――鈴木さんは『風立ちぬ』を進めた段階で最後になることを予感していましたか? また、宮崎監督は引き際に関する美学などありますか。

鈴木プロデューサー:僕は宮さんと付き合ってきて、彼の性格からしてひとつ思っていたことは、ずっと作り続けるんじゃないかなと思ってきました。どういうことかと言うと、死んでしまうまで、間際まで作り続けるんじゃないかと。すべてをやることは不可能かもしれないけど、何らかの形で映画を作り続けるという予感の一方で、35年付き合ってきて常々感じてたんですけど宮さんという人は、別のことをやろうと自分で一旦決めて、それをみんなに宣言するという人なんです。もしかしたらこれを最後に、それを宣言して別のことにとりかかる、そのどっちかだろうと。『風立ちぬ』という作品を作って完成を迎え、その直後にさっき言ったような話が出ましたが、僕の予想の中に入ってましたので、素直に受け止めることができたというか。たぶんそういうことだと思います。

宮崎監督:映画を作るのに死に物狂いで、その後どうするかは考えていませんでした。それよりも映画はできるのか、これは映画になるのか、作るに値するものなのか、ということの方が自分にとって重圧でした。

――(ロシア記者)「以前のインタビューでは色々な外国のアニメーション作家から影響を受けたということを教えていただきました。その影響を与えた方は、ロシアのノルシュテイン監督も入っていると思いますので、そのあたりを詳しく教えてください。

宮崎監督:ノルシュテイン監督にどういう影響を受けたかという話だと思いますが、ノルシュテインは友人です。負けてたまるかという相手でして……それほどでもありませんが(笑)。彼はずっと外套を作っていますね。ああいう生き方も一つの生き方だと思います。実は今日ここに高畑監督監督も一緒に出ないかと誘ったんですけど、「冗談ではない」という顔で断られまして。彼はずっとやる気だなと思っています(笑)。

――最も思い入れのある作品は? すべての作品を通してこういうメッセージを入れようと意識していたことはありますか?

宮崎監督:うーん……一番自分の中にトゲのように残っているのは『ハウルの動く城』です。ゲームの世界なんです。でもそれをゲームではなくドラマにしようとした結果、本当に格闘しました。スタートが間違っていたんだと思うんですが(笑)。自分が立てた企画だから仕方ありません。僕は児童文学の多くの作品に影響を受けてこの世界に入った人間ですので、今は児童書もいろいろありますが、基本的に子どもたちに「この世は生きるに値するんだ」ということを伝えるのが、自分たちの仕事の根幹になければならないと思ってきました。それは今も変わっていません。

――(イタリア記者)イタリアを舞台にした作品を色々作っていますが、イタリアは好きですか? あとこれは感想ですが、日野原先生などを目標にされるのはどうでしょう。あと20年30年生きられるのでいいと思います。(ジブリ美術館で)館長として働かれると訪問者は喜ぶと思います。

宮崎監督:僕はイタリアは好きです。まとまってないことも含めて好きです。友人もいるし、食べ物はおいしいし、女性は綺麗だし、でもちょっとおっかないかなという気もしますが、イタリアは好きです。半藤さんのところに10年いけば辿り着くのか、その間に仕事を続けられたらいいなと思っているだけで、それ以上望むのは半藤さんがあと何年がんばってくださるかわかりません。半藤さんは、僕より10年前を歩いてるんで、ずっと歩いていてほしいと思います。館長になって入り口で「いらっしゃいませ」と言うよりは、展示のものがもう10年以上前に書いたものなんで、随分色あせていたり書きなおさなければいけないものがありまして、それをやりたいと思っています。これは本当に自分が筆で書いたり、ペンで書いたりしなければいけないものなんで、それはぜひ時間ができたらやりたい、ずっとやらなければいけないと思ってきたことです。

美術館の展示品というのは毎日掃除してきちんとしてたはずなのにいつの間にか色あせてくる。部屋に入った時に全体がくすんで見えるんです。くすんで見えるところを一箇所何かキラキラさせると、そのコーナーがパッと蘇って、不思議なことに、たちまちそこに子どもたちが群がるというのがわかったんです。美術館みたいなものを生き生きさせていくには、ずっと手をかけ続けなければならないことは確かなので、できるだけやりたいと思っています。

――美術館では短編アニメも監督されていますが、これも展示の一環と考えると、短編アニメにもこれから関わるのでしょうか? もともとスタジオジブリは宮崎監督と高畑監督の作品を作るために立ち上げた会社だと思うんですが、高畑さんも今度の作品が自分の最後にして最高傑作になるかもしれないと言っています。宮崎さんと高畑さんが一線を退くことになると、ジブリの今後はどうなるのでしょうか。

宮崎監督:引退の辞に書きましたように僕は自由です。やってもやらなくても自由なので、今そちらに頭を使うことはしません。前からやりたかったことがありますから、そちらをやろうと思います。とりあえず、それはアニメーションではありません。

鈴木プロデューサー:僕は現在、『かぐや姫の物語』の後、来年の企画に関わってます。僕も宮さんよりけっこう若いんですが65歳なんです。この爺がいったいどこまで関わるかという問題があると思うんですが、今後のジブリの問題というのは、今ジブリにいる人たちの問題でもあると思うんです。その人たちがどう考えるのか、そのことによって決まると僕は思っています。

宮崎監督:ジブリの今後については、やっと上の重しがなくなるんだから、「こういうものをやらせろ」という声が若いスタッフから鈴木さんに届くことを願っています。それがないと何やってもダメです。それです。僕らは30歳の時にも40歳の時にも、やっていいんだったら何でもやるぞという覚悟で色々な企画を抱えていましたけど、それを持っているかどうかにかかっていると思います。鈴木さんは、それを門前払いする人ではありません。ということで今後のことは、色々な人間の意欲や希望や能力にかかっていると思います。……続きを読む