石田三成率いる2万人の軍勢を相手に、たって500人で勝利を収めた成田長親の実話に基づいたストーリーが多くの観客の共感と感動を呼び、現在、大ヒット公開中の映画『のぼうの城』。主人公にして強烈なキャラクターの持ち主である成田長親を演じた野村萬斎に話を聞いた。

映画『のぼうの城』で主人公・成田長親(のぼう様)を演じた野村萬斎

――まずは長親(のぼう様)の役づくりへのアプローチからお聞かせ下さい。彼に関する史料が少ない中、どのように演じられていったのでしょうか。

「とにかく正体が分からないキャラなので、最初は立ち方から声の出し方からどうしようというのはありましたが、監督から『常に浮いていてほしい』という一つのリクエストがありましたし、わりと鼻息荒いキャラが周りには多かったので(笑)、自分としては常にその逆を心がけていました。道化のようにリズム感や声のトーンを変え、彼がいることでその場のすべてが変わってしまうようなキャラクターを意識して演じたつもりです」

――主人公ということもありますが、確かに長親はどの登場人物よりも目立ってます。

「あまり面白くない時代劇って、みんな同じようなキャラになりがちじゃないですか。でも、長親のような変わったヤツがいるとスパイスになるし、この作品に関してはそれでいいんだと思ってました。あと、監督が白い衣装を着せるので『この時代にこんなに目立っていいんだ?』と思いながら演じてました(笑)」

――演技に関しては何かプランはありましたか?

「基本的には監督の意見に従いつつ、時折自分のアイデアも織り交ぜながら演じました。自由にやらせてもらった分、水を得た魚のように楽しかったです。ちょっと違った提案をすると監督が喜ぶので、なお有頂天になって、かなりやりたい放題やらせてもらいましたね(笑)。僕自身、良い意味で監督に踊らされていた部分はあるかもしれません」

――2万人の敵兵を前に、長親がたった一人で田楽を踊るシーンは圧巻でした。

「あのシーンには、その直前に殺された子供の仇を討つ、という意味が込められているんです。『なんじゃこりゃ』というインパクトから始まり、最後に子供をあやす仕草を敵兵にさせることで『ざまあみやがれ』と溜飲を下げる長親の思いを感じてもらえればと思います」

――そのほかで好きなシーンはありますか。

「三成(上地雄輔)が入城して来た後のシーンも好きですね。どこか子供じみていた長親が成長して、やっとリーダーになった感じで演じました。上地くんはさすが松坂大輔のキャッチャーだったなという感じでしたね。芝居もある意味で演技のキャッチボールですから、こっちの投げる球をしっかり受け止めてくれました。ほかにも平(岳大)くんの演じた長束正家とのシーンはとても楽しんでやれました。『こいつだけには降伏したくない』と思わせる彼の上手い演技のおかげで、こちらもさまざまな表情が引き出されました」……続きを読む