銀行のリテール強化とコンビニのサービス充実。この2つの目的で生まれたコンビニATMではありますが、このサービスがスタートした頃、今のようにコンビニの標準的なサービスとして考えられていたわけではありませんでした。もちろん、コンビニへ順次ATMを設置していけば年数とともに台数も増えていきますから、理屈の上ではいずれは全店にということになりますが、せっかくATMを設置してもあまり利用されないのでは、設置した意味がありません。最初はとりあえず、利用件数の多そうな店舗へ設置という考えからスタートしました。

この頃、ATMの需要が高いと見られていたのが、オフィス街や駅の周辺、繁華街などです。人の動きの多い場所ほどATMの利用も多い。当然といえば当然の話です。手始めにこうした立地の店舗にATMを置いていくという方針でアイワイバンク銀行(現セブン銀行)は当初、5年で約7,000店のセブン‐イレブンにATMを設置する計画を立てました。しかし、結果としては4年足らずで1万台を超えるATMを設置します。これにはちょっとした裏話があります。

アイワイバンク銀行の事業スタートから2年が経過する頃、当時の社長だった安斎隆さん(現会長)はセブン‐イレブンへの全店設置の方向へと方針転換します。その理由とは…。

「家内がね、コンビニにATMが置かれて便利になったというけど、置いてあるのは駅の近くとか繁華街の店ばかりで全然便利じゃないって言うんです。結局、駅のそばまで行かないとコンビニATMは使えない。それなら銀行に置いてあるATMと変り無いじゃないかって」。

こう言われて、どんなところのコンビニでもATMを置いていくべきだと感じたそうです。

コンビニも駅のホームにある時代(京急品川駅)

たしかに銀行って、駅の周りや人通りの多いところにありますよね。例えば駅まで出るのにバスに乗っていかなければならない人にとって、銀行でお金をおろすのにわざわざ駅まで行くのは大変です。近くのコンビニで入出金できればとても便利。「ハブ&スポーク」の本当の意味は、こういうことでもあったわけです。

結局、この全店設置が功を奏して設置台数とともに利用件数も飛躍的に伸びました。現在セブン‐イレブンにあるセブン銀行のATM利用件数は1日1台あたり約120件。深夜時間帯まで含めて1時間に5件の利用があるという計算になります。普通、需要量に対して拠点数が多いほど、1拠点の利用は減っていくのですが、コンビニATMの場合は逆の現象が起こったわけです。なぜでしょうか?

ATMを全店に設置するメリットは、コンビニ(セブン銀行の場合、セブン‐イレブン)ならどこにでもあるという認知度がも上がる点です。便利さの認知ですね。どういうことかと言うと、コンビニATMを利用する人の多くは出金ですが、中には急に現金が必要になったという人もいるでしょう。ATMがあると思ってコンビニに入って、もしATMが無かったら…。また新たにATMがある店を探して、お金をおろさなければなりません。ここに必ずあるという前提があれば、安心してその店に向かうことができます。これが便利さの認知です。

すでに全店に設置されているだけではなく、2台のATMが設置されている店舗もある

こうして急速に広がったコンビニATMですが、ユーザーから様々な不満も出てきます。不満のほとんどは大きく分けると、「利用手数料」、「処理スピード」、個店ごとの「利用環境」の3つに集約されます。

「利用手数料」では、コンビニATMでは銀行によって平日日中でも利用手数料を徴収されるケースがあります。「なぜ、自分の口座からお金をおろすのに手数料が取られるの?」という不満を抱く人も多いのでは。利用手数料の設定はコンビニATMが提携する銀行が定めるもので、手数料自体はその銀行の収入となります。ただ、ユーザーからみて、「今まで銀行のATMで普通(手数料ゼロ)に出金していたのに、コンビニATMを使ったら105円取られた。もうコンビニATMは使いたくない」。こういう意見もよく聞きます。

こうした意見に対して、銀行側では様々な対応を考えました。例えば三菱東京UFJ銀行ではコンビニATMでの利用に際しては「自行ATM手数料並み」という方針にしています。これは、その銀行に置いてあるATMと同じという意味で、平日日中であれば手数料は無料になります。また、ステージ性(例えば預金残高などによって手数料無料)などによって、条件付で利用手数料を徴収しないという銀行もあります。こうした銀行側の取り組みによって、今ではコンビニATM利用の半数以上が手数料無料で使われていると思われます。

今ではコンビニATM利用の半数以上が手数料無料で使われていると想定される

利用手数料については、当該銀行が決めることになっているので徴収するかしないかは銀行によって様々です。この詳細については各銀行に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

「処理スピード」は、実際にコンビニATMを利用するにあたって、どれだけ早いレスポンスができるのか、ということです。例えばキャッシュカードをATMに挿入して、しばらく動かないままだと不安になりますよね。また、利用した際に取引(入出金)の詳細が画面に映し出されますが、次にATMを使いたい人が並んでいた場合、この画面がしばらく消えないと、なんとなく個人情報を知られたようで不快な気にさせます。さらに、2件以上の利用の場合、次の画面に切り替わるのに時間がかかってじれったくなったり…。

ATMはお金に係ることなので、とくに「安心して利用できる」ことが前提になります。こうした不満を解消するためにATM運営会社では、機器自体のスペックアップに取組んできました。

例えばセブン銀行のATMであれば、現在の機器は昨年3月から本格導入したもので、同社では第3世代(事業スタートから3代目)です。機器のリニューアルとともに処理能力は高くなり、第2世代との比較では、紙幣処理能力が2倍に、省エネモードからの復帰が7.6秒から0秒に、次の取引への移行が9.5秒から2.8秒にと、格段と早くなっています。もちろん取引後の画面の消去も瞬時に行なわれます。また、外国人の利用も増えているため、海外発行カードにも対応し、ATM操作時に画面・音声・取引明細票を英語・韓国語・中国語・ポルトガル語の4カ国語で対応するようになりました。

英語画面

韓国語画面

中国語画面

ポルトガル語画面

「利用環境」は、ATMを利用する上での機器周辺の不満です。「ATMを使いたいのに、前に荷物がおいてあって使えなかった」、「雑誌コーナーのすぐとなりにあって、立ち読みしている人に画面を見られていそうで不安」、「現金をおろして封筒に入れようとしたら、封筒が切れていて無かった」などです。「画面を見られていそうで不安」については、ATM両脇に設置されている「ついたて」の大きさを倍にするなどの対応もしていますが、主にこれらはATMを設置してある各店舗の運営上の問題となります。

ATMをもっと利用してもらうことで、店への来店動機も高まります。そのために店舗は機器周辺のケアをもっと高めて、ユーザーが使いやすい環境を整えておくことが必要でしょう。

【関連リンク】

【セブン-イレブン】⇒セブン銀行

【ローソン】⇒ローソンATMネットワークス

【ファミリーマート】⇒イーネットATM

執筆者プロフィール : 清水 俊照(しみず としてる)

「コンビニエンスストア新聞」、「コンビニエンスストア速報」の編集長。最近では社長や主幹などと名乗ることもあるが、実態はコンビニ業界の出来事を自らの表現で伝達していく表現伝達者。「コンビニエンスストア速報」で毎週月曜日、「オフロードの時代」というタイトルのコラムを掲載。ニュース記事にはならない本当の話をコンセプトに、ニュース以上の中身とインパクトの提供を目指している。