21日にテレビ朝日系で生放送され、関西地区で35.0%、関東地区で23.7%(いずれも平均視聴率。ビデオリサーチ調べ)という番組史上1位の高視聴率をマークした『M-1グランプリ2008』。敗者復活戦からの"刺客"の健闘、そして決勝初出場の"ダークホース"の優勝と大波乱に沸いた今年の決勝を、テレビには映らなかった出演者の様子を交えてレポートする。

NON STYLE(左から石田明、井上裕介)

8回目を迎えた今年のファイナリストはダイアン、笑い飯、モンスターエンジン、ナイツ、U字工事、ザ・パンチ、NON STYLE、キングコング(ネタ順)。8組中、モンスターエンジンからNON STYLEまでの5組が決勝初出場という新世代の躍進を感じさせる顔ぶれに、客席の期待と興奮は高まるばかり。会場は汗ばむほどの熱気に包まれていた。審査員は中田カウス、大竹まこと、オール巨人、渡辺正行、上沼恵美子、松本人志、そして大会委員長の島田紳助(スタジオ登場順)の7名。考え込むような表情で腕を組み、出場者のネタに見入る紳助、熱心にメモをとりながら審査に集中する巨人など、審査員席にも真剣勝負の緊張感がみなぎっていた。

8組が最終決戦進出をかけて上位3組のイスを争うファーストラウンドは、7年連続決勝出場を誇る笑い飯が、彼らの代名詞とも言える"Wボケ"のスタイルを「自ら茶化してみせる」(哲夫)不敵な勝負ネタで637点の高評価をもぎ取り、優勝候補との呼び声も高かったナイツが「すごい! 4分間の漫才に何個笑い入れとんねん(笑)」と松本を驚嘆させるほどボケを詰め込んだ漫才で640点をマークするなど、600点超えが続出。紳助も「今年はめちゃめちゃレベルが高い。正直言いますと、(採点の基準)はもう"好み"です。好きかどうかの評価しか残されてないぐらい出場者の力に差がない」とファイナリストたちの実力の高さに舌を巻くハイレベルな戦いに。そんな中、後半戦で大きなドラマを作ったのが、NON STYLEと敗者復活戦から勝ち上がったオードリーだった。

ファイナルラウンド進出3組はいずれも決勝戦初出場という波乱の展開

7番手に登場したNON STYLEは、テンポよく繰り出されるボケ、見る者をしっかりと掴みながらハイスピードで疾走する漫才で爆笑をかっさらい、644点を獲得。このとき暫定1位だったナイツを上回る高得点でいきなりトップに立った2人に、客席から大きなどよめきが起こった。上沼は「大阪で私の番組によく出てもらってるけど、この2人、フリートークはあんまりおもしろくない(笑)。初めて漫才を見て『やるねんな』とビックリした」とコメントしていたが、審査員がほとんどノーマークだった彼らから受けた衝撃は相当なものだったよう。CM中も興奮冷めやらず、NON STYLEへの評価を全員で話し合う様子が印象的だった。

そんなNON STYLEの勢いに待ったをかけるかのように現れたのが、昨年の王者・サンドウィッチマンを輩出した"敗者復活枠"で9番手に滑り込んだオードリー。突然決まった決勝の舞台にも、自信満々のキャラを崩さずに悠然と登場する春日のハートの強さ。さらに、ネタ中にセリフを噛んでしまったことすら爆笑に転化する腹の据わりようで「こんな漫才見たことない。噛んでおもしろいってどういうことだ!(笑)」と大竹を驚かせた2人は649点をマークし、なんとトップの座をNON STYLEから奪い取ってしまった。

この結果、ベスト3から転落した笑い飯が、西田の「思てたんと違うっ!」という迷言を残して惜しくも敗退。波乱の最終決戦はナイツ、NON STYLE、オードリー(ネタ順)で争われた。ナイツはファーストラウンドで使ったボケを巧みに取り入れて大きな笑いに変える心憎い演出を見せ、NON STYLEは早いテンポでボケを連打して会場を爆笑の渦に。オードリーは春日の怪演でMCの今田耕司や上戸彩までも笑い転げさせるなど、3組は最後の熱演でそれぞれの持ち味を出し切った。

残すは最終ジャッジの発表のみ。CM中、舞台に勢揃いして運命の瞬間を待つ3組はソワソワと落ち着かない様子を見せていた。ドキドキを抑えるかのように左胸に手を当て続けているNON STYLEの石田は、不安でいっぱいといった表情。ナイツの塙は、両腕を広げてみたり、上下させてみたりとしきりに手を動かしてる。漫才中の動作をなぞって、気持ちを鎮めようとしているのだろうか。そんな中、ただ1人落ち着いていたのがオードリーの春日。オンエアに乗らないCMの間も、胸筋をこれでもかと誇示するあの姿勢のまま、揺るぎないキャラで客席に笑いを振りまいていた。やはり春日、ハートは相当強いようだ。

そしてCMが明け、ついに今年の王者が発表に。審査員7名のうち5名の票を獲得し、圧勝で王座に輝いたのはNON STYLEだった。発表の瞬間から大泣きしていた石田を支えようと、涙をこらえて気丈に振る舞っていた井上。だがオンエアが終わった途端、張り詰めていた緊張がほぐれて感情があふれ出したのか、床に崩れて男泣きを。その姿に、客席から「おめでとう!」という祝福の言葉が大合唱となって飛び、過酷な激戦の舞台は一転、温かいムードに包まれた。

会見では紳助から愛のあるダメ出しが!

さて、優勝決定の直後のコメントで巨人が「2、3年前から決勝に来ててもおかしくなかった」とその力を評価していたNON STYLEは、2000年の結成以来、関西を拠点に活動していたコンビ。関西の新人賞レースを総なめにし、若い層を中心に圧倒的人気を誇っていた。だが今年4月にそのすべてをなげうって上京。これまで作り上げてきた漫才のスタイルも捨て、この1年は「どんなに関西で賞をとっても、どうしても手が届かなかった」(井上)悲願のM-1優勝に賭けたという。東京ではまだ知名度も低く、「(上京してからは)仕事がバンバン入る、ということがまずなかった」と自嘲気味に笑っていた2人。しかし、優勝を決めてからは仕事のオファーが殺到しているとか。M-1王者の夢を果たし、自信をつけたNON STYLEが、上沼や紳助からダメ出しを受けた? "フリートーク"で花を咲かせる日も遠くはないはず。新M-1チャンピオンの今後の活躍に注目だ。

NON STYLE プロフィール

石田明 1980年2月2日生まれ。大阪府出身。井上裕介 1980年3月1日生まれ。大阪府出身。よしもとクリエイティブエージェンシー・東京所属。2000年5月にコンビ結成。2005年に第26回ABCお笑い新人グランプリ審査員特別賞を受賞したのを皮切りに、第35回上方お笑い大賞最優秀新人賞、NHK新人演芸大賞、第41回上方漫才大賞優秀新人賞、MBS新世代漫才アワード優勝、第9回爆笑オンエアバトルチャンピオン大会優勝など、お笑いコンテストの数々の賞を受賞した。現在は、ルミネtheよしもとで活躍するほか、『ほんわかテレビ』(読売テレビ)にレギュラー出演中。