東京でもっとも気持ちの良い風の吹く土地といえば、川の流れる水辺だろう。隅田川を水上都バス「東京水辺ライン」に乗って川風に吹かれるのは最高の贅沢(ぜいたく)と言える。乗り場のある下町、例えば両国などには独自の食文化があり、乗船ついでに驚きのグルメ体験だってできてしまう。

両国の街には、お相撲さんがよく似合う

310円で優雅に東京クルーズ

東京都公園協会が運行する「東京水辺ライン」はいまや水上の都バスとして定着し、年々乗船客の数を増やしている。

運行コースには、浅草・お台場クルーズ、隅田リバー葛西・浅草コースなど連日運行しているものの他に(悪天候の場合は欠航もある)、江戸東京ぶらり旅、カワセミ日本橋川・神田川めぐりなど多くの不定期運行のコースを用意。地上からとは違った東京の姿を楽しむことができる。

今回はそんな水辺ラインの浅草・お台場クルーズに乗って、両国へと向かってみることにした。浅草二天門-本所吾妻橋-両国の20分ほどの短い船旅だが、初夏の川風を味わうと同時に、両国の街で、食通として知られるお相撲さんたちがひいきにするお店や料理をぜひとも味わってみたいと思ったからである。

水上バス「かわせみ」。両国、浅草二天門間の料金は310円

隅田川の岸辺にある水辺ライン発着場で下船し、土手を超えて両国駅前に出る。すぐ隣には国技館、さらに隣接して江戸博物館があって足を向けたくなるが、今回はグルメ散策と決めていたので、両国駅前から国技通りを回向院方面へと進む。

すると、駅前で早くも「さすが相撲の町!」と思い知らされることに。「霧島」や「寺尾」などちゃんこ料理店が軒を連ねるのは想定内だが、地元洋食屋さんに「大盛ナポリタンとがぶ飲みハイボールの店・両国テラス」なる看板を発見したのである。「両国テラス」の入り口には、普通の2倍はあろうかという超大盛りのナポリタンの見本が飾られている。

どすこいメニューのある「両国テラス」の大盛ナポリタンのサンプル

メニュー看板は「どすこいメニュー」ときた。「バケツ盛りチキン&ツイスターポテト」「両国大判メンチカツ」などなど、すべてが“力士標準”のボリュームであることをうかがわせて激しく心ひかれる。しかし、胃はひとつしかない。ここで食べてしまったら、噂の"アレ"が食べられなくなるので泣く泣く我慢である。

歴代の力士ご用達の「鶏ラーメン」は300円!

噂のアレとは、このご時勢に300円という良心過ぎる価格で手供している、お相撲さん絶賛の鶏ラーメンのこと。駅から国技通りを進んですぐの路地奥にある、中華店「みやもと」の名物ラーメンだ。

白鳳も日馬富士も大好きな「みやもと」の「鶏ラーメン」(300円)

「関取のほとんどが食べにきます。白鳳や日馬富士は今でも若い衆を連れて来てくれますよ」とご主人が自慢する鶏ラーメンを注文する。待つこと数分、テーブルにアツアツのラーメンがやってきた。細かく刻まれた肉片の浮いた濃厚白湯スープが細麺にからんで絶妙の味わい。コラーゲンたっぷり、奥深いコクがある。

「スープは大山鶏と豚、それにカツ節でだしをとって作っています。スープに浮いているのは、鶏皮と豚の背脂を丹念に煮込んで刻んだもの。作るのには手間と時間がかかります」。

これで300円!?である。「いいんです、喜んで食べてもらえれば。ずっと300円は変えるつもりはありません」と男気たっぷりのご主人。大満足で店を出ると、ビン付け油の香りを漂わせている外国人力士と日本人力士の2人連れとすれ違ったが、彼らも、「みやもと」店内へと吸い込まれていくのを確認できた。

●information
中華食堂「みやもと」
墨田区両国2丁目18-7 ハイツ両国駅前101

両国には相撲の街ならではの、「太っ腹自販機」なるものが街頭に設置されている。各種ソフトドリンクが80円。「どすこいドリンク」なるものもあって、こちらも鶏ラーメン同様の破格値で60円!! 次の機会にぜひ買って飲んでみたい。

「太っ腹自販機」の「どすこいドリンク」はなんと60円!!

両国スイーツと言えば「おせんべアイス」に「あんこあられ」

「どすこいドリンク」を我慢したのは、その名も「両国国技堂」なる甘味処で名物「おせんべアイス」(410円)を食べたかったからだ。手作りアイスの中に細かく砕かれたせんべいが入っているという代物だ。恐る恐るひと口。ややキワモノ的なイメージがあったが、アイスのなめらかな触感に時折コリっというせんべいの堅さがアクセントとなり、なかなかいける。アイスクリームは濃厚で非常に美味である。

その名も「両国国技堂」

「おせんべアイス」(410円)

「国技堂」に立ち寄ったからには、噂のあられも買わざるを得まい。あられになんと小豆餡を乗せた「あんこあられ」(486円)。日本にあられは数あれども、ここでしか買えない代物だ。せんべいに納豆を乗せた「ねばりごし」もある。店員さんによれば、「あんこ型(肥満型)」「粘り腰」という相撲用語にひっかけたネーミングだとの由。家庭や職場へのお土産にしたら、みんなでワイワイ盛り上がれることうけあいである。

「揚げあんこあられ」1袋464円

「ねばりごし」1袋486円

ここまで来たらもう、「両国 風の蔵」にも足を向けざるをえないだろう。こちらもお相撲さん御用達の店で「両国メンチカツ」と「両国焼きドーナツ」(216円)が大評判なのだ。メンチカツはひき肉たっぷりの本格派で、ボリューム満点。ドーナツは油で揚げておらずさっぱりとした甘みのこちらも本格派だが、激辛唐辛子ハバネロ入りなどもあって「お相撲さんが遊び心で買っていきます」とのことである。

「両国 風の蔵」

激辛ハバネロ入り焼きドーナツ」216円

●information
「両国 風の蔵」
墨田区両国2-18-3

このほか、かつて境内で本場所が開催されたという回向院の横手にあるカレー専門店「若」の「相撲部屋のチキンカレー」や「勝つカレー」などなど、両国には大相撲にちなんだ名物料理が数々あって、とても1日では回りきれない。両国はさながら相撲グルメの魔境である。

●information
「若」
墨田区両国2-10-6

※記事中の情報・価格は2014年4月取材時のもの