東京女子医科大学東医療センターの長谷川久弥先生

感染症の中で最も頻度の高い重要な病気と言えば、インフルエンザを想起する人が多いだろう。しかし、乳幼児に関していうと、重病化のリスクが高いのみならず、一生にも影響する感染症として、医師は「RSウイルス感染症」への注意を促している。では実際、どのような感染症で、どう予防・治療ができるのだろうか。

初期症状は風邪と同じ

そもそも、「RSウイルス」とは何か。東京女子医科大学東医療センター・周産期新生児診療部の長谷川久弥先生によると、感染すると咳(せき)や鼻水、発熱などと通常の風邪と同じ症状(上気道炎)に加え、ゼーゼーという雑音を含む喘鳴(ぜんめい)や陥没(かんぼつ)呼吸が見られる症状(下気道炎)だという。

大人が感染した場合、症状は風邪程度で収まるが、乳児の場合は下気道炎にまで重症になりやすく、乳幼児期の呼吸器感染症としては最も重要な疾患とされている。米国で1990年~1998年に集計されたデータによると、全体ではインフルエンザ患者の方が死亡者が多いが、1歳未満ではRSウイルス患者の方が死亡者が多いという報告もある。

インフルエンザ及びRSウイルスに関連した死亡(米国)

また、RSウイルスは永続性抗体をつくりにくいため、現在、有効なワクチンがなく、何回も感染する恐れがある。加えて、将来的に肺機能に影響を及ぼすため、喘息(ぜんそく)になりやすく、気道が閉塞状態になる「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」のリスクを高めてしまう可能性が指摘されている。

2013年の感染は過去最高を予想

RSウイルスは、本州では9月~3月にかけて活発になる。近年、RSウイルス患者は増えており、2012年は過去最高の患者数となった。2013年は2012年のペースを越えており、既に過去最高になることが予想されている。

RSウイルス感染症の流行期(全国2009年~2013年8月)。青が2012年、赤が2013年の推移

進入経路は通常のウイルスと同様、鼻粘膜や眼瞼結膜(がんけんけつまく)からで、接触・飛沫(ひまつ)によって感染する。潜伏期間は2~8日(平均4~5日)であり、排出は通常入院後より5~12日だが、1週間で排出されるインフルエンザと異なり、長い例では3週間以上かかる場合があるという。

医薬品企業であるアッヴィは2013年6月に、2歳未満の乳幼児を持つ両親1,030人(母親824人、父親206人)を対象に、乳幼児の感染症に関する調査を実施した。その調査では、RSウイルス感染症がどのような症状なのかを理解している人は37.1%にとどまり、名前は聞いたことがあるという人は41.7%、知らないという人は23.2%で、6割以上の人がどんな症状なのかを知らないという結果となった。

2歳未満の乳幼児を持つ両親に、感染症の認識レベルを調査

うがい・手洗いとともに受診の判断も

長谷川先生はRSウイルス感染症が重病化しやすいリスク要因として、「早産児もしくは在胎期間が35週以下」「気管支肺異形成症(BPD)」「先天性心疾患(CHD)」「免疫不全」「染色体異常」を挙げている。その他、日常生活におけるリスク要因は以下である。

・兄弟姉妹がいる
・保育施設を利用している
・家族に喫煙者がいる
・男児である
・RSウイルス流行期前半に出生している
・母乳保育期間が短い

これらの項目は、RSウイルスが接触・飛沫によって感染することや、呼吸系を弱めてしまう原因であること、また、免疫力の低下などが背景にある。特に乳幼児は家族内感染が主な感染ルートとなるので、注意が必要である。では実際、どのようにして予防・対策ができるのか。長谷川先生は以下の方法を推奨している。

・家族全員に手洗いを励行する
・親子ともに、風邪を引いた人との接触を避ける
・特にRSウイルス流行期には、次のような場所・行動を避ける
 - 受動喫煙の環境
 - 人の出入りの多い場所
 - 保育所の利用
 - 乳幼児と兄弟(学童、幼稚園児)との接触
・室内を適度な温度(26~28度)、湿度(40%以上)に保ち、こまめに換気・掃除をして清潔を保つ
・感染しやすい乳幼児の寝室を他の家族と別にする
・先天性心疾患や慢性肺疾患など、ハイリスク乳幼児の風邪症状に留意し、症状が認められたら直ちに受診させる

健康保険が適用される場合もある

初期症状は風邪と同様のため、RSウイルス感染症か判断に迷ったときは、病院で検査することも大切だ。現状、RSウイルスに対するワクチンはないが、感染後の重症化を防ぐ注射薬「パリビズマブ(商品名:シナジス)」は日本でも認可されている。この注射薬は毎月の投与が必要となり、医療費も高額(生後3カ月・6kgの乳児への投与は1回15万2,000円程度)となるが、早産児や先天性心疾患などのリスクファクターを有する乳児に対しては、健康保険が適用される。

注射薬の投与が受けられる病院は、スモールベイビー.comより検索することができる。長谷川先生によると、RSウイルスは乳幼児の時期における感染数が多いほど、将来的な肺機能障害へのリスクが高まるため、とりわけ2歳未満の乳幼児に対しては、インフルエンザ以上に予防を徹底する必要があるという。流行期を迎える前に乳幼児をとりまく環境を見直し、適切な対策を心がけたい。