みなさんは、新たなドラマがはじまるとき、どんな基準で選んでいるだろうか? ドラマの内容、俳優、原作や脚本家、前評判など、さまざまな基準がある中、ここ数年間で重要度が増しているのが、“時間帯”。テレビ業界では「枠」「放送枠」と呼ばれているが、「この時間帯のドラマはとりあえず見る」という“枠指名”の視聴者が増えている。

とりわけ“枠指名”の傾向が強いのが、TBSの日曜9時枠と、テレビ朝日の木曜9時枠。前者は『半沢直樹』(2013年視聴率1位28.7%)や『とんび』(同6位15.5%)などを、後者は『Doctor‐X』(同2位22.4%)や『DOCTORS2』(同5位18.3%)など、昨年もヒット作を連発した。現在のドラマ業界を引っ張る2大枠と言っていいだろう。

一方、最も“枠指名”を得られなかったのは、『夫のカノジョ』(同ワースト1位3.9%)、『ぴんとこな』(同ワースト4位7.5%)のTBS木曜9時枠。『Dr.DMAT』も手堅いと言われる医療モノながら、全話平均も6.9%に終わるなど苦戦した。

“生視聴”の中高年をガッチリ

『ごちそうさん』でヒロイン役を務めた杏

同じ木曜9時枠なのに、テレビ朝日とTBSでこれほど明暗が分かれた理由は、ズバリ“生視聴”の多い中高年層を引きつけているか? 録画による視聴は、視聴率に換算されないため、各局が重視するのはリアルタイムの視聴者。そのため、「外出が多い録画派の若年層」よりも、「在宅率の高い中高年層」を取りこぼさずにつかむことが、ヒットの絶対条件になっている。

その点、テレビ朝日の木曜9時枠は、刑事と医療に絞り込んだラインナップで、中高年を狙い打ち。視聴者側も「大人向けのドラマでハズレが少ない」と“枠指名”を決め込んで信頼関係を築いている。ただ裏を返せば、テレビ朝日は「視聴率第一主義」で、若年層を二の次にしたドラマを作っているのも事実だ。

また、NHKの朝ドラを考えると分かりやすい。全世代向けに作って大ブームを巻き起こした『あまちゃん』よりも、中高年を意識して作った王道の朝ドラ『ごちそうさん』の方が視聴率は上回っている。これは枠の固定ファンを“朝の生視聴”でガッチリつかまえているからだろう。

フジがTBSと日テレに宣戦布告!

「各局の“枠指名”争い」が激化しはじめたのは、2010年10月。フジテレビが日曜9時にドラマ枠『ドラマチック・サンデー』を新設し、TBSの名門『日曜劇場』に真っ向勝負を挑んだが、平均視聴率で1勝9敗の大惨敗。盗作疑惑や低視聴率で打ち切られた『家族のうた』が追い打ちをかけるように、わずか2年半・計10作でドラマ枠は消滅した。

しかし、フジテレビはすぐさま水曜10時にドラマ枠を新設し、今度は日本テレビのエース枠『水曜ドラマ』とガチバトル。両局がしのぎを削った結果、櫻井翔の『家族ゲーム』(フジ)、満島ひかりの『woman』(日テレ)、堺雅人の『リーガルハイ』(フジ)と、交替で名作が生まれ、今クールも『明日、ママがいない』(日テレ)が話題性で、『僕のいた時間』(フジ)が質の高さで話題を集めた。

さらに、2013年10月にはフジテレビとテレビ東京が突然金曜8時にドラマ枠を同時新設し、バトル勃発。今クール放送された『天誅~闇の仕置人~』(フジ)と『三匹のおっさん』(テレ東)は、奇しくも「町の悪党を成敗する」というコンセプトが丸かぶりだったが、視聴率はテレビ東京の圧勝に終わり、フジテレビの同枠は廃止が決まるなど、“枠指名”をめぐる争いは増す一方だ。

月9のラブストーリーは終了か

『失恋ショコラティエ』でヒロイン役を務めた石原さとみ

枠の話をすると必ず名前が挙がるのが、フジテレビの月曜9時枠。かつて「月9を見ておけば間違いない」と言われ、ラブストーリーのヒット作を連発していたが、2012年からは年1本ペースに半減。2013年の視聴率3位19.9%『ガリレオ』をはじめ、『鍵のかかった部屋』『PRICELESS』など最近の人気作は、いずれもラブストーリーではなかった。 今クール放送された『失恋ショコラティエ』は、最高ランクの若手キャストに、過激な妄想やセフレなどのエロを加えてトライ。最終回には「松本潤の超長ゼリフと大失恋」という見せ場を用意したが、視聴率2桁がやっとの状態(全話平均12.3%)だった。 これは、「もはやラブストーリーとしての月9はニーズが少ない」ということか。実際、4月からの新ドラマは、怒声が飛び交う裏社会を描いた『極悪がんぼ』。ラブストーリーとは180度反対の物語であり、“枠指名”の流れに逆らうフジテレビの迷走が見える。ドラマ界全体を通してラブストーリーは、ほぼ壊滅状態にある上、同作が高視聴率を取るようなら、月9のラブストーリーは、いよいよ打ち止めになるかもしれない。

最後に。視聴率こそふるわないものの、とびきり“枠指名”を獲得している枠を紹介しておきたい。NHKの火曜10時枠『ドラマ10』は、原作・脚本・演出・主演と、全て女性の目線にこだわって作られ、『セカンドバージン』『八日目の蝉』『ガラスの家』『紙の月』など、見ごたえ十分の作品を放送してきた。視聴率は8~10%前後にすぎないが、濃厚な人間模様に加えて、映像美にもこだわったドラマ作りに、熱烈なファンが多い。女性は共感できるし、男性は女性の気持ちを理解するために、“枠指名”してみてはいかがだろうか。

木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。