横浜トリエンナーレをはじめ、秋に向けて新たな美術展やイベントがあちこちで開かれるが、忘れてならないのは森美術館で開催中の『アネット・メサジェ : 聖と俗の使者たち』展だろう。ぬいぐるみや布、編み物といったどこか手芸的アプローチで紡ぎ出される彼女の作品はカワイイけどグロテスク。まさに"グロカワ"と言える作品に込められた"メサジェ=メッセージ"とはどんなものか? 会期は11月3日まで。

メサジェは2005年のヴェネツィア・ビエンナーレにおいてフランス館代表として機械仕掛けの大規模なインスタレーションを発表し、金獅子賞を受賞した。本展は、フランスを代表するアーティストであり、いまやフランスのみならず、現代美術の世界にあって欠かせない存在と言えるアネット・メサジェを本格的に紹介する日本初の大規模個展となる。

アネット・メサジェ、日本初の大規模個展が森美術館で開催されている

『噂』2000-2004/マラン・カーミッツ・コレクション、パリ一見してただ単にかわいいぬいぐるみが並んでいるだけのように見えるが、アルファベットでRUMEUR=噂と読める。噂に翻弄される人間の在り様を物語っているという

会場に入ってまず驚かされるのは、無数の動物たちが鏡の板の上に載せられ、天井から宙に吊り下げられた『彼らと私たち、私たちと彼ら』。ぬいぐるみの仮面を被った動物たちは一見して剥製のようなリアリティがあるが……。横の部屋のガラスケースに納められた『寄宿者たち』シリーズの作品を見ると、その答えが出る。『寄宿者たちー歩行』は小鳥の剥製ひとつひとつに手編みのセーターを着せたもので、メサジェは、たまたま公園で踏んでしまった雀の屍骸を見て、まるで我が子を慈しむような視点から、鳥たちを愛でるように作品の素材としていったという。

そう、吊り下げられた動物たちは、作り物ではなく剥製に色とりどりの仮面を被せたものなのだ。

メサジェは「動物たちはなにかのミーティングのために集まったもので、素顔を見られたくないので、仮面を着けている」と語っている。この事に気付くと自分は希望もしていないグロテスクで、サディスティックな世界に迷い込んでしまったかと、この会場に足を踏み入れた事を一瞬後悔してしまう。メサジェは動物たちに対する愛情のようなものをもって、動物たちを素材にしているようだが、その扱い方は端から見ていると、小さな子どもの行いのようにも見える。幼い時に昆虫を標本にするだけに飽き足らず、糸に繋いで遊んでいた友達を思い出す。

『彼らと私たち、私たちと彼ら』2000 それぞれの動物たちがのせられている板は裏側が鏡になっており、見上げるとそこには自分の姿がうつしだされている。まるでその鳥はあなただ、と言われているようだ。2000年にアヴィニョンのパレ・デ・パップ(教皇宮殿)で開催された「ラ・ボーテ(美)」展のために制作された