――ルフィやサンジなど、アニメ『ワンピース』の"麦わらの一味"をモチーフにしたメガネが大好評ですね。即完売になった商品も多いそうですが。
田中 おかげさまで、発売日初日だけで7,000本を売り上げました。発売に先立つ10月4日から約1カ月間のネット先行予約の段階でも、すでに7万本を予約販売していたんです。通常、当社のネット通販でも月の売上は数千本なので、文字通りケタ違いの売れ行きでしたね。
――7万本のメガネをネットで売るなんて、前代未聞ではないですか?
田中 正直、ここまで売れるとは思わなかった……、というのも、恥ずかしながら私自身、以前から『ワンピース』を見ていたわけじゃなかったんですね。元々、益若つばささんとのコラボでメガネを作ったのが縁で、ファミマ・ドットコムさんから「やりませんか?」とお話をいただいたことが発端。その後、急いで全巻購入して読みました(笑)。ただ読み終える前から、スタッフが皆、「やりたい!」「面白そう!」と盛り上がっていたんですよ。そこに成功を確信してGOサインを出した、という経緯があるんです。
業界の常識に縛られない"こだわりのなさ"が、ヒット商品を生んだ
――"麦わら一味"のキャラクターって、フランキーがサングラスをかけている以外はメガネをかけていないじゃないですか。ある意味、ものすごくチャレンジングな企画だったと思います。不安はなかったのですか?
田中 いや、なかったですね。デザイナーも楽しみながらデザインをしていましたし、商品化においてほとんど難点もなかった。もちろん、「チャレンジングな企画」と言われることも理解できます。ただ、ある意味で私にはこだわりみたいなものがないんですよ。つまり、「メガネをかけていないキャラのメガネを作るなんておかしい」という発想はなかった。いずれにしても、業界の常識に縛られない"こだわりのなさ"は、我々が伸びることができた一つのエンジンと言えるかもしれません。
――それはどういうことでしょう?
田中 たとえば昨年ヒットした「Air frame」がそうです。フレームに使用しているのは医療用のカテーテルや哺乳瓶に使われている樹脂素材。だから壊れにくく柔軟で軽く、安全なんです。ただ素材の質としては、高級感を出すのは難しかった。実を言うと、この素材は中国のメガネの展示会で素材メーカーが出展していて、偶然見つけたもの。ところが他社では、「こんなチープな素材でメガネはできない」と、どこも見向きもしていなかったようです。
――なるほど。従来の業界目線では「ナシ」だったわけですね?
田中 けれども私には「アリ」でした。チープさを払拭するデザインや色を施せばいい、そう考えた。結果として、素材の良さを消さずに質感だけを高めるデザインや加工技術を開発し、お客様から圧倒的な支持を得ることができました。
――それにしても、なぜ業界の固定観念に縛られずに判断できたのでしょうか?
田中 一つは私の出自が異業種だから、ということでしょうね。高校卒業後、地元・高崎の信用金庫を経て、アパレル雑貨の製造卸業として独立した。その後、仕入れの際に訪れた韓国で格安メガネ店の拡がりを目の当たりにして、アイウエアのSPA業態へ転換したという経緯があります。だから根っこにあるのは「マーケットイン」の視点。「アパレル雑貨のように、メガネをTPOに合わせて楽しめたら、絶対に支持されるはずだ」という発想が強く働いたんです。それって商売の王道じゃないですか。ある種の素直さというか。今回、『ワンピース』メガネ&サングラスを作れたのも、まさに"素直さの結晶"だと思うんですよ。
――「メガネとはそもそも高級品だ」「素材はこれじゃないといけない」という凝り固まった思考がないということ?
田中 そうですね。加えて2008年の終わりの頃、柳井正さん(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)にお会いしたことも大きな転機になりました。「あなたの志は何ですか?」と問われたんですよ。ところが、私には答えがなかったんです。