毎年12月から2月頃には、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が多く発生する。12月2日にも千葉県の小学校にて、児童と職員200人が集団感染によっておう吐や発熱を発症した。特にノロウイルスは小児で重症化する恐れがあるが、患者の96%は点滴なしで自宅治療が可能ということは、あまり知られていない。
1週間の患者数は2万1,088人にも
2013年の全国速報値での感染性胃腸炎報告数は、11月11日~11月17日の時点で1万8,096人だったのが、11月18日~11月24日の時点では2万1,088人になっており、週を追うごとに患者数は拡大している。そもそも感染性胃腸炎とは、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスや、病原性大腸菌やコレラ菌などの病原体によって起こる消化器症状の総称。年齢によって発症する傾向が異なり、特にロタウイルスでの発症は新生児・乳児に多い。
済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科の十河(そごう)剛副部長によると、感染性胃腸炎は通常2週間以内に自然治癒し、おう吐のピークは長くて2~3日(通常は1日)、下痢のピークは長くて1週間(通常は2~3日)という。特に新生児や乳児は大人よりも重症化する傾向があり、感染性胃腸炎の中でも感染力の強いノロウイルスはより注意が必要となる。
脅威はウイルスよりも脱水症
「ノロウイルスそのものが、殺傷性の高いウイルス」と認識している人も少なくないが、十河副部長によると、感染性胃腸炎による死亡はウイルスそのものではなく、激しいおう吐・下痢によって陥る、深刻な脱水症状が原因になっているという。
現状、ノロウイルスを消滅させるような特効薬はないため、おう吐・下痢によってウイルスを排出しなければならない。その際、身体にとって不可欠な水分やナトリウム、カリウムなどの分解質も同時に排出されてしまうため、おう吐・下痢で失った分を補給することが必要となる。新生児や乳児が重病化しやすい理由はここにある。
34歳・体重60kgの成人の場合、体重の約4%(細胞外液の約21%)の水が1日に身体に入って出て行くが、6カ月・体重8kgの乳児は通常、体重の約14%(細胞外液の約46%)の水が1日に身体に入って出て行くこととなる。つまり、新生児・乳児は成人に比べて、病的状態下で摂取水分量の低下、排泄の増加が容易に起こりやすいため、成人よりも脱水症になりやすい。
点滴の前に経口補水療法を
実際、感染性胃腸炎になったらどうしたらいいのか。小児緊急患者の受診は年々増えているが、十河副部長によると、おう吐・下痢を起こして救急を受診する子供のほとんどは、脱水症を起こしていたとしても重度ではなく中程度だという。その場合、96%は経口補水療法が著効し、点滴ではなく自宅で治療が可能となる。
ただし、以下のような症状の場合は、感染性胃腸炎以外の病気が疑われるため、救急を受診する必要がある。
・明らかな血便、黒色便が見られる
・黄色、緑色の液体を吐く
・意識障害(刺激をしてもすぐに寝てしまう、抱きつく力もなくなる、けいれんなど)
・間欠的な激しい腹痛、若しくは間欠的に激しく泣く
では、経口補水療法とはどのようなものか。経口補水液は、水分に電解質(塩分)、糖質が一定の割合で含まれているドリンクで、治療中は特に食事を制限する必要はない。「泣いても涙があまりでない」「よだれが少ない」「排尿が少ない」「水を欲しがる」などの症状がある場合、3~4時間間隔で経口補水液を摂取させる(摂取量の目安は、体重(kg)×50~100ml)。上記の症状がない場合は、おう吐・下痢の都度に経口補水液を摂取させる(体重10kg未満なら60~120ml、体重10kg未満なら120~240ml)。
経口補水液をおう吐するような場合でも、脱水症対策のために少量ずつ飲ませる必要がある。また、経口補水液はゼリータイプのものもあるので、症状を見ながら使い分けてみるといいだろう。経口補水療法がそれほど奏功しない場合や、おう吐・下痢が頻回かつ多量の場合は、医師の診察を受けるようにしよう。
ノロウイルスなどの感染性胃腸炎では、おう吐・下痢のピークを脱水にならないようにどう乗り切るかがポイントなる。特にノロウイルスは感染力の強いウイルスなので、緊急の状況でなければ安易に外出せず、自宅で対処することも大事といえる。症状を正しく見極め、患者にとっても負担にならない適切な治療ができるように備えておこう。