新聞が読みにくくなった。もらった名刺の文字が見えない。パソコン画面が見づらい。近頃、こんな経験はないだろうか? 年齢とともに衰えを感じさせる目。パソコンや携帯の普及など生活環境の変化もあって、目の老化の低年齢化も進んでいるという。歳だから、目が悪くなるのは仕方ない。だが、気をつけねばならないのは、その背後に隠れた恐ろしい病気だ。ふだん何気なくやり過ごしている症状が、実はあなたの大切な目を襲う恐ろしい病気の兆候かも知れないのだ。老化する目とどう付きあえばよいか。健康な目のためには、どう暮らせばよいか。さらには恐ろしい目の病気の兆候まで、眼科の権威である若倉雅登先生(井上眼科病院院長)に伺った。

井上眼科病院院長の若倉雅登先生

目の細胞は一年で5,000個ずつ消えていく

──最近目が悪くなったのは、歳のせいだから仕方ないと、つい考えてしまうのですが……?

若倉「それは、ある意味でいい考え方だと思います。目だけではなく、体のどこでも若いときと同じように活躍できるわけではありません。たとえば、目が60歳になっても、20代30代のときと同じように見えるかというと、そうはいかないのです。視力を測れば同じでも、その内容とか解像度とか動体視力とか、色んなことで劣ってくるわけですよ。それはもう間違いありません」

「たとえば、20歳以降は神経節細胞という網膜の神経細胞は一年に5,000個ずつ減ってきます。ですが、元々100万か120万あるから最初はあまり影響を感じません。でも60歳位になると、たとえば40年間に5,000個ずつ減って、計20万個減ったわけですよね。100万あったものが80万になったわけですよ。そのようにずっと減っていくと、歳を取ってきたときの5000個はとても響くわけです」

── ということは、歳をとるとどうなるかを知っておくことが大切ですね?

若倉「そうです。どうなるか、という具体例ですが、まず歳を取ってくれば誰でも分かっているように老眼になるわけですよ。どんな人でも阻止できません。また歳を取ってくれば、涙の吸収力が悪くなります。それから、もちろん眼精疲労という問題もあります。これは病気の名前ではなくて、症状の総称。頭痛とか腹痛と同じで。そこには、色々なものが含まれています」

「眼精疲労があると、目の疲れ感、頭が痛い、目が痛いという他に、目が充血したり、涙も多くなったり、目ヤニが出たり。若い人も眼精疲労になりますが、若いときと同じように頑張って使い過ぎてしまい、目が疲れて生理的範囲を超えてしまった中高年に、一層そういうことが起きやすいわけです。ただし、もうひとつの可能性は、本当に病気を持っていて、知らずにそのまま過ごしていて、それで眼精疲労がきていることもあります」

── つまり、歳相応の老化は当然あるものだと理解したほうがいい?

若倉「そう、理解したほうがいい。恐いのは、その中にある病気の部分。病気であっても、治せる病気と治せない病気とあります。たとえば白内障のように治せる病気がある。緑内障のようにコントロールする病気もある。黄斑変性症のように回復はしないが、なんとか進行をくい止めようという病気もある。それぞれの病気の性格、運命を知っておくということはとても大事なことです」