『宇宙ショーへようこそ』で伝えたかったこと

――『宇宙ショーへようこそ』では、子どもたちの声優に、大人ではなく、子どもを配しているのは、どういったスタンスからなのでしょうか?

「映画というのは基本的に絵空事なんですよ。宇宙に行くのも絵空事ですし、宇宙に行って超新星爆発を見るのも絵空事、『ペットスター』ももちろん絵空事なわけです。僕個人の意見では、映画の場合、大きな嘘はできればひとつぐらいにしておきたい。でも、今回の作品のようにたくさん出てきてしまう場合は、その補完として、どこに本物をたくさん置くかということを考えないといけないわけです。だから地球のシーンが非常にリアルに描かれているのは、そこをリアルっぽく作り込むことで、その後、宇宙で起こる事象がすべてリアルに感じられるようになるんですよ」

――そういう意味で、子どもの声優をリアルな子どもにしたということですね

「大人の声優さんでも、子どもを演じるのが本当に上手い方もいらっしゃいますが、それでもやはり、"子どもを演じる"というフィルタが入ってしまうわけですよ。そのフィルタが、もしかしたら今回の映画では邪魔になるかもしれない。たとえそれが邪魔にならなくても、はたしてそんなに上手い方を5人も集められるのだろうか、と。インクを含めると6人になるのですが、6人も天才的に子どもの声が出せる声優さんを集めるというのは、ちょっと自信がなかったんですよ。最悪の場合は、大人の声優さんでいくという方法論も持ってはいたのですが、実際に子役のみでオーディションを行ってみたところ、みんな本当に芝居が上手い」

――オーディションで、子どもでも十分にいけるという手ごたえを掴んだ感じですか?

「そうですね。子どもが子どもを演じるわけですから、子どもの芝居をする必要がない。子どもはキャラの芝居だけをすればいいわけですよ。そうやってフィルタがひとつなくなることで、本当に子どもならではの呼吸感がリアルに感じられる。実際、アフレコを行った後、その呼吸にあわせて、絵を直しているところもあったりします。やはり、子どもの演技のほうが本物ですから」

――子どもが子どもを演じているということもあって、「あざとさ」というものも感じられず、本当に自然に感じられますよね

「あの子たちは本当に上手いんですよ。僕もビックリするぐらいで、何も言っていないのに、ちゃんとリアクションを拾ったりしますからね」

――メインは子どもに任せつつ、脇のキャラクターは実力のある声優陣でしっかりと固めている感じですよね

「脇を固めるというのは、昔ながらの作り方という感じですが、ポチ役の藤原啓治さんも、ネッポ役の中尾隆聖さんもオーディションで選ばせていただいたんですよ。そのほかにもたくさんのベテランの方が、オーディションに参加してくれて、本当にありがたかったですね」

――話はまったく変わりますが、キャラクターのほっぺたが赤い丸になるのは、監督の趣味なんですよね

「大好きですね(笑)。アニメなので、すべてが漫符、記号なわけで、その記号を使っていかにリアルっぽくしていくかのかという課題があるわけですが、基本的に、僕自身は漫符を自分の手法としてはあまり使わないようにしているんですよ。でも、ほっぺたの丸に関しては、思いっきり記号なんですけど、可愛さって記号で良いよねっていう部分がありまして(笑)。赤い丸ではなくて、ブラシを使ってぼわっとさせることもできるんですけど、ちょうどあの記号を使い出したのは、デジタルの転換期で、ブラシが汚くて、ほっぺたの赤をブラシでやると、絵が汚くなっちゃったんですよ。これだったら、ベタでいいや、ハイジもそうだったしって(笑)。それでやってみたら、何か自分の中ではまっちゃったんですよね」

――記号としてとてもわかりやすいですよね

「そう、わかりやすいんですよ。これはいいと思っちゃって(笑)。僕自身、漫符を否定しているわけではなく、漫符や記号というものはうまく使いましょうという自分の中での戒めがあるんですけど、使えるものはちゃんと使っていこうと。ただやっぱりいきすぎは良くないでので、ほっぺたの赤以外は、基本的には使わない方向ですね」

――今回の『宇宙ショーへようこそ』という作品で、監督が一番伝えたいメッセージはどのあたりになりますか?

「伝えたい部分というと、実はこれがすごく難しいんですよ。映画を作るうえでのテーマは『友情』で、子どもたちの『友情』『仲間』というものをひとつの主軸にしているのですが、実は、大人の友情、壊れた友情みたいなものも別ラインで動いている。テーマという意味では、『友情』や『仲間』の使用前、使用後みたいな感じになっています。ただ、見てほしい部分となると、別にそこでなくてもいいのではないかと思っているんですよ」

――作品のテーマとは別のところにメッセージがあるということですか?

「今回、観てくださった方の反応をいくつか聞いてみたところ、ビックリするぐらい、同じ感想がなかったんですよ。『ここが面白い』とか、『あそこがいい』とか、『自分が一番泣いたのはココ』とか……、まあ見事にバラバラなんですよね。でも、そのバラバラなのが、僕はうれしかったんですよ。『宇宙ショーへようこそ』にはメインとなる子どもが5人いて、名目上は夏紀が主人公になっていますが、実は誰が主人公というような作り方はしていない。子どもたちはみんな、ポチですら、それぞれにちゃんと完結するドラマがあり、しかも、映画の中で完結するのではなく、さらに先へと続いていくような作り方をしているので、観る人の感受性によって、感情移入するキャラクターや、心に響くポイントが違ってくると思うんですよ。そしておそらく、自分の持っている引き出しにはまったところで感動している。それは決して間違いではなく、確実にすべて正解なんです。ここで泣いた、正解です。あそこで感動した、正解です。全部が正解なんですよ。観た人は、自分の感覚を間違いだと思わないで、すべてを受け入れてくれればいい。『宇宙ショーへようこそ』には、そういったポイントがたくさん転がっていますので、皆さんなりの感じるポイントを探してみてください」

――それでは最後に作品を楽しみにしているファンの方へのメッセージをお願いします

「待っていた方には、本当にごめんなさいというぐらい待たせてしまいました。本当に申し訳なかったと思っております。『宇宙ショーへようこそ』は、みんなのいろいろな想いが詰まっていながらも、まったく暑苦しい映画ではなくて、本当に無条件で楽しめるような作り方をしていますので、映画を観て、その中に散りばめられた楽しさを探してもらえればいいなと思っています。よろしくお願いします」

――ありがとうございました



劇場アニメ『宇宙ショーへようこそ』は、2010年6月26日(土)より新宿バルト9、シネ・リーブル池袋、渋谷シネクイント、立川シネマシティほかにて全国ロードショー。配給はアニプレックス。

(C)A-1 Pictures/「宇宙ショーへようこそ」製作委員会