日本人のおよそ4人に1人が、生涯に一度は「脳卒中」を発症するとされています。脳卒中といえば高齢者が発症するイメージがありますが、近年、55歳未満の若年層でも発症率が増加傾向にあるそうです。そこで、今回はCureAppの監修医師である福岡大学医学部 衛生・公衆衛生学教室 主任教授 有馬久富氏に話を伺いました。

今日からできる予防法などを聞いたので、ぜひ記事を参考に自身の生活を振り返ってみてはいかがでしょう?

  • 高齢者だけの病気じゃない! 働き盛りも襲われる「脳卒中」 - 発症人の特徴は? 予防策はある?

■若年層の脳卒中は増えている?

――若年層の脳卒中は増えているのでしょうか?

脳卒中の生涯リスクは25%です。つまり、4人に1人は脳卒中になります。脳卒中はすべての年代で増えていますが、55歳未満の方においても脳卒中の発症率が増加しているという報告(※)があります(特に日本を含む高所得国において)。

高齢者における脳卒中の主たる原因は、動脈硬化です。一方で、若年者の脳卒中では、動脈硬化以外の原因(脳動脈解離、もやもや病、片頭痛、抗リン脂質抗体症候群など)もしばしばみられます。若年層における脳卒中の原因のうち、どれが増えているかについてのデータはありませんが、

・高血圧(未治療、コントロール不良を含む)を有する者の増加
・肥満の増加
・若年成人における糖尿病の増加
・若い女性における喫煙率の増加

などにより動脈硬化に起因する脳卒中が増えているのではないかと推測されています。

※出典元:Diverging Temporal Trends in Stroke Incidence in Younger vs Older People: A Systematic Review and Meta-analysis - PubMed

――脳卒中は、どんな病気なのでしょうか?

脳卒中は原因を問わず、障害を受けた脳の部位やサイズによって、ある日突然さまざまな症状をきたします。

手足のまひや言語障害などの症状がでることが多いので、特徴的な症状の頭文字を「FAST」という略字にして早期受診が啓発されています。

Face (顔):顔の半分が動かなくなって、口元が下がってくる
Arm (腕):片方の腕(あるいは足)に力が入らない
Speech (話し方):ろれつが回らない、言葉がでない
Time (時間):3つのうち1つでも当てはまれば、すぐに119番

――予兆などはあるのでしょうか?

予兆はないことが多いですが、脳梗塞(脳の血管がつまるタイプの脳卒中)の約3割に「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる前兆発作があります。

一過性脳虚血発作では、FASTのような脳卒中の症状が一時的に起こり、多くは数分から数十分後に消失しますが、その後(特に48時間以内)に本格的な脳卒中が起こる可能性が高いことがわかっています。

したがって、一過性脳虚血発作が疑われたら、すぐに医療機関を受診してください。

■脳卒中の治療法

――発症してしまった場合、治るのでしょうか? 治療法について教えてください。

脳卒中の種類に分けて説明しましょう。

「脳梗塞(脳の血管がつまるタイプの脳卒中)」では、血栓溶解療法と呼ばれる、血管のつまりや血栓を溶かす薬が使用されますが、この治療は発症から4.5時間以内に開始する必要があります。また、カテーテルを用いた血管内治療により、脳血管のつまりを取り除くこともあります。

「脳出血(脳の血管が破れるタイプの脳卒中)」では、血圧を下げる薬などが用いられます。出血が大きい場合などは、手術によって取り除くこともあります。

いずれも、脳卒中の治療は、「時間との勝負」です! 前述の血栓溶解療法、血管内治療、血圧を下げる薬などは、早期に治療を開始するほど後遺症が少ないことがわかっています。

■脳卒中の予防策

――今すぐ始められる予防策にはどのようなものがありますか?

脳卒中の主たる原因である動脈硬化のリスク要因には、肥満・運動不足・喫煙・高血圧・糖尿病・脂質異常症などがあります。

これらリスク要因の中で特に注意すべきが高血圧です。過去の疫学研究から、脳卒中の約半数は高血圧に起因すると推測されています。

高血圧の予防と治療においては、次のような生活習慣改善が重要です。

・減塩
・野菜、果物の摂取
・運動
・適正体重の維持
・節酒
・禁煙

最近は、デジタル技術を活用してスマートフォンアプリなどで生活改善の習慣を促すことも可能になっています。

また、定期的に血圧を測定して、自分の血圧を認識することも有用です。家庭で定期的に血圧を測定するだけで、血圧が下がるという報告もあります。血圧が140/90を超えることが多いとき、家庭で測定した血圧が135/85を超えることが多いときは、医療機関を受診しましょう。