世界210カ国以上の国と地域で放送され、社会現象となった海外ドラマ『LOST』を手掛け、若き天才の名を欲しいままにしたJ.J.エイブラムス。流行り廃りの早いハリウッドで常に動向が注目されている彼が自身の幼少期の体験をストーリーに盛り込み、映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグと最強コンビを組んだことは大いに話題を呼んだ。5000万ドル（40億円）の制作費を投じ、すべてが謎に包まれたプロジェクトとして秘密裏に撮影が行われたSF大作『SUPER 8/スーパーエイト』。蓋を開けてみれば、『E.T.』をほうふつとさせる感動ストーリーだったことが功を奏し、先に公開されたアメリカでは、映画興行成績ランキングの初登場1位を飾る絶好のスタートを切った。続編やリメイクであふれかえる昨今のハリウッドで、大スター不在のオリジナル作品がここまでの成功を収めたことは、異例といっても過言ではない。

『SUPER 8/スーパーエイト』

まずは気になる『SUPER 8/スーパーエイト』のストーリーについて、ネタバレしない程度にご紹介しよう。舞台は、1979年夏のオハイオ州。14歳の少年ジョー(ジョエル・コートニー)は、突然の事故で母親を亡くしたばかり。保安官助手の父親ジャクソン(カイル・チャンドラー)との関係は上手くいっておらず、ジョーは寂しさをまぎらわすように5人の仲間たちとスーパー8カメラを使った8ミリ映画の撮影にハマっていく。メンバーの中には、彼が密かに想いを寄せる大人びた美少女アリス(エル・ファニング)の姿もあった。そして、ある日、親に内緒で家を抜け出し、駅でゾンビ映画の撮影を始めたジョーと仲間たちは、エリア51より謎の生物を輸送していたアメリカ空軍の貨物列車とトラックの大事故を目撃。逃げ惑う彼らをよそに、衝撃で横倒しになった8ミリカメラは、事故が起こった原因から貨物コンテナを破壊して逃げるクリーチャーの姿まで、一部始終を記録。図らずもアメリカ政府がひた隠す重大な秘密を知ることとなる。

子供時代だからこそ成し得た冒険と成長の物語

貨物列車とトラックの大事故を目撃したことをきっかけに……

ここまで書くと、同じく、J.J.が手掛けたモンスター・パニック映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』の続編のような印象を与えてしまうかもしれない。しかし、そうなっていないところが本作の一筋縄ではいかない魅力。海外ドラマ『LOST』で48名ものキャラクターの物語をまとめ上げたJ.J.だけに、本作もキャラクターや人間ドラマの描き方が秀逸なのだ。傷ついた心を周りに隠して特殊メイクの話題に目を輝かせるジョー、映画作りで強引なリーダー・シップを発揮するチャールズ、物を爆破させることが大好きなちょっと危ないケイリー、母親と別れて酒びたりの父親に手を焼いているアリス……個性豊かな子どもたちがつむぎだす甘酸っぱい初恋、仲間を思いやる固い絆、すべてが可能に思えた子供時代だからこそ成し得た冒険と成長の物語には、誰もが共感する要素がしっかり含まれている。映画の公開前はクリーチャーの姿かたちに関心が集まっていたが、それは映画を盛り上げるひとつの要素に過ぎなかったのだ。

ジョーが事故現場から持ち帰ったキューブ状の物体には、ある秘密が隠されている?

こういった子どもたちを主役にした人間ドラマで、肝心なのがキャスティングの妙。6人の子どもたちは大人顔負けの名演を披露しているが、ひときわ輝きを放つ主人公のジョーにふんしたジョエル・コートニーは、なんとこれが俳優デビュー作。圧巻の演技力とピュアな美少年ぶりは、今後の活躍を予感させるのに十分だ。紅一点のヒロインを務めるのは、『アイ・アム・サム』(2001年)で天才と謳われた実姉ダコタ・ファニングの幼少期を演じたベテラン子役、エル・ファニング。彼女は、ガーリー・カルチャーを牽引するソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』(2010年)で、スター俳優を父に持つ娘の複雑な想いを見事に表現し、次世代ファッション・アイコンのひとりとして名前が挙がるようになった、ファッション業界注目の存在。もちろん、映画界においてもオファーが殺到しており、年内に新作3本が全米公開を控える超売れっ子だ。そんな最旬セレブである彼女が取り組む、キュートな恋の演技はファンならずとも見逃せない。

少年少女たちの演技にも注目!

映画マニアのハートをがっちり掴む心憎い仕掛けも

子役たちの名演とともに、ノスタルジックなアイテムの数々も1979年という時代背景に説得力を持たせている。タイトルの"スーパー8"は、コダック社が1965年に発表した8ミリフィルムの規格で、スピルバーグやエイブラムスら第一線で活躍する映画人の多くが子ども時代に愛用したものだし、ガソリン・スタンドの店員はポータブル・カセット・プレイヤーでブロンディーの「ハート・オブ・グラス」を聴きながら体を揺らし、子どもたちは楽しそうにザ・ナックの「マイ・シャローナ」を歌う。当時、流行した粋な名車やヴィンテージ・ファッションも観客の懐かしい記憶を蘇らせるのに効果的な働きをしている。さらに、スピルバーグ作品だけでなく、ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A ・ロメロ監督や特殊メイクの神様と絶賛されたメイクアップ・アーティスト、ディック・スミスといった偉大な先人たちのリスペクトも随所にちりばめられており、映画マニアのハートをがっちり掴む心憎い仕掛けも盛りだくさん。ちなみに、本編終了後のエンドロールでは、実際に子役たちが演出を担当した手作り感あふれるゾンビ映画が流れるため、途中退席は厳禁。『SUPER 8/スーパーエイト』の世界観を最後までじっくりと堪能して欲しい。

新たな名作を世に送り出したスピルバーグ＆J.J.エイブラムス。ロマンス、SFアクション、ミステリーといった様々な要素が含まれる本作で核となるのは、悲劇を乗り越えて強く生きていく、セカンド・チャンスというメッセージ。この作品に込められた想いは、3・11の後遺症に苦しむ日本人の心にもっとも響くのではないだろうか。

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