先進国で比較すると絶対数は少ないものの、日本だけ乳がん死亡率が上がっている

日本人女性の15人にひとりは発症する「乳がん」。女性のがんの中では一番死亡者数が多く(65歳以下)、年間約1万3,000人が亡くなっている。では、病気になる前にできることはないのだろうか。その方法のひとつとして、いま、乳酸菌と大豆イソフラボンが注目されている。

乳がんは40代がピーク、閉経後も注意

乳がんは早期発見・治療ができれば、約90%の人が治るといわれている。そのためには、病気予防や早期発見・治療に対する正しい知識とリスク管理が必要となる。そうしたきっかけとして、9月1日に沖縄で開催された「健やかセミナー ~はじめよう! 女性のための健康習慣~」では、疫学研究の第一人者である大橋靖雄教授(東京大学大学院)が登壇した。

東京大学大学院の大橋靖雄教授

国立がんセンターが発表した、1958~2005年における部位別がん年齢調整死亡率では、男女ともに胃がんが最多となっている。しかし、冷蔵庫の登場などによる食環境の改善により、胃がん死亡者は急激に減少。その反面、女性で増加しているのが乳がんである。

乳がんは20~30代から発症する人が増え、特に40代が最も多い傾向がある。大橋教授によると、乳がんの発生には「エストロゲン」という女性ホルモンが深く関わっており、エストロゲンが月経など重要な働きをする一方、乳がんを促進する方向にも働くという。

また最近では、閉経後に肥満した女性も乳がんの危険性が示唆されている。それは、卵巣からはエストロゲンの分泌が止まったものの、脂肪組織でエストロゲンが生成されてしまうからだという。

より簡単にできる予防策は食事改善

乳がんの早期発見のために、セルフチェックやマンモグラフィーなどによる定期健診が重要になる。しかし、若年女性におけるマンモグラフィー検査では、がんを正確に発見することが難しいと大橋教授は指摘している。そうなると、病気を防ぐという段階から、日常生活を見直すことが必要といえそうだ。

胃がんや肺がんなど、乳がんを含む様々ながんに対して、エビデンスに裏付けられた予防策としては以下が挙げられている。

喫煙:タバコを吸わない、受動喫煙を避ける
飲酒:飲むなら節度ある飲酒をする
食事:バランスのとれた食事を心がける
 塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする
 野菜・果物を取る
 加工肉、赤肉(牛・豚・羊など)は取り過ぎない
 飲食物を熱い状態で取らない
身体活動:日常生活を活動的に過ごす
体型:成人期での体重を適切な範囲で維持する
感染:肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染した場合は治療を受ける

タバコ以外に、がんの原因として特に重要になるのが食事であるが、新しい研究として、乳酸菌と大豆イソフラボンに乳がん発症リスクを下げる効果があるというものがある。

乳酸菌と大豆イソフラボンの相乗効果

この研究は、大橋教授と戸井雅和教授(京都大学医学部附属病院)らが、乳がん患者と非罹患者との間で過去の生活習慣を調べ、乳酸菌L.カゼイ・シロタ株及び大豆イソフラボンの摂取と乳がん発症の関連性を調査したもの。調査は、40~55歳の女性の初期乳がん患者(術後1年以内)306人と、非罹患者662人を対象にして行った。

L.カゼイ・シロタ株を週4回以上摂取することで、乳がん発症リスクを35%低減できる

その結果、L.カゼイ・シロタ株の摂取頻度に関して、週4回未満(条件1)の乳がん発症リスクを1とすると、週4回以上(条件2)のオッズ比(※)は0.65(p<0.05)となった。また、大豆イソフラボンの1日あたりの摂取量を比較したところ、摂取が18.76mg/日未満(条件3)の発症リスクを1としたら、摂取が43.78mg/日以上(条件4)の場合は0.48となった。

特に、(条件1)(条件3)での発症リスクを1とした場合、(条件2)(条件4)のオッズ比は0.36となった。つまり、発症リスクを約1/3に抑えたことになる。

この研究で対象とした乳酸菌はL.カゼイ・シロタ株で、ヤクルトが展開している乳酸飲料「ヤクルト」に含まれるものだが、その他の乳酸菌でも同様の効果を発揮するかどうかはまだ分かっていない。

(条件4)のように、大豆イソフラボンを43.78mg/以上摂取するためには、具体的にどのような食事をすればいいのだろうか。各食品における大豆イソフラボン含有量から算出してみると、例えば、朝ご飯にみそ汁1杯、冷ややっこ1/4丁、納豆1パックを摂取すれば、大豆イソフラボンを約60mg摂取したことになり、必要量を超えることができるようだ。

食品100gに対する大豆イソフラボンの含有量(mg) 厚生科学研究の調査結果より(1998年)

朝食を和食に置き換えることで習慣化

大橋教授は、「乳酸菌は一定期間を過ぎると排出されてしまうが、体内にとどまっている期間と摂取後の影響を考慮すると、必ずしも乳酸菌と大豆イソフラボンを一緒に摂取しなければいけない、というわけでない。しかし、毎日摂取する習慣を身に付けるという点では、比較的大豆を多く含む和食を朝食に選ぶことは、有効と思われる」とコメントしている。

なお、ヤクルトは今年5月より、L.カゼイ・シロタ株と大豆イソフラボンを1本で摂取できる「乳酸菌ソイα」を、北関東や沖縄にて先行発売している。大豆が不足気味と感じたときなど、毎日の生活の補助食品として活用してみるのもいいかもしれない。

セミナーでは「乳酸菌ソイα」が配布された

※オッズ比とは、ある疾患などへの罹りやすさを2つの群で比較して示す統計的な尺度。基準を1としてオッズ比が1より小さいことは、疾患に罹りにくいことを意味する