「レッドカーペットアライバル」と『風立ちぬ』公式上映に出席した瀧本美織(左)とスタジオジブリの星野康二社長

第70回「ヴェネチア国際映画祭」のコンペティション部門に出品し、イタリア現地時間9月1日13時に始まった公式記者会見で、宮崎駿監督の引退が発表された映画『風立ちぬ』。公式会見に続き、同日現地19時15分からは「レッドカーペットアライバル」と公式上映が行われ、スタジオジブリの星野康二社長と、本作のヒロイン・里見菜穂子の声を演じた女優の瀧本美織が出席した。

夜19時15分からの公式上映前のレッドカーペットに「今日はカーペットに溶け込もう!」という思いで決めた赤いドレスを纏った瀧本を星野社長がエスコート。「The Wind Rises」と『風立ちぬ』のタイトルがアナウンスされると、詰めかけた観客は大きな拍手で迎え入れ、場内の熱気は早くも最高潮に。約1,000席が用意された公式上映会場のPalazzo del Cinema(パラッツォ・デル・チネマ)では、映画の冒頭にスタジオジブリのロゴマークが表示された瞬間、再び大きな喝采が巻き起こった。そうして上映がスタートすると、観客からは時折笑いも起きる一幕など日本とは異なる反応を見せながら、クライマックスでは次第に涙ぐむ観客も。本編が終わりエンディングに松任谷由実の主題歌「ひこうき雲」が流れると、場内では約5分にもおよぶ嵐のようなスタンディングオベーションが起こった。

瀧本自身も公式イベントの直前に聞かされたという宮崎監督の引退とベネチアでの上映という想いで感極まって、大粒の涙を流しながら暖かい拍手に応えていた。上映終了後に瀧本は「エンドロールが始まるとお客さまが立ち上がってずっと拍手をしてくれたので、感動しました。すぐ後ろに小さな女の子がいて、そのかわいい姿にも癒されました」と涙ぐみながら話し、「心臓がドキドキしました。しっかりと目に焼き付けようと思ったのですが緊張してしまって記憶があんまりないです……」と、初の三大映画祭のレッドカーペットを振り返った。

また、ベネチアの地で改めて本作を観た瀧本は「今まで、家族や友達と何度も『風立ちぬ』を日本で見てきたのですが、試写のとき以来です、こんなに泣いてしまったのは。(改めてこの地で映画を観て)噛み締めることができました。改めてすごいことだなと思って、感謝の気持ちを伝えたい。(宮崎監督の引退を聞いて)『風立ちぬ』を作ってくださったこと、携わらさせてくださったことに本当に感謝しています」と胸のうちを明かし、「監督は、声優、女優としてどうあるべきかということの前に、人として大切なことを教えてくださいました。賞が取れたときには改めて監督を始めスタッフのみなさんに大きな拍手を送りたいです」と、改めて宮崎監督と本作に関わったスタッフ全員に称賛の言葉を送った。

公式上映を観た観客からは「本当に感動しました。 すごく綺麗な映像でエモーショナル。監督のメッセージが良く伝わりました。大好きな監督だったので引退はとても残念です」「テンポも良く、よく演出された映画だと思いました。色彩が綺麗で印象の良い映像ですね。(監督の引退を聞いて)多くの良い作品を作ってきたのに、とても惜しい事だと思います。5年前に栄誉金獅子賞も取っていたのに……」など、作品への称賛や監督の引退を惜しむ声が寄せられていた。

『風立ちぬ』メインビジュアル

そして、現地翌朝のマスコミでは、前日の突然の引退発表を受けて『風立ちぬ』は大きく取り扱われることになる。特にイタリアの老舗全国紙「CORRIERE DELLA SERA」(コリエーレ・デッラ・セーラ)では、宮崎監督の顔写真と場面カットが一面を飾り「ベネチアに夢を見せてくれる平和主義なおとぎ話。創造性、夢、愛への讃歌歌った作品だ。映画の中で『才能は10年だ』という言葉があるが、彼の場合は例外であろう」と評している。

そのほかにも、「エモーショナルで感動的」「過去を見ながら現在と未来に挑む作品。彼の挑戦が勝利を収めたことは、日本の興行収入やベネチアでの拍手をみても明らかである」(La repubblica紙)、「マエストロ宮崎駿の最後の傑作。初めて泣いたという監督の言葉があるが、彼と一緒に私たちも泣いた」(Il Gionrnale紙)と各紙がこぞって絶賛。各誌の"星取り"でも現時点でのコンペティション部門上映作品に比べて軒並み高評価を獲得し、アニメーションとしては史上初となる「金獅子賞」への期待が高まっている。

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