8月2日よりアニメ映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』が公開される。先日公開された『崖の上のポニョ』に続く夏の大作アニメとして、注目を集めるこの作品。ここでは見どころをまとめて紹介しておきたい。
監督は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『イノセンス』などを手がけ、国内外から注目を集める押井守。原作は推理小説を中心に活躍する作家、森博嗣の同名小説で、森の透明感あふれる語り口を活かした映像化が行われた。脚本は『世界の中心で、愛をさけぶ』『春の雪』に参加した伊藤ちひろ。そのほかのメインスタッフには演出に西久保利彦、音楽に川井憲次、キャラクターデザインと作画監督に西尾鉄也といった押井作品の常連が顔を揃え、制作も数々の押井作品を手がけるProduction I.Gによって行われた。
<ストーリー>
いくつかの大戦を経て、つかの間の平和を手に入れた、今とよく似た時代。平和を実感する為に、人々は「ショーとしての戦争」を求めた。戦闘機で戦うのは、《キルドレ》と呼ばれる年をとらない子供たち――。欧州の前線基地「兎離洲(ウリス)」に配属されてきた函南優一(CV: 加瀬亮)には以前の記憶がない。優一が知っているのは、自分が《キルドレ》であるということと、戦闘機の操縦の仕方だけ。優一は自分を待ち続けていたかのような女性司令官、草薙水素(CV: 菊地凛子)の視線に戸惑いながらも、彼女に惹かれていく。
大物作家を原作に迎え、若手女性脚本家とタッグを組むなど、周囲から押井監督の新境地として注目が集まる本作品。監督自身もインタビューなどで若者へのメッセージを発したり、作品の内容も「年をとらない子供たち=キルドレ」の恋愛を軸に据えたりと、女性や若者を意識した作風にシフトしているのが大きな特徴。陰鬱なムードの前作『イノセンス』からは一転して、目の覚めるような青空のビジュアルが前面に押し出されていることからも、その違いは一目瞭然と言える。
その一方で従来の押井ファンへの目配せも忘れていない。戦闘機が壮絶な空中戦を演じるアクションシーンでは、武器・兵器に造詣が深い押井監督のこだわりが存分に発揮されており、戦闘機「散華」のコックピットから見える空の景色の臨場感には思わず息を呑む。
菊地凛子、加瀬亮、谷原章介、栗山千明といった旬の俳優が声を演じたことも話題を集めている。有名人のアニメへの起用については懸念する声もあるが本作に関して言えば、どのキャストもキャラクターのイメージに合った繊細な演技を見せており、その心配は無用と言えるだろう。
音響は6.1chドルビーサラウンドで立体的に構築され、大きな見どころの空中戦が同時に聴きどころともなっているが、それ以外にも日常の静かなシーンで聴こえてくる音に耳を澄ませてみたい。煙草を口にふくむ草薙の吐息、細かな仕草とともに聴こえる衣擦れの音、板張りの室内を歩くブーツの足音など、非常に注意深く音がつけられており、それによってかけがえのない日常の重みが無意識のうちに観客の心に刻まれていく。「いつも通る道だからって景色は同じじゃない」、と作中で独白する主人公・優一の気分を下支えする演出だ。
音響と並んで作品世界を描く上で欠かせない背景美術も、メインスタッフがアイルランドとポーランドでロケハンを行っただけあって入魂のデキ。公式サイトによれば、試写を見た元サッカー選手の中田英寿がモデルとなった都市の名前を言い当てたというから、その再現度の高さがうかがい知れる。過去にも実写映画『アヴァロン』の撮影をポーランドで行い、ヨーロッパ映画へのシンパシーを度々口にする押井監督だけあって、本作はハリウッド映画とも、日本映画とも異なる独特の粋な風情を漂わせている。アニメファンだけでなく、ヨーロッパ映画ファンにもオススメしておきたい。
静かな緊張感と、どこか居心地のよい空気に満ちた本作は、押井守の新境地と呼ばれるにふさわしい仕上がりとなっている。本作の第一の観客である若い人々にとって、平日の学校を抜け出して見に行くのにおそらくこれほどふさわしい作品はないだろうと思う。もちろん、サボタージュを推奨しているわけではなく、ニュアンス的なものとして受け取ってもらいたい。恋愛の痛みや悲壮な心情を描きながらも、驚くほど風通しのよい『スカイ・クロラ』とはつまり、そうした気分の映画である。
森博嗣の原作小説は中央公論新社から単行本、ノベルス、文庫の3バージョンで中央公論新社から発売中。こちらはキャラクターデザインの西尾鉄也がカバーを描き下ろした文庫版 |
原作単行本と作中の戦闘機「散香」のダイキャストモデルを封入したBOXセットも同じく中央公論新社から発売中。こちらは「スカイ・クロラバージョン」 |
(C)2008 森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会 |