキリとした物言いのハマリ役で、食事シーンを増やす工夫も見られた。ただ、ドロドロの人間関係やシリアスな攻防戦に乏しい分、痛快さはそこそこ。演出のさじ加減にも迷いが見られた。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『SMOKING GUN~決定的証拠~』(フジテレビ系水曜22:00~)

出演者:香取慎吾、西内まりや、谷原章介ほか
寸評:舞台は民間の科捜研。「警察の科捜研とは事件の質が異なる」と言いつつ、実際はほぼ同じ。コンセプトの「サイエンスヒューマンミステリー」は、どちらつかずの危険要素であり、主人公のドーナツ片手に捜査、決めゼリフの「スモーキングガン」はマンガにしか見えない。香取+事件モノで置きにいった作品だが、裏目に出たか。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『刑事100キロ』(テレビ朝日系木曜19:58~)

出演者:石塚英彦、高畑淳子、中村俊介ほか
寸評:一年ぶりの第2弾は、思い切ったモデルチェンジ。犯人を最初に明かして「どう落とすか」を楽しむ倒叙モノで、差別化を目指すことになった。もともと石塚はズケズケ、ネチネチしたキャラだっただけに、すんなりフィット。ただ、徐々に追い込むのが醍醐味なのに、犯人があっさりボロを出すなど、脚本が洗練されていない印象。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』(TBS系木曜21:00~)

出演者:西島秀俊、香川照之、真木よう子ほか
寸評:「映像化不可能」と言われたハードボイルド小説を映像化。映画『海猿』の羽住英一郎らしいダイナミックな演出が見られ、その画角やアクションは映画クオリティに。ただ、人間関係と伏線が多く、見る側にかなりの集中力を求めるのはマイナス。粘り強く見続けたら、終盤に怒とうの展開がありそうだが、そこまでどう引きつけるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(テレビ朝日系木曜21:00~)

出演者:小栗旬、遠藤憲一、古田新太ほか
寸評:刑事モノというより、「生と死、情と非情、正義と法」の境界線を描いたヒューマン作。謎解きはほとんどないが、被害者の無念や小栗の葛藤がヒシヒシと伝わってくる。脚本は小栗を想定して書き下ろされただけに、キャラに違和感なし。「死者と話せる」設定はバリエーションが多く、飽きずに見られそう。ダークに統一された映像も見事。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

『続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系木曜22:00~)

出演者:小泉今日子、中井貴一、飯島直子ほか
寸評:第二弾のオープニングも、主演の結婚を思わせる遊び心が。小泉と中井の口論も、家族間のズレが逆に自然な食卓も、鎌倉の美景も健在で、「楽しくも切ない」「豊かでも寂しい」リアルなセカンドライフが描かれている。個性派のメンバーに加瀬亮と長谷川京子が加わり、まさに役者がそろった。実年齢役で伸び伸び演じる小泉今日子に注目。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『マルホの女~保険犯罪調査員~』(テレビ東京系金曜19:58~)

出演者:名取裕子、麻生祐未、宇梶剛士ほか
寸評:『三匹のおっさん』で作ったいい流れを踏襲し、テーマは勧善懲悪。最近少ない女性バディモノで、中高年に人気の2人を起用した。テンポのいいかけ合いはさすがで、そろって芸者姿になるサービスショットも。扱う事件や保険知識など、刑事ドラマとの差別化もできている。同時間帯のライバルが枠廃止され、視聴率は安定か。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『アリスの棘』(TBS系金曜22:00~)

出演者:上野樹里、中村蒼、オダギリジョーほか
寸評:「構想3年のオリジナル」だが、大学病院の医療ミス、復讐劇と設定はありふれている。ただその分「毎週、悪人が成敗される」見やすい作りに。ポイントは悪人のキャラ設定。「手術はトレーニング、患者はマウス」など悪人のあからさまなセリフに違和感を覚える。父の死をめぐるミステリーの盛り上がりと、終盤のどんでん返しに期待。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『死神くん』(テレビ朝日系金曜23:15~)

出演者:大野智、桐谷美玲、菅田将暉ほか
寸評:チーフ演出に『リング』『クロユリ団地』の中田秀夫を迎え、伝説の名作マンガをムードたっぷりに映像化。人間関係や社会問題を扱った各回のエピソードはもちろん、トボけながらもそっと寄り添う大野の姿が感動を誘う。さらにカラス役の桐谷や、死神の上司などコメディも効いている。映像と脚本の随所にこだわりが見られる良作。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(日本テレビ系土曜21:00~)

出演者:二宮和也、福士蒼汰、有村架純ほか
寸評:進学高校の野球部を描いた実話のドラマ化。ただ、分かりやすさを求めた結果、極端でマンガ的なものに。部員はキャッチボールさえできず、試合中にマウンド付近で寸劇がはじまり…野球好きではなく、若手俳優目当ての女性狙いは明らか。進学校らしい言葉づかいなどの演出も行き届かず、二宮も元研究者らしい役作りの再考が必要か。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

『ロング・グッドバイ』(NHK土曜21:00~)

出演者:浅野忠信、綾野剛、小雪ほか
寸評:ハードボイルドの超名作をドラマ化した野心作。脚本に渡辺あや、音楽に大友良英、さらに『外事警察』のスタッフが再結集し、ロケ地や小道具まで凝りに凝っている。「見返りを求めず、自分が正しい方を選ぶ」無口な主人公・増沢磐二は、ただただカッコイイ。珈琲の香りすら漂ってきそうな臨場感もあり、文句なしのオススメ。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

『ファースト・クラス』(フジテレビ系土曜23:10~)

出演者:沢尻エリカ、中丸雄一、佐々木希ほか
寸評:「マウンティング」という旬のネタに「虐げられる沢尻」をかけ合わせ、心の声や格付けランキングを差し込むなどの遊び心も楽しい。脚本は『名前をなくした女神』の渡辺千穂で、女同士の探り合いはお手の物。共感や反発の口コミ必至で、女性ならではの世界観はむしろ月9向きだったかも。気の強い美女に囲まれた中丸が子犬に見える。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系日曜21:00~)

出演者:唐沢寿明、檀れい、江口洋介ほか
寸評:『半沢直樹』スタッフ総動員で、物語のトーンを踏襲。さらにビジネスと野球の両シーンを見事にカットバックで描いている。全ての映像にこだわりがあり、テンポもよく、出し惜しみなしの全力勝負。ラスト10分間は、「倍返し」同様に逆転劇で楽しませてくれる。俳優やスタッフにいい意味でのプレッシャーをかけた極上のエンタメ。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。