第141回芥川賞・直木賞の選考委員会が15日、東京・築地の新喜楽で開かれた。芥川賞には磯崎憲一郎さんの『終の住処』、直木賞には北村薫さんの『鷺と雪』が選ばれた。贈呈は8月21日(金)、東京曾舘にて行われる。正賞は時計、副賞は100万円。

「一生小説を書いていたい」芥川賞受賞の磯崎さん、喜びの受賞会見

磯崎さんは1965年千葉県我孫子市生まれ。早稲田大学商学部卒業。1988年より会社勤務。『眼と太陽』(2008年文藝夏号)で第139回芥川賞候補。『終の住処』は、お互い30歳を過ぎてから結婚した夫婦の何十年かを、夫が振り返るというもの。夫である「彼」の視点で夫婦生活を辿りながら、「彼」が偶然であった人々、浮気、製薬業界の浮沈などが語られている。

東京曾舘で行われた記者会見で、磯崎さんは「今回、受賞のご連絡をいただけて、非常にうれしく思っております。このような大きな賞をいただけたことは勿論ですが、小説家としては、受賞によって"書く場"を与えてもらえるのが、大きな意味を持つのではないかと思っています」と、喜びを語った。また、「実は小説家の小島信夫さんと、誕生日が同じ2月28日なんです」と話し、「受賞によって、(小説を書いていく)チャンスを与えてもらえたことがありがたい。私の目標は、とにかく一生書き続けていくこと。小島さんを目標にして、90歳になっても小説を書き続けたい」と、将来の抱負を述べた。

「山田詠美さんが『小説でしか掛けない言葉で、知的に構築されている』と評価していたが、それに対してどう思うか」という記者の質問に対しては、「非常にありがたいことだと思います」と話した。「デビューの小説もそうですが、自分が小説で何ができるかを考えたときに、"時間"を書くことだと思ってきました。時間というのは、時計の針が進んだとか、そういった"時間"は分かりますが、その中にいる自分たちが感じる"時間"というのは、そういった(時計の針が進んだとかいうような)直線的な時間とは別のところにあるような気がしていて、それを言葉で表現すると小説にできるのではないか、と。そういう思いでデビューしてから小説を書いてきたので、そういう部分を評価していただけたのかなと思います」。また、ガルシア・マルケスの作品が好きだとのことで、「『百年の孤独』は、とらえどころのない"時間"をうまく表現している小説だと思います。少しでも、ああいう小説に近づきたい」と語った。

また、会社員として多忙な日々を送る中、小説を書いていることについて、「小説は、書きたくて書いています。自己実現とか、何かどうしても伝えたいことがあるというよりも、『小説』という大きな流れの力の一部になりたい。『使命感』というと大げさですが……芸術に奉仕していきたいという想いが強いです」。会社員は今後も続けていくという。「デビューした当時は、会社員と小説家という2足のわらじはだんだん大変になっていくかと思っていたが、やってみればやってみるほど、自分にとっては磯崎憲一郎という人間の生き方の見せ方の違いに過ぎず、実は同じことをやっているのではないかという想いが強くなってきています」と語った。

直木賞受賞の北村さん、候補6回目での受賞で「正直ほっとしました」

直木賞は、北村薫さんの『鷺と雪』。北村さんは1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第1文学部卒業。県立高校教諭を経て、作家となる。『スキップ』(1995年新潮社)で第114回直木賞候補。『ターン』(1997年新潮社)、第118回直木賞候補。『語り女たち』(2004年新潮社)、第131回直木賞候補。『ひとがた流し』(2006年朝日新聞社)、第136回直木賞候補。『玻璃の天』(2007年文藝春秋 秋刊)、第137回直木賞候補。『鷺と雪』は、戦前の日本を舞台に、女子学習院に通う士族令嬢 花村英子と女性運転手(ベッキーさん)が活躍するミステリー3部作の完結作。

北村さんは受賞について、「多くの人に支えられてきましたし、編集者の方たちの期待にこたえることができて嬉しく思っています」と、感想を述べた。北村さんがこれまでに直木賞候補となったのは6回。「最初に『スキップ』で候補に選んでいただきまして、こんな夢のようなことが、と思っていたのですが、まさか6回も選んでいただけるとは(笑)。候補に選んでいただけるような作品が書けたと思うと、非常に嬉しい」と語った。また、今回受賞の連絡を受けた感想として、「正直、やっぱり、ほっとしました。周りの方たちが喜んでくれて嬉しい」と述べた。

また、記者からは「北村さんは山本周五郎賞など選考委員もされていますが、受賞者に選ばれるのと、選ぶ立場と、どちらの立場が良いか?」という質問も。北村さんは「それは当然、賞をもらう方がいいに決まっていますが(笑)。選ぶのは、本当につらいです。自分がためされますから。しかし、そういうことでお役に立てるのでしたら、大変光栄だと思います」と話した。

「直木賞とは、北村さんにとってどういう賞か」という質問に対しては、「子供の頃から知っていた賞ですね。親が『今度はこれか』と話していたり、高校生のときに、『俺の友達が直木賞を取った』という先生がいらっしゃったり。非常に栄誉ある賞で、その末席に連なることができて光栄に感じております」と語った。