ホルモンは全国で親しまれているが、気仙沼ホルモンは素材も食べ方も独特だ

遠洋漁業の街、気仙沼はおいしい海産物に出合える場所だが、独自のスタイルで食べるホルモンも強力に根付いているのをご存じだろうか。なにせ気仙沼の人たちの間では、行楽地などで「バーベキューでもやろう!」となると、ホルモン焼きをするのが常識となっているほどだ。これこそがザ・ソウルフード、「気仙沼ホルモン」を紹介したい。

多種のモツをにんにくみそで

気仙沼は、明治より遠洋漁業基地として栄えていた。第二次世界大戦の影響でしばらく遠洋漁業は行われなかったが、1950年代に復活。再び活気づいたこの港町で評判になったのが、地元の精肉店が売り始めたみそ味付きのホルモンだった。

遠洋漁業で慢性的に野菜不足だった船員たちは、キャベツも船に積み込み、みそ味ホルモンと一緒に食べるようになったのだが、これが気仙沼ホルモンのスタイルの原型とのことだ。

気仙沼ホルモンにはいくつかの特徴がある。焼肉でホルモンというと豚や牛などの小腸を指すのが一般的。気仙沼ホルモンは豚を使用するが、小腸だけでなくトンタン、ハツ、ガツ、レバー、大腸など複数のモツをミックスして食べる。

これらのモツを、にんにくみそで味付けするのも独特だ。気仙沼に複数あるホルモン店が、それぞれ工夫を凝らしたにんにくみそを用意している。下味が付けられたホルモンは、焼きあがったところで直ちに口に運びたいところだが、気仙沼でその行動は邪道である。

ホルモンと別にキャベツの千切りが用意されるのも気仙沼スタイル。小皿に取ったキャベツにウスターソースをかけ、ホルモンと一緒に食べるのも気仙沼ホルモンの定番なのだ。好みによって、ここに一味唐辛子で辛味をつけるのもたまらない!

モツ好きにとって、まさに天国のような網の上の眺め

生モツ使用でスタミナも満点

また、気仙沼ホルモンでは、必ず生のモツが使用されることにも注目していただきたい。仙台から南ではボイルしたモツを食するのが定番だが、気仙沼ホルモンはあくまでも生モツにこだわっている。モツのうまみを逃さないのはもちろん、含まれている栄養も損なわずに食べることができる。

ビタミンやミネラルたっぷりのモツに、とどめとばかりのにんにくみそで味付けされる気仙沼ホルモンは、スタミナフードとしても地元で愛されている。一緒に食べるキャベツは胃腸の調子を整え、肝臓の有害物質を減少させる効果もあるので、気仙沼ホルモンは身体に効くご当地グルメでもあるのだ。

モツの相棒として欠かせないのがキャベツの千切りだ

丁寧な仕込みも気仙沼ホルモンの命

今回取材させていただいた「焼肉くりこ」は、気仙沼ホルモン発祥の店として名高い。現在、店を切り盛りする四代目店主は、以前外国船航路の船員だった。世界中の港でご当地の味を食べつくし、初めて故郷の気仙沼ホルモンのすばらしさに気が付いたという。すばらしい地元の食文化を人々に提供したいという一心で、異業種の門をたたいたのだ。

看板でも「気仙沼ホルモン」を堂々アピール!

広々として居心地がよい店内

そんな四代目店主が最も気を配るのが、仕入れる豚の質と食材の仕込みである。同店では豚を一頭買いし、自らさばくモツを提供している。モツのぬめりや臭みを取るため専用に用意した洗濯機を使っており、仕込みには最低3時間がかかるという。

それだけに、最高の気仙沼ホルモンはどこででも食べられるわけではない。四代目店主も「無理な展開をしたいとは思わないし、実際それは不可能なこと。気仙沼独自のホルモン文化を味わいに、多くの方が気仙沼に訪れてくれるよう努力したい」と語っている。この心意気もすばらしいではないか! ちなみに、「焼肉くりこ」のホルモンは一人前450円から。低価格なのもうれしい。

こちらが「焼肉くりこ」の気仙沼ホルモン。食欲をそそる見た目!

「気仙沼ホルモン」で震災復興も!

地元の有志が「気仙沼ホルモン同好会」を結成

気仙沼では、他にも多くの飲食店でホルモンを食すことができる。そうした店が集まり、自慢の地元の味を様々な形で発信しようと「気仙沼ホルモン同好会」という会まで立ち上げられた。

会には11の飲食店と8つの精肉店が参加。イベントへの出店や素材の提供の他、全国での写真展開催、ボランティア団体の活動支援、支援企業の仲介、地産地商品の販促活動など、気仙沼ホルモンの普及だけでなく、食を通じた震災復興支援活動を行っている。

ちなみに、「気仙沼ホルモン同好会」webサイトには、気仙沼ホルモンを食べることができる飲食店のマップが掲載されている。そちらを元に、数店舗を巡るのもおすすめだ。この街を訪れた暁には、もう食べずに帰ることは許されない!