ストーリーのバックボーンを感覚的に理解させる

――『宇宙ショーへようこそ』は、バトルシーンから始まり、その後一気にストーリーが展開していくわけですが、舛成監督の作品の場合、観ている側に考える暇を与えず、いつの間にか舞台背景を納得させてしまうといった印象があります

「僕の作品というよりも、あの感覚は、倉田英之の感覚かもしれません。たとえば『かみちゅ!』に関していえば、最初に『神様である』と言って、それをそのまま説明しないというのは、やっぱり英之君なんですよね。それで僕のほうは、そういったことを気にしなくてもすむ世界を、いかに作り出すかが仕事になるわけです。実は、『R.O.D』のときもそうだったんですけど、英之君とちゃんと意思の疎通をしないまま、コンテを切ったりするんですよ。事前にはすごく話をするんですけど、実際に演出をするときには、わざわざ確認をとったりしない。OVAの『R.O.D』を観ていただければわかるのですが、読子が初めて紙を使うときって、何の説明もないんですよ」

――たしかにいきなりですよね

「何のフリもなく、いきなり紙を使うんですけど、あれは説明があるとか、ないとかではなく、まったく英之君のシナリオ通りなんです。普通そういった場合、ちょっと初動をいれるなど、いろいろと考えた演出をするんですけど、僕もそういったことをいちいち説明するのが面倒くさくて(笑)。なので、ぱっと使っちゃう。それで観ている人に、『え?』って思わせちゃうほうが得だと僕は思っているんですよ。『かみちゅ!』もまったくそのままの流れで、英之君も説明するのが面倒くさかったんでしょうね(笑)。そのまま話を進めて、ちょっと"痛い子"と思わせたほうが面白いですし、そこに祀が加わって、ストーリーを展開させていくことで、ただの"痛い子"から、あれ? この子達、何か変わっているのかなと思わせつつ、最終的にはリアルな世界にシフトしていくんですよ」

――そういう世界なんだと、観ている人も納得せざるを得なくなりますよね

「そういう感覚というのは、お互いに意見を出し合って作っているから成立するわけで、だからベサメムーチョという集団になっちゃったんですよね(笑)」

――『R.O.D』のときと比較して、そのあたりの関係で変化してきたところはありますか?

「打ち合わせのときにできるだけ話をするというスタンスは変わっていないです。逆に『R.O.D』のときのほうがもっと話をしていたかもしれません。『R.O.D』では、このキャラクターはどちらの足から階段を上るか? みたいなところから話をしていましたから」

――かなり細かいところまで話を詰めていくんですね

「初めてというわけではないんですけど、一緒に作品を作っていくうえで、絵作りというのはこういうところから始まるんだということを最初に言っておきたかったんですよ。文章で書けば『階段を上る』で済むところも、絵にする場合は、どんなスピードで上るのかをはっきりとさせないといけない。右足から上るのか、左足から上るのか、それがキャラクターによっては験担ぎになっている場合もある。そういった細かいキャラ付けが必要だということを最初に話しました。別にキャラ付けというのは、決めつけてしまう必要はなく、そういう意識をもっているだけで、ずいぶんと変わってくるんですよ」

――シナリオでキャラがしっかりとできていると絵も動かしやすいわけですね

「後は僕がそれをきっちりと絵にすればいいだけですからね(笑)」

――『宇宙ショーへようこそ』に登場するキャラクターにも、劇中では描かれていない設定が裏にはたくさんあるのですか?

「それはもう山のようにあります」

――やはり映画の尺の中で、そのすべてを見せるというのは難しいですよね

「基本、感じてもらいたい、そのあたりに気づいてもらいたいという気持ちがすごくあって、そのためのネタは全部、作品の中に置いてあるんですよ。『宇宙ショーへようこそ』で、家族のところから学校に集まるまでのシーンをオープニングに持ってきているのは、この後、宇宙に行くことになる子どもたちのバックボーンをまず見せておきたかったからなんです。こういう生活をして、こういう家族に見守られている子どもたちが、家族というコミュニティから学校というコミュニティに入っていくところを、しっかりと見てもらいたかったんですよね」

――まず最初にバックボーンを感覚的に理解させるといった感じですね

「今回の映画で、すべての情報を一度に理解することはできないと思うんですよ。なおかつ、僕の映像作りではよくあることなんですけど、ある設定はまったく説明しなかったりする。劇中に出てくる『ペットスター』についてはほとんど説明していないですし、ネッポとポチの関係についても、そのバックボーンが説明不足になっていることはもちろんわかっています。会話などを通して、大人ならたぶん感覚的に気づくだろうという設定なんですけど、子どもには難しいでしょうね。でも、別に気づかなくてもかまわない。というのも、子どもたちの視点、子どもたちの主観で映画を動かしているので、『宇宙ショーへようこそ』は、子どもたちが気にしているところだけがピックアップされた映像だと思っていただいてもいいぐらいなんです。ただ、それだけだと、作品の世界観やストーリーを説明することができないので、それらを補完する意味で、大人のキャラクターたちによるドラマの中に世界観を配置するように作っているのですが、そこは子どもたちの視点の中にはほぼ映らないものなので、説明が足りなくなるのは当然なんです。それをあえて説明してしまうと、子どものたちのストーリーの流れが寸断されてしまう。それは映画として、絶対にやっちゃいけないことだと思うんですよ」

――子どもが気にしていないところは、知らなくてもまったくストーリー上、問題がないわけですね

「そうですね。だから、もし気になるんだったら、しっかりと観てください。実はほとんどのことが映画の中に描かれていますから。それでもわからないところ、描かれていないところについては、設定集が7月に発売されますのでそちらを読んでみてください(笑)」

――すごく読みたくなると思いますよ

「やはり、ポチとネッポ、ペットスターやマリーなどの裏話といいますか、サイドストリーをお話しすると、皆さんビックリしますからね。『そこまで作っているんですね』って。でも、全然映画には出てこないので、そこはぜひ設定集で(笑)」

(次ページへ続く)