「絶対ヒットする」という確信

『花より男子』のテレビドラマシリーズの演出を手がけ、今回の映画を監督した石井康晴氏はこう語る。

石井「絶対に当たるんじゃないかこのドラマ、と確信できたシーンがあるんです。パート1の第1話なんですが(会場にVTRが流れる)、道明寺がつくしのお弁当をぶちまけてしまう場面です。つくしが、地面に落ちたエビフライを見る。お弁当を作ってくれたお母さんの顔を思い出し、怒りがこみあげる。…そしてこの顔!!(キッと道明寺をにらむ、つくしの顔を指しながら)この顔見たときに、この子はすごいなと思って。視聴者の方は、次週も見たくなるんじゃないかな、と確信したんですよ。こうして、牧野つくしを中心に、道明寺らF4がまわりを固めてドラマが進む方程式が、しっかりできあがった感じがしたんですね」

ドラマシリーズのVTRを放映しながら、講義は進められた

監督の確信どおり、パート1は前述の通り大ヒットを記録。それを受けて制作されたパート2には、「前作より面白くする」という強い思いが込められていた。最終話のクライマックスの場面では、なんと武道館を貸し切り、一万二千人ものエキストラを集めた。

石井「どんなことでもNOと言わない、優秀なスタッフに囲まれていると、(満員の武道館、その真ん中に立つ道明寺とつくしのVTRを見て)こんな場面ができるんですよ。もう本当に異様な雰囲気で、役者さんも気持ちが乗っていました。このあと、花沢がつくしを抱き上げるんですが、このシーンは、僕は男なんですが、やってもらいたいなあ、なんてドキドキしましたね(笑)」

映画『花より男子ファイナル』にこめられた挑戦

こうして、パート2の放送を終え、瀬戸口氏と石井氏には、原作の『花より男子』の世界は描ききった実感があったという。それでも作り上げた、映画『花より男子ファイナル』の企画は、どのように立ち上げられたのだろうか。

瀬戸口「ホームページ等で、続編を望む熱烈な声があったんですけれど、一番慎重だったのは実は僕らでした。胸を張って続編をお送りできるようになるまではやらないと決めていたんです。で、打ち合わせを重ねて、この形ならいける! というのを見つけだし、今回の映画になったんです。ドラマを見ていない人や男の人も楽しめるよう、サスペンスやアクションの要素を入れました。主人公たちがアメリカ、香港など海外を飛び回る設定にしたので、『花より男子 ワールドツアー』っていうタイトルも考えました(笑)。ただ、不安も大きかったですね。パート1のときは、期待されていなかった分、気楽だったのですが、結果を出して当たり前になってきていたので。ライバルは自分たち自身でした」

学生時代はバックパッカーだったという石井監督。その経験ならではの思いが、映画にはしっかりと込められていた。

石井「日本の若い人たちに、世界を恐れないでほしい、と伝えたいんです。また、暗い事件があまりにも多いので、愛情の大切さも訴えたかった。テレビではなく、映画をやるんだ! という気負いは全くなかったですね。以前『クロサギ』という映画を撮ったとき、俳優の山崎努さんから『お前の映画をやれ』と言われたんですよ。映画だ映画だ、と騒いでいるのは映画屋だけだ、やりたいようにやれよ、と。それで楽になりましたね」

本年ナンバーワンの実写映画

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宣伝活動も独特だった。主要キャストが、チャータージェットで日本の五大都市を回るイベントを行ったときは、各地で熱烈な歓迎を受けた。公開前日には、『花より男子・特別編』と題し、「花男」の世界に、主題歌を歌う嵐のメンバーが登場するドラマを放映した。このドラマも、タイトなスケジュールの撮影だったそうだが、パート1の頃から「花男」を支え続けるスタッフの面々は、「きつくなければ花男じゃない」と頑張りを見せた。 そして、映画は6月28日に公開。前売り券の売り上げは、東宝史上最高となる24万枚を突破。現在までで約73億円の興行収入をあげている。映画のヒットについて、瀬戸口氏はこう語る。

瀬戸口「邦画で5億円を超える制作費の映画を、業界では特Aクラスと呼んでいますが、今回は制作・宣伝で10億円かかっています。通常なら、興行成績だけでその3倍いけば、もとは取れるといわれています。『花男』では、最低30億円はいかないとな、と思っていました。ちなみに日本では、年間で500本の映画が作られるそうですが、そのうち興行収入が20億円に達するものは、20本あるかないからしいです。このベスト20の興行収入を足したものが、映画界全体の9割から9割5分を占めるそうですね。実写では、50億円の興行収入を超える映画は、年にあるかないかだと言われています」

こうして、大ヒット作『花より男子』は、ついに有終の美を飾った。お話をうかがうことで、改めてこの実写版「花男」シリーズの面白さが明らかになったことと思う。それはまず何よりも、的確なキャスティングにある。原作のキャラクターに命を吹き込む、実力派の役者陣を揃えることができた。第2にストーリーの爽快感だ。牧野つくしが、道明寺らF4たちとの金銭的な「格差」を乗り越え、いじめられっ子から恋愛の対象に至るストーリーを、石井監督が「ヒットを確信した」という見事な演出力によって表現できた。さらに、パート2のラストにおける武道館のシーンや、映画におけるアメリカや香港などの海外ロケをはじめとする、派手なスペクタクル性も大事だった。F4たちのセレブ感に説得力を持たせるため、必然的に金銭的に負担のかかる作品となったが、瀬戸口プロデューサーをはじめスタッフの努力により、実現させることができた。これらの要因に加え、イケメンたちに囲まれるつくしの逆ハーレム状態の学園生活という設定の面白さも、女性からの人気に火をつけた要因だろう。この実写版『花より男子』シリーズは、間違いなく、日本のラブコメ史上に残る傑作だと言える。

最後に、将来プロデューサーや監督を目指す若者に向けて、メッセージをいただくことができた。

石井「普段からスタッフに言っていることですが、理想を持つのが大事かな、と思います。じつは学生のときに考えていた、何をやりたくて、どう伝えたいのかというようなことが、一番大事なんです。実際に働いて日常に追われると、ほとんどの人がそれを忘れます。10年20年先も覚えていると、楽しく仕事ができるんじゃないかなと思います」

瀬戸口「中学生のときに見た『男女7人夏物語』の、ハッピーエンドじゃないラストに衝撃を受けて、ドラマって凄いなと思ったんです。その思いが現在の仕事につながっているのが、幸せだなと思うんですが、大事なのは夢や情熱を強く持ち続けていることで、それが人を動かすんです。いろいろなスタッフの思いが詰まったものが作品なので、情熱だけは忘れないでいてほしいなあと思います」