今年は各地で花火大会の中止が相次いでいる。東日本大震災の発生を受け、現在も余震の危険性が否定できないことや、被災者の心情に配慮するなど様々な理由が挙げられているが、特に夏季の電力不足が懸念される関東エリアでは早々に中止を決定する大会が多かったようだ。だが、だからこそ改めて"花火大会"の存在を見直す機会とも言える。

そもそも花火大会って?

日本の花火の歴史は、天文12年(1543)、種子島への鉄砲伝来と共に火薬が伝えられたことに始まる。戦国時代の真っ只中にあってその生産は全国に広がった。その後、永禄3年(1560)に愛知県の三河地方で神社の祭礼に手筒花火が用いられたという記録がある。さらに下って、天正17年(1589)には山形県の米沢城において、伊達政宗が唐人の打ち上げた花火を観賞。慶長18年(1613)には徳川家康が駿府城で花火を見物し、将軍家や大名の間でも花火が流行したという。

享保17年(1732)、江戸四大飢饉のひとつに数えられる「享保の大飢饉」により、西日本を中心に多数の餓死者が出た。一方、江戸ではコレラが流行するという、大きな災厄に見舞われた年となった。翌18年、大川(隅田川)の川開きが行われる日に、前年の災厄で亡くなった人々の鎮魂と疫病退散を祈願し、時の将軍吉宗が水神祭を催した。この時に花火が打ち上げられたことがきっかけで、大川の川開きにおける打ち上げ花火が毎年の恒例となり、これが日本の花火大会の発祥とされる隅田川花火大会の起源だとされている。夏を彩るイベントの花形とも言える花火大会だが、もともとは慰霊の意味が込められた行事だったのだ。

市民で自分たちの花火大会を

今年、神奈川県の相模湾沿いでは逗子から大磯まで7つの市と町で花火大会が中止となった。いろいろと事情はあろうが、市民からの落胆の声は大きかった。だがこの状況の中、鎌倉市民有志による「0730鎌倉大線香花火大会」の企画がネットを起点に立ち上がった。発起人となったおさないかおりさんが「鎌倉市民が自分たちで花火大会をやればいい」とTwitterで呼びかけたことに、多くの賛同者が集まったのだ。企画は徐々に具体化するが、当初より参加者自身が花火の用意から最後の片付けまで全てを行うことを一貫して掲げている。

当日は市内の僧侶有志による読経と共に祈った後、持ち寄った線香花火に火をつける

今回の震災をきっかけに、いろいろな事やモノが「あって当たり前」になっていたことに多くの人が気付いただろう。だが、いざ無くなった時に不満を言ったり、ただ待っているだけでは何も始まらない。誰かが何かを決めてくれるのを待つのではなく、自分で行動しよう、というのがこの大会の主旨だ。

同じく花火大会が中止となった神奈川県平塚市でも、この主旨に賛同した有志により線香花火大会が開催される。また、長良川中日花火大会などが中止になった岐阜では東日本復興支援事業実行委員会の主催による「鎮魂の大線香花火」が行われるなど、花火大会に代えて震災の犠牲者を追悼し復興を祈る場を設けようという動きもあるようだ。

線香花火を灯したところで誰かが救われるわけではない、という意見もあろうが、まずは一つ行動を起こすことで次を考えるきっかけになるかもしれない。思いを同じくする人は、この夏、自宅や近所で自主的に小さな花火大会を催してみてはいかがだろうか。

※お願い
「0730鎌倉大線香花火大会」に参加を希望される方は、大会公式サイト動画にある主旨をよく読み、注意事項を守った上でご参加ください。また緊急時の避難路・避難場所も、必ず事前にご確認ください。なお、悪天候等で中止になる場合は当日正午までに公式サイト・Twitterで告知されます。