4月27日スタートの『ルーズヴェルト・ゲーム』でようやく全20作がそろった春ドラマ。目につくのは「局の威信を賭けた」力作の多さで、「『半沢直樹』のような大ヒットを!」という気概を感じるハイレベルなドラマが目白押しだ。

春ドラマの主な傾向は、[1]『半沢直樹』の弟妹ドラマが明暗、[2]脇役システムが深化、[3]クール&スタイリッシュな映像、[4]TBSの大勝負の4つ。

『ルーズヴェルト・ゲーム』で主演を務める唐沢寿明

傾向[1] 『半沢直樹』の弟妹ドラマが明暗

『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系毎週日曜21:00~21:54)と『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系毎週水曜22:00~23:00)の原作は、『半沢直樹』の池井戸潤。『ルーズヴェルト・ゲーム』は、『半沢直樹』と主要スタッフが同じで、骨太なテーマと濃厚なキャラなどの世界観が似ている。一方、『花咲舞が黙ってない』は、『半沢直樹』と同じ銀行が舞台で、「上下関係や派閥を気にしない」主人公の言動も同列。テレビ局やスタッフこそ違うが、「ラスト10分間でスカッとできる痛快劇」という共通点は、まさに『半沢直樹』の血を引いている。

難題を解決する主人公は、どちらも今クールの象徴になりそうだが、初回視聴率は『花咲舞が黙っていない』が17.2%で春ドラマトップ。一方、大本命と目されていた『ルーズヴェルト・ゲーム』は14.1%で3位にとどまった。これは映画版『相棒X DAY』(テレビ朝日系21:00~)、WOWOWで堺雅人の特別ドラマ『パンドラ』(22:00~)など、各局の徹底包囲網が影響したか。

傾向[2] 脇役システムが深化

『あまちゃん』のヒットで流れを作り、『三匹のおっさん』で味をしめた脇役大量起用のシステムは、今回も健在。刑事モノが多いだけに、中堅からベテランの"おっさん男優"が大量起用されている。さらに今クールは、そんな"おっさん男優"の多さだけでなく、工夫を加えたアレンジも。

例えば、『極悪がんぼ』(フジテレビ系毎週月曜21:00~21:54)はコワモテの大御所を集めまくり、『TEAM』(テレビ朝日系毎週水曜21:00~21:54)は脇役エース格の小澤征悦を主役に、『MOZU』(TBS系毎週木曜21:00~21:54)は逆に大量の主役クラスを脇役に、『ロング・グッドバイ』(NHK総合 毎週土曜21:00~21:58)は連ドラにレギュラー出演しない映画界の名脇役・浅野忠信を主演に据えている。

傾向[3] クール&スタイリッシュな映像

今クールは、とにかく映像にこだわった作品が多い。ハードボイルドな世界観を極限まで追求した『ロング・グッドバイ』、鎌倉の美景にキャストのかけ合いが溶け込んだ『続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系毎週木曜22:00~22:54)、ホラーの名手が丁寧に演出した『死神くん』(テレビ朝日系毎週金曜23:15~24:15)、心の闇をダークな映像に投影させたような『BORDER』(テレビ朝日系毎週木曜21:00~21:54)。

その他にも、次回予告まで映画仕様にこだわった『MOZU Season1』、ファッション雑誌のスタイリッシュさを背景に女性心理を描いた『ファースト・クラス』(フジテレビ系毎週土曜23:10~23:55)の映像もクールと言える。

傾向[4] TBSの大勝負

前述した必勝態勢の『ルーズヴェルト・ゲーム』に加え、WOWOWとの共同制作で映画級のスケール感を持つ『MOZU』、上野樹里が大河ドラマ以来の主演ドラマに挑むオリジナル作品『アリスの棘』(TBS系毎週金曜22:00~22:54)、火曜22時に新設されたドラマ枠に橋田寿賀子脚本の『なるようになるさ』(TBS系毎週火曜22:00~22:54)と、「打てる手は全て打った」攻めの姿勢が見られる。

キャストやスタッフは、裏番組や同ジャンルの作品を凌駕しているだけに、評判と視聴率の両獲り狙いは明確。裏を返せば、「現在の視聴者が何を求めているか?」をはかる試金石になりそうだ。



これらの傾向を踏まえたオススメは、妥協を許さない映像作りと、スリリングな展開に目が離せない『ルーズヴェルト・ゲーム』。「やはり逆らえないか…」と思いつつ肩を並べるくらいの秀作があった。それは、連ドラの枠をはるかに上回るこだわりを凝縮した『ロング・グッドバイ』。この2作品は甲乙つけがたいが、初回の時点では五感への訴求が強かった後者を推したい。

さらに、「被害者が犯人を教える」という禁じ手に挑んだ『BORDER』、ブラック社長のキャラが痛快な『ブラック・プレジデント』(フジテレビ系毎週火曜22:00~22:54)、楽しくも寂しい会話劇が健在の『続・最後から二番目の恋』、ファンタジーにかけ合わせた感動と笑いのさじ加減が絶妙な『死神くん』と続く。それぞれ脚本、演出、映像美など異なる魅力を放っている。

一方、裏オススメは、進学校と野球部の描写が緩く、原作のアレンジが空回り気味の『弱くても勝てます』(日本テレビ系毎週土曜21:00~21:54)、倒叙モノにしたが肝心の脚本が物足りない『刑事110キロ』(テレビ朝日系毎週木曜19:58~20:54)、イケメンアクションに親子バディという安易な設定が苦しい『ビター・ブラッド』(フジテレビ系毎週火曜21:00~21:54)、マンガ的な演出が目立ち画面に集中しにくい『SMOKING GUN』(フジテレビ系毎週水曜21:00~21:54)、主人公の使う"策"がありきたりの『TEAM』。上記のほとんどが刑事系ドラマだが、それぞれ差別化を目指すあまり、既視感の強い設定や演出に走る傾向が見られたのは残念。巻き返しに期待したい。

【おすすめベスト5】
No.1 ロング・グッドバイ
No.2 ルーズヴェルト・ゲーム
No.3 BORDER
No.4 ブラック・プレジデント
No.5 続・最後から二番目の恋

【おすすめワースト5】
No.1 弱くても勝てます
No.2 刑事110キロ
No.3 ビター・ブラッド
No.4 SMOKING GUN
No.5 TEAM

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。