他の都市部と同じく太平洋戦争時に大空襲を受けた大阪だが、奇跡的に戦災を逃れ、昔ながらの古民家が多く残っているエリアも結構存在する。そしてそこでは現在、レトロな町家・長屋を利用した飲食店や雑貨店などが多く営業している。そんな大阪の町家・長屋スポットを紹介しよう。

明治~大正期建造の長屋などが多く残る大阪市の空堀界隈

映画化された小説『プリンセス・トヨトミ』の舞台にもなった「空堀商店街」

映画化もされたあの映画の舞台で

まずは、大阪市中央区谷町6丁目付近の空堀エリア。この空堀とは、かつての豊臣時代の大坂城南惣構(みなみそうがまえ)堀に由来しているのだが、ここにある空堀商店街の周辺には木造家屋が立ち並び、下町情緒にあふれた町並みとなっている。

ここの町家建築を生かしたスポットのひとつが「町家複合施設 惣(そう)」。明治時代の木造2階建て長屋2軒をつないで改装し、複合ショップとして2002年にオープン。現在、アンティーク小物店や美容室、ギャラリー、そしてカフェやワインバーなどが営業している。

1階入り口から町家建築ならではの細い廊下を一番奥まで行ったところにあるのが、「CRYDDERI CAFE(クーデリーカフェ)」という小さなお店。落ち着いた雰囲気の隠れ家的雑貨&カフェである。

店内には手づくり雑貨や食器、紅茶を置いたスペースがあり、壁面はミニギャラリーとなっている。奥にある外光が差し込むテラス席も人気の空間。1品1品丁寧に作られた手作りの焼き菓子や自家製料理が人気で、ドリンクの種類も豊富にそろえられている。

築およそ90余年の長屋を再生した「町家複合施設 惣(そう)」

手製の雑貨などが並ぶ「クーデリーカフェ」の店内

「クーデリーカフェ」日替わりランチ(680円)定番メニューのひとつ「煮込みハンバーグ」

「クーデリーカフェ」のケーキセット(700円)

フォーのあとにはベトナムコーヒーを

大阪の玄関口、JR大阪駅・梅田界隈の東側にある中崎町。大阪駅・梅田の喧騒とは打って変わって、のんびりとした空気が漂うレトロな町並みが残るエリアで、町家建築を利用した多くの雑貨店やカフェなどがある。その中崎町の町家カフェの先駆的存在が「モノカフェ ワヲン」。ベトナム料理が食べられる町家風カフェ&雑貨店で、2階はギャラリースペースとなっている。

天然のだしにこだわった鶏肉のフォーや揚げ春巻など、本格的なベトナム料理が評判で、もちろん、独特の香りとコクが特徴のベトナムコーヒーもいただける。

大阪駅から徒歩10分強ほどの立地とは思えない中崎町のレトロな町並み

本場の食材を使ったベトナム料理や現地で買い付けているベトナム雑貨をそろえる「モノカフェ ワヲン」

野菜たっぷり生春巻きと揚げ春巻きも付いた「モノカフェ ワヲン」のフォーガートレー(850円)

「モノカフェ ワヲン」のベトナムコーヒー(コンデンスミルク付き480円)

有形文化財の長屋でステーキも

大阪市阿倍野区昭和町の一角にも、貴重な木造建築の佇(たたず)まいを残す長屋が残っている。戦前の昭和8年(1933)に建てられた、木造2階建て瓦葺入母屋造の四軒長屋「寺西家阿倍野長屋」である。

宮大工によって見事に修復され、長屋として初めて国の登録有形文化財にも指定されている同長屋。現在はリノベーションによって、キッチンバー「混(COM)」、日本料理「旨魯(SHIRO)」、創作中国料理「AKA」、そして鉄板焼き「飛彈」という4軒の飲食店となっている。

こちらは先述のようなカフェとは違うのでいずれのお店もやや値段が張るが、4軒の中では比較的リーズナブルなのが鉄板焼き「飛彈」。ランチメニューの鉄板御膳は、国産牛赤身ステーキもしくはトンテキに、竹筒いもたこなんきん、グリーンサラダ、漬物、ご飯(大粒が特徴)、みそ汁、そしてミニお好み焼きもしくはミニ焼そばという内容で、1,000円というコスパの高さだ。

長屋として初の国指定登録有形文化財「寺西家阿倍野長屋」

ステーキはレア状態で提供され、好みに合わせて鉄板でさらに焼くこともできる

東京と比べて「緑のある憩いの場が少ない」と言われる大阪だが、こうしたレトロな下町の古民家を利用した飲食店や雑貨店などが、“ほっこり”を求める人たちのニーズに応えてくれているのだ。

※記事中の情報・価格は2014年3月取材時のもの