ボーイング787型機内コックピット。ボーイング社の首脳が来日しての説明会だったが、日本人はロジカルシンキングな民族で、もう少し整理して説明してほしかった印象

今年1月16日にアメリカ連邦航空局(FAA)が運航停止命令を発して以来、飛べない翼となっていたボーイング787型機(以下、787)。この新型旅客機の運航再開時期にようやく目途が立った。3月15日にボーイング社の首脳が来日し、説明会を行ったのだ。

運航停止の直接の原因となったバッテリーはAPU(Auxiliary Power Unit)と呼ばれる補助動力装置で、飛行中は使われないこと、そのAPUに旅客機として初めてリチウムイオン電池が採用されていること、そのリチウムイオン電池を製造した日本のGSユアサ社が優れたメーカーであり今後も採用し続けること、安全性には何の問題もないことなどを説明し続けた後、同社民間航空機部門787型機プログラム担当バイスプレジデント兼チーフプロジェクトエンジニアのマイク・シネット氏はこう口にした。

「1つの根本的な原因を探すのではなく、広範囲の保全・保護策を講じた」。

筆者は一瞬、耳を疑ったが、聞き違いではなかった。発煙トラブルから3カ月が過ぎても、いまだ理由は分かっていないのだった。

いくつもの意味不明な説明

さらに、この日のシネット氏の説明には納得できない部分がいくつもあった。例えば同氏は、国内やボストン・ローガン空港での発煙・発火トラブルの際、「バッテリーの熱暴走はなかった」と言い、アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の発表と真っ向から反対する見解を示した。これには複数の記者がかみ付いたが、同氏は「我々航空機の専門家の間では、飛行に影響を及ぼすときにのみ熱暴走と定義している」と見解の相違を口にした。

また、「高松空港に緊急着陸した際には、セル(電池及びそれに類するもの)の圧力と温度が上がらないようにガスを放出した。それはあらかじめ意図したものだった」と説明。しかし、同機に乗っていた乗客は「機内に焦げた臭い(が漂った)」と証言しており、この点をただすとシネット氏は、「ガスを機外に出すのに一瞬、約1分ほどかかるので異臭がしたかもしれない」と記者たちを文字通り煙に巻いた。

なお、787は機体の大半(約50%)に従来の金属ではなくカーボンファイバー複合材(CFRP)を使用しているが、これが燃焼すると有毒ガスを発生させる可能性があり、危険性は安全運航への影響だけにとどまらない。

格納容器に入れる"力技"で対処

ただし、今回ボーイング社が取った処置はこうした意味不明な回答を凌駕するものだった。バッテリー内のリチウムイオン電池を絶縁シートで覆ってショートが起きないようにし、セル間に仕切りを入れて熱暴走を防止。バッテリー充電時の上限電圧を低く、下限電圧を高くして過充電に対応し、更にバッテリー自体を新たな格納容器で覆って電気室内の他の機器から独立させた。また、セルに酸素が入らないようにしたため火災が発生することもないとし、もし煙が発生しても格納されたバッテリーから機内や他の電気室に入ることなく機外に排出されるようにした。

ただ、一方で格納容器及びバッテリー内で異常が起きてもコクピットでは感知できない。少し乱暴に言えば、飛行中は使わないバッテリーだから空中にいる間は"貨物"として扱っているような印象を受ける。何とも、力技的な対処法を選んだものである。

想定されるあらゆるトラブルに対応

ボーイングでは今回のトラブルに関して、セルとバッテリーの製造工程とそのテストを見直し、バッテリーや充電設計の改良を実施。約500人のエンジニアによるのべ20万時間におよぶ検証・安全確認作業を行い、新たなバッテリーでの6万時間の試験を実施した。また、想定し得る80以上のトラブルのすべてに対応できるようにし、「最も安全な飛行機になった」(シネット氏)と、安全性を何度も強調した。

787は今後、早ければ数週間でFAAから運航再開の最終承認を得て、「何カ月後ではなく、何週間後という単位で運航を再開できるという認識」(レイモンド・コナー同社民間航空機部門社長兼CEO)だという。

今回の説明会はアメリアではなく東京で行われたが、その理由は「既に納入している787の約半数を日本の航空会社(ANAとJAL)が保持しているから」(コナーCEO)。日本はあと1カ月ほどで航空会社にとって書き入れ時となるゴールデンウィークを迎える。それまでには再就航を間に合わせるということだろうか。

ボーイング787は「ドリームライナー」という愛称を持ち、軽量でパワーアップしたバッテリーもハイテク化した技術の1つだった。ところが、格納容器を設けるなどした今回の処置でバッテリーの重さは150ポンド(約68kg)と2倍以上になり、充電時間の短縮や発電力増などのメリットは残る一方で軽量化というメリットは失われ、その力技的な対処法は完全にアナログである。もう少し「ドリームライナー」という愛称に合った手段はなかったのかとの印象を受け、フラストレーションと一定の安心感の混在した説明会だった。

著者プロフィール

緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト、編集者。 学生時代に格安航空券1枚を持って友人とヨーロッパを旅行。2年後、記者・編集者の道を歩み始める。「エイビーロード」「エイビーロード・ウエスト」「自由旅行」(以上、リクルート)で編集者として活動し、後に航空会社機内誌の編集長も務める。 20年以上にわたり、航空・旅行をテーマに活動を続け、雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアでコメント・解説も行う。自らも日本・世界各地へ出かけるトラベラーであり、海外渡航回数は100をこえて以来、数えていない。