■30代で見る『風と共に去りぬ』

岡田育さん

雨宮「『風と共に去りぬ』を最近宝塚で観たんですけど、最後にスカーレットがレット・バトラーへの愛に目覚めるじゃないですか。で、目覚めたのに結ばれないで終わるってことが、すごい納得がいかなかったんですよ。やっと両思いになったのにハッピーエンドにならないんだ! って。でも今見ると、アシュレという男を思い続けていたのに、それはただ自分が作った幻だったって気付いて、私を愛してくれているのはレット・バトラーだったと気付く……とか、ものすごい『あるあるある!』ってなることが多すぎて」

岡田「なりますね! 私も先日、観てきました」

雨宮「大人になるとすごい、これきつい話だねーって。あそこでもう、バトラーの愛は壊れてしまったんだというのも理解できた」

――そして土を握りしめるという

雨宮「そう、『私には土地がある』って」

岡田「あれ、すごいですよね……」

雨宮「私には土地ねーよ! って思って。そこが一番きて」

岡田「そう。昔はピンと来なかったけど、女の自立は不動産からか……ってなりますよね」

雨宮「私は(宝塚の公演から)帰った後に、宝塚市の中古マンションを検索しました。私にも土地が欲しい!」

岡田「土地欲しい! さらさらさら(土をすくって手からこぼす仕草)」

雨宮「『私にはタラがある』みたいな感じで、宝塚に中古マンション買って、遠征する人にウィークリーマンションとして貸したらどうかなって商売を思いついて。安いんですよ、宝塚市の中古マンション」

岡田「遠征のつもりが住み着きそうで怖いですね……。『風と共に去りぬ』ってずいぶん久しぶりに観たんですが、レット・バトラーが、スカーレットのことを最初は自分よりも弱い存在として扱うじゃないですか。中年男がおきゃんなお嬢さんを見初めて『ハッハッハ、かわいいなー』と余裕綽々でちょっかいかけて、駆け引きといっても、そんな君が好きだとか、そんな君は好きじゃないとか、手の上で転がすような感じで。だけど、最終的にスカーレットを手に入れたはずのレット・バトラーが、『僕はもう君を愛するのに疲れた』と言って去っていくじゃないですか。あれはこう……なんか、自分にも当てはまるなぁ、と」

雨宮「当てはまるんだー」

岡田「多分、若いうちは、勝ち気で美人なスカーレットがちやほやされる話、くらいにしか捉えてなかったんですよね。今は、彼女を愛する男性の気持ちも、愛せない男性の気持ちも、愛しているけど去っていくという男性の気持ちも、すごくわかる気がして」

雨宮「そうそうそう。何か"バトラー去(ざり)"をされたことありますよね、"あだち去(ざり)"みたいな感じで」

岡田「片手を上げて背中で去って行く、みたいなアレね(笑)。『君は一人でも生きていける、だけど僕は、そんな君とともに歩いていくことに疲れた』って、バトラーみたいな、あんなにいい男に言われたら、あとどうすればいいんだよ! と途方に暮れますよね」

雨宮「途中まではね、いい男と思ってないんですよね。彼女自身はね」

岡田「そう。若い頃はスカーレットよろしく『何よ、私のどこが不満なの?』と思ってしまう。でも、大人になってあのバトラー去(ざり)を見ると、無頼漢を気取っている彼の虚勢とか、心の弱みとか、情婦ですら完璧には理解してくれないその気持ちを、スカーレットにだけは分かってもらいたい、という男心にキュンキュンする話だったんだな、と。ようやく気が付きました」

雨宮「そう、何か大人の男の弱さみたいなものに」

岡田「これが哀愁! って」

雨宮「そうそう、これが背中! 男の背中!」

岡田「なるじゃないですかー」

雨宮「あれねー、愛せますよねー」

岡田「それに最後まで気が付かないでいる私たち女ってバカよね、本当にバカだったわ、という共感を生む話だったのだな、と」

雨宮「そう。よくできている話なんですよね」

岡田「原作と宝塚版とでまた違うかもしれませんが、学生時代の私は基本、『実業家としても成功したし、もう一人で生きていける女なんだから、アシュレが駄目でもバトラーが駄目でも、他に若い男がいくらでもいるでしょー?』と思ってたんですよ……若いですよね。一幕の最初、周囲の若い男たち全員からちやほやされていた娘時代のスカーレットと、愛し愛されることを知った二幕最後の彼女とは、ずいぶん違うじゃないですか」

雨宮「うん」

岡田「戦争をまたいで、時代も変わって、彼女自身もすでに見目麗しさだけで人にちやほやされる年頃を過ぎていて。だからこそ、あの愛に目覚められるわけだし、今回ばかりは『これで駄目なら他の男に行けばいいわ』っていうわけにはいかないんだよ、ということがね、観る側の自分が30代になって、ひしひしと……」

雨宮「身にしみるものが」

岡田「ありましたね……。ってこれ、連載終了記念の対談なのに、ただの宝塚の感想会になってますけど、大丈夫ですか!?」
(後編へ続く)

雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『SPRiNG』『宝島』などで連載中。

岡田育
1980年東京生まれ。編集者、文筆家。主な生息地はTwitter。2012年まで老舗出版社に勤務、婦人雑誌や文芸書の編集に携わる。同人サークル「久谷女子」メンバーでもあり、紙媒体とインターネットをこよなく愛する文化系WEB女子。「cakes」にて『ハジの多い人生』連載中。CX系『とくダネ!』コメンテーターとして出演中。2013年春に結婚。

構成: 飯田樹