米デトロイト、ミネアポリス/セントポール、メンフィス、東京、蘭アムステルダムをハブとし、1日約1,400便を運航する、世界最大級の航空会社、ノースウエスト航空会社(以下「NWA」)。NWAの中に日本人旅客に向けたインフライト サービス リプレゼンタティブ(In-Flight Service Representative 以下「IFSR」)という機内サービス部員がいることをご存知だろうか。今回はNWAのIFSRに注目し、同社の魅力を語ってもらった。

インタビューをお願いしたのは、IFSRとして2年目を迎える鈴木美穂さん

まず、NWAのIFSRとはどんな仕事なのだろう。

鈴木「IFSRの仕事は多岐にわたりますが、主に機内のコミュニケーション業務とマーケティング業務が中心です。例えば日本人のお客様で、英語が苦手な方の不安を解消するために、ご質問がありましたら日本語で受けさせていただいたり、何か困っていらっしゃるようでしたらこちらから声をかけさせていただくということを行います。対応はメインキャビンを含めて、すべてのお客様にいたします。またビジネスクラスのお客様には、私はどんなスタッフかを、自己紹介をかねてご挨拶しながら、お食事のご希望を伺います。一言でいえば『機内で楽しく、リラックスできる空間をつくる仕事』ではないでしょうか」

NWAには現在、成田、大阪、名古屋を合わせて229名がIFSRの役職に就いている。そんなIFSRには、ユーザーとNWAとをつなぎあわせるマーケティング業務も課せられているそうだ。

インタビューはお休み中に、無理をいって実施した。「明日のフライトはサンフランシスコです」(鈴木)と笑顔で語る

鈴木「マーケティング業務は主に、マイレージプログラムのご紹介と勧誘業務、機内販売活動があります。さらに機内のお客様に、NWAのさまざまなキャンペーンをお知らせしたり、『きょうのNWAのフライトはいかがでしたか?』と聞きながら、お客様からいただいたお声をフライトごとに記録して、会社へ報告もします。例えば、お客様から食事メニューの提案があったとき、その内容を会社に伝えると、会社も臨機応変に対応してくれます。ですから、機内のコミュニケーション業務とマーケティング業務の2つがIFSRの仕事の大きな柱となります」

NWAの機内食は、自社工場でつくられている。そのため、乗客から上がった意見にも迅速な対応が可能だという。要望がすぐ反映されるのはIFSRのやりがいにもつながるのだろう。鈴木さんはさらにIFSRへの思いを語ってくれた。

鈴木「機材の新しさ、機内の装備の良さ、美味しいお食事……そうしたハード面だけがよくてもお客様は満足されないと思うんですね。やはりクルーや私どもが機内の雰囲気をいかに良くしていくか。それによって差が出ると思いますし、お客様のフライトの印象もまったく変わってくるでしょう。単なる接客業ではなく、私はクリエイティブ業だと思っています。IFSRの仕事には難しさもありますが、そのぶんやりがいもある。毎回緊張感を持ってできる面白い仕事です」

機内の雰囲気が良い、というのもNWAの魅力だと鈴木さんは言う。そんなNWAらしさを感じられる実際にあった機内でのエピソードを伺った。

鈴木「シアトルから日本に帰る便で、日本人のあるお客様が、『私、このフライトが終ったら死んでもいいです!』とおっしゃられたことがあります。『初めてのアメリカ旅行で、(行きの)NWAのクルーがフレンドリーに話しかけてくれた。帰りの便でもNWAクルーたちが同じように優しく接してくれるので、これ以上うれしいことはない』と。それをクルーに伝えたら、クルーたちも喜んでくれて、機長にも休憩時にその話をしました。すると、普段は機長しか見ることができないルートマップを、『フライトが終ったら、そのお客様にこれを記念に差し上げて』と言ってきました。私からお客様にそのマップをお渡ししたら、涙を流されて喜ばれました。このことは、私のなかで今でも印象に残る出来事ですね。日本人のお客様にNWAの良さを肌で感じていただけたのがうれしかったです」

こうしてNWAの良さとIFSRのやりがいを語る鈴木さんだが、実はNWAは中途入社だ。IFSRの役割と彼女の"なりたい像"が重なり、"今"がある。

「機内サービススタッフは、年に一度、ミネアポリスの本社で研修を受けています。安全確認や緊急時の脱出方法などの試験もあります」

鈴木「前職は、素材メーカーで4年間営業を担当していました。学生のころから旅行が好きで、旅行業界に興味があったので、もう一度チャレンジしてみたいと思い、NWAの採用試験に挑みました。IFSRは他のエアラインにはあまり見られない役職で、独特のポジションだと思います。IFSRの存在は、NWAがアジア路線にいかに力を入れているかのひとつの形でもあり、アジアのお客様をいかに大切にされているかということの表れでもあります。私は、日本人として必要とされているポジションにぜひ挑戦してみたいというのと、ひとつの飛行機に乗る300~400人のお客様を相手に、1~2人のIFSRが対応するという、責任の重大さとやりがいに惹かれてIFSRに挑戦しました」

鈴木「IFSRの訓練では、受験勉強よりも勉強したと思います(笑)。機内のファシリティーがどうなっているか、などです。機内サービス経験者でIFSRを志願する人が多い中、私は業界未経験からのスタートでした」

厳しい訓練に耐え、実際にIFSRとして現場へ飛び出しても、スキルアップのための探究心は忘れない。

鈴木「外国のお客様から突然、ボクシング界の"亀田3兄弟"のことを聞かれたとき、どう説明していいか少し悩んだことがありました。外国人クルーに日本文化を伝えることももちろんですが、外国のお客様からも日本の"今"について質問を受け付けることが結構多いんです。そういう質問に応えられるように、通訳ガイドの資格を将来的にはとりたいと思っています。そのために常にフライトには参考書を持ち歩いています。(参考書は)日本のことをわかりやすく説明できるように書かれているので役に立ちますね。自分で考えるだけだとやっぱり足りない部分があるので……」