専用のウエアもいらないし、心拍計も必要ない。目的を持たず、気の向くままにブラブラ走る――。「ポタリング」はサイクリングの始まりにして、究極の楽しみ方である。
ポタリングというのは目的を持たず、のんびり走ることだ。英語のPotter(ぶらつく/ぶらぶらする)を語源とする和製英語らしいが、散歩の自転車版といったところである。なので、歩くよりも遠くまで散歩ができるというわけだ。
自転車はなんでもいいが、街中や郊外なら気軽に心地よく走るクロスバイクがいい。今回はオートマチック変速システムを搭載した話題の"ネスト・オートメイト"を使って、近所をポタリングしてみた。
住宅街にある美味しいレストランや、駅から遠いけど景色のいいカフェ、観光マップには出ていないけど……といった、粒は小さいがキラッと光る場所を回ってもいい。
筆者の住む埼玉県越谷市は、これと言った観光地もないし、見晴らしのいい山や丘もない。ただ、川が多く流れており、水辺のそばを走るサイクリングロードは多い。最近は駅から離れた場所に小洒落たブーランジェリーやカフェができ、ポタリングする機会も増えてきた。
先日は藤棚をいくつか巡って、営業日が少なく入ったことのないカフェに行くのを目的に家を出ることにした。ロードバイクでガシガシ走れば1時間程度の行程だが、寄り道もするだろうし3時間ぐらいが目安だろう。これからの季節なら菖蒲や紫陽花を目指して走るのもおすすめだ。
自動変速で効率的に走る
家から100メートルほどでギヤが自動で1枚重くなった。オートメイトに採用されているQ'AUTOは、ペダルの回転数、スピード、勾配から判断して電子制御で最適なギヤを選択する。ギヤを1枚重くしたのは、おそらく平坦で加速したからだろう。
サイクリストが変速する回数は、びっくりするほど多い。ペダルの回転数を一定に保つため、風向き、路面コンディション、わずかな傾斜でもペダリングの回転数が落ちそうになったら、すぐに変える。
トータルで考えれば、このような走り方が効率的なのだが、最初は変速するタイミングが分かりにくい。信号で停車する前に1枚ギヤを軽くしておくと走り出しが軽くていいのだが、ついつい忘れがちだ。
オートメイトはゆっくりとペダリングしながら減速していくと、自動的にギヤを軽くする。こうした違いは小さく積み重なっていき、疲労軽減に貢献してくれる。エレベーターと階段ぐらい違うとは言わないが、自動ドアと手動ドアぐらいの違いはある。
向かったのは越谷駅から徒歩25分ほどの久伊豆神社。樹齢200年を超える藤の古木があり、高さ2.7メートル、東西14.5メートル、南北27.2メートルの棚に蔓を広げている。普段は静かな境内だが、今日は藤を目的に散策している人も多く賑やかだ。10分ほど庭園を散策し、元荒川沿いのサイクリングロードを目指す。
さて、この日のウエアはクライミングパンツ+Tシャツ。本格的に走るなら、お尻が痛くならないパッド入りパンツや、汗を掻いても速乾素材のウエアが勝る。だが、ポタリングの場合は、動きやすいウエアなら十分だ。ちなみにクライミングパンツを選んだのは股上周辺に縫い目がなく、走っている時に摩擦でお尻が痛くなりにくいからである。
散歩みたいなもので気軽なライドだが、ヘルメットやグローブなど安全装備は忘れずに。転んで手を付いて、掌の皮が……なんて考えるだけでも痛い。そして、タイヤの空気圧もパンク防止と快適性向上に繋がるので丁寧にセッティングする。
元荒川のサイクリングロードはお世辞にも路面がスムーズではない。ただ、うまく空気圧のセッティングが決まると、凸凹を越えたときの振動の角が取れて不快さが軽減される。 さじ加減をつかむには経験を積むしかないが、不快に思ったら我慢しないこと。想像以上に乗り心地が変わるから。ただ、抜きすぎるとパンクの原因になるので、抜くときは少しずつ行うのがコツだ。
ルートは気ままでいいが、大雑把には決めておいた方が走りやすい。今回は神社をいくつか回った後、カフェでゆっくりしてから帰るというプランにした。
歩くには遠いカフェも身近になる
「クロスバイクなんか、どれも同じ」――そう思っている人は多い。私もそう思っていた。だが、10年ほどクロスバイクのインプレ本を手掛けてみて、走行性能の差が想像以上に大きいことが分かった。
本格的なスポーツバイクだったら数千円は誤差の範疇だが、クロスバイクの場合、全体の価格が手頃だけに大きな違いとなる。オートメイトに試乗した人から「これは電動アシストではないんですか?」と聞かれることもあるという。
それほど軽く進むのは、ロードバイクに使われる上質なフレームと最適なギヤ比で走れることが大きく影響している。軽量で精度が高いため、ペダルに加えた力が淀みなく推進力となり、足を止めているときも減速せずにスーッと滑走するのだ。
元荒川から新方川のサイクリングロードにルートを取り、キャナルタウンの手前にあるカフェに入る。大きな楡の木が目印のカフェは最寄り駅から徒歩だと30分以上、住宅街と川に挟まれた静かな場所にある。
オーナーが定年退職後にオープンした小さな店で、趣味の延長線上という佇まいである。ポタリング中に何度か訪ねてみたのだが、ちゃんと営業日を調べていなかったため、初めて入ることができた。
店先にある自転車ラックは先客がいたので、店の人に声をかけると、店先まで出てきた奥さんが、
「高そうな自転車ですね」とオートメイトに目をやった。
「少しだけ値が張りますね」と答えて、中へ入った。
ポタリングをしていると、自転車をきっかけに話がはじまることも多い。また、顔は覚えてもらえなくても、"たまに自転車で来る人”。そんな感じで私のことを覚えてくれているカフェも何軒かある。
歩くには遠いが、クルマで行くほどでもない。そんな場所を巡るのも楽しいし、町内の道をすべて走ってみるのも挑戦してほしい。童心に返って楽しめるはずだ。








